柔軟な働き方に関する検討会報告

どうにか年末進行を切り抜けた(と思う)。某シンクタンクの研究会報告書が2本あって(残念ながらともに非公開)いずれも年末締切であり、さらにプライベートでは日本キャリアデザイン学会の用務がけっこう大変でこちらは一部2週間くらい締切を過ぎたりしていた(すみません)こともあって、さすがにブログ書いてるとそんな場合かと怒られそうな状況だったので自粛しておりました。いや単に怠惰なだけじゃねえのかという声はあちこちから聞こえて来そうな気は多分にしますが、つか毎日のように呑み会入れるからいかんのだとは自分でも相当に思う。まあなんとか報告書のほうは無事入稿したので(いや1月24日から27日にかけて缶詰で袋叩きにされる予定なのだが)久々にブログなど書きたいと思います、とまずは見苦しく言い訳して、さて。

一昨日になりますが厚生労働省の「柔軟な働き方に関する検討会」報告が公表されました(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000189535.html)。ちょっとしたクリスマスプレゼントですね。
周知のとおりことの起こりは働き方改革であり、この検討会でも初回に「柔軟な働き方に関する検討会開催要綱」という資料(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000179557.pdf)が提示されています。それをみると、まずは

 テレワークは、時間や空間の制約にとらわれることなく働くことができるため、子育てや介護と仕事の両立の手段となり、多様な人材の能力発揮が可能となるものである。
 また、副業や兼業は、新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、そして第2の人生の準備として有効である。

働き方改革実行計画の記載がそのまま引かれ、その上で「働き方改革実行計画を踏まえ」「働き方改革を進める上では、こうした柔軟な働き方がしやすい環境を整備することが重要であることから」「ガイドラインの策定等に向けて、…検討会を開催する」となっています。
ということで、報告書もメインはガイドラインであり、テレワークについては雇用型と自営型の2つ作られていますので、副業・兼業とあわせて3つのガイドラインが示されています。
いずれも労働時間管理や安全・健康管理をはじめとする服務管理にあれこれと問題があるということでかねてから進みにくい実態があったわけですが、ことテレワークについては情報通信技術の進歩と関連サービスの拡大にともなって実態のほうが見切り発車的に進展しているわけです。実際、会社からあてがわれた端末には365日24時間メールが送られてくるし、いたるところ公衆Wifiの電波が飛んでいてモバイルがあればどこでも仕事ができるし(いや都心のスタバとかだと往々にして重すぎて使えねえという話もあるが)、モバイルがなくたって東京都心部ならそこらのフェデックスキンコーズに飛び込めば快適に働けるわけで、たしかに便利にはなったし生産性も上がったとは思うのですが私くらいの年配者にしてみると恐ろしい時代になったものだと思わなくもない。外回りの15分とか30分の空き時間に和田倉噴水公園でぼんやり思索にふける時間の幸福とかふと思い出したりね。
愚痴はともかく、最近ではテレワーカーが持っている端末のデスクトップをリモートで上司が本社から監視できたり、一定時間以上キーボード入力がないと上司にアラームが送られたりするシステムが提供されていて助成金も出るらしく、往時であればそんなんまさに労働者の監視であって組合が黙ってないだろうと思ったわけですが今日すでにそんな時代でもないようです。もはや「営業に出ちゃったら客先回りしていても喫茶店でスポーツ新聞読んでてもわからない」なんて話も過去のものとなりつつあるようで、事業場外みなしが使えなくなるわけだよなあ。まあ監視社会もいい点はたくさんあるし悪いたあ言わないがしかし若干の感慨がないではない(まだ愚痴っている)。
ということで「雇用型テレワーク」のガイドラインを見てみますと、労働時間関係でいくつか興味深い記述がみつかります。たとえば労働時間の把握については「(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する)ガイドラインでは「労働時間を記録する原則的な方法として、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録によること等が挙げられている。」とあり、その上で「テレワークに際して生じやすい事象」として「いわゆる中抜け時間」を上げ、「労働者が労働から離れ、自由に利用することが保障されている場合には、その開始と終了の時間を報告させるなどにより、休憩時間として扱…うことが考えられる。」と事実上自己申告による運用を認め、続けて「通勤時間や出張旅行中の移動時間中のテレワーク」については「移動時間に情報通信機器を用いて業務を行うことが可能である。これらの時間について、使用者の明示又は黙示の指揮命令下で行われるものについては労働時間に該当する。」と踏み込んでいます。つまり、情報通信機器を使用したテレワークについてはその記録の客観性や詳細性に一定の評価を与えて、それと整合的であれば自己申告を認めようということだろうと思われます。逆に言えば通勤時間に紙の資料を読んだり心中で企画を考えたりするのは労働時間に該当しないという話だと思われ、情報通信機器使用の有無で線引きしたように見えます。まあたしかに線引きをするならそこかなあと思えなくもない話でもあり、おそらくは先行して進んでいる実態とも整合的なのでありましょう。
もうひとつ目をひくのが上で「使えなくなるわけだ」と書いた事業場外みなしについてかなりのスペースを割いて記述している点です。もともとこれについては「無線やポケットベルにより随時使用者の指示を受ける場合」には事業場外みなしは適用できないという通達(昭63.1.1基発1号、婦発1号)があり、「無線・ポケベル」という時代が過ぎても、以下のような理解が一般的になっていました。

…最近では携帯電話や携帯端末を使う労働者が増えていますが、これらにより随時指示を受ける場合も同様といわざるをえないでしょう。したがって、厳密に言えば現在では、外回りで働く営業職やセールス職の労働者のほとんどはみなし制の適用対象とはならないことになります。
(独)労働政策研究・研修機構ウェブサイト「労働問題Q&A」
http://www.jil.go.jp/rodoqa/01_jikan/01-Q05.html

今回ガイドラインは「無線・ポケベル」以降の長足の技術進歩を織り込んだということになるのでしょう。内容をみると、テレワークに事業場外みなしを使えるのは「情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと」かつ「随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと」を要するとなっています。
具体的には、まず「情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと」については「例えば、回線が接続されているだけで、労働者が自由に情報通信機器から離れることや、通信可能な状態を切断することが認められている場合」や「会社支給の携帯電話等を所持していても、労働者の即応の義務が課されていないことが明らかである場合」が該当するとされています。普通に読めば、自由に端末の前を離れたりログオフしたりできる、携帯電話が鳴っても場合によってはすぐに出なくてもいいことが認められているのであれば事業場外みなしが使えるように読めます。また、「随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと」についても「「具体的な指示」には、例えば、当該業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示することや、これら基本的事項について所要の変更の指示をすることは含まれない。」とされていますので、従来の理解に較べるとかなり緩やかなものになっているように見え、これなら事業場外みなし使えるなというケースも多いのではないでしょうか。これが使えるとなるとテレワークの普及を相当に後押しすることになると思われますので、そうだとすると歓迎したいと思いますが、まあある意味、自由に中抜けできるなら中抜け時間を自己申告して休憩扱いするのも事業場外みなしにしてしまうのもそれほど変わらないというのも案外実態なのかもしれません。どうなんでしょうか。ホワイトカラー・エグゼンプションが嫌いな人たちはたぶん事業場外みなしも嫌いなんじゃないかと思うのですが(偏見)、メディアとかも含めてあまり騒ぎになっていないところを見ると、実はやはり使えない制度になっているから安心ですという話なのか、まあテレワークならみなしでもいいだろうと思われているということなのか…。
安全・健康管理については、労災保障の取り扱いについては、以下のように書かれています。

 テレワークにより勤務を行う労働者については、事業場における勤務と同様、労働基準法に基づき、使用者が労働災害に対する補償責任を負うことから、労働契約に基づいて事業主の支配下にあることによって生じたテレワーク勤務における災害は、業務上の災害として労災保険給付の対象となる。ただし、私的行為等業務以外が原因であるものについては、業務上の災害とは認められない。
 在宅勤務を行っている労働者など、テレワーク勤務者については、この点を十分理解していない可能性もあるため、使用者はこの点を十分周知することが望ましい。

要するにテレワーカー(特に在宅勤務)は「在宅勤務だから怪我しても労災じゃないよね」という誤った理解をしている人が多そうだから使用者から「仕事中なら自宅でも労災」ということを「十分周知」してくださいね、ということだと思われ、ということはあれだな結局はこれも自己申告だな。まあ労災は無過失責任ですし、特に情報通信機器使用の在宅勤務中となるとまずデスクワークであって使用者の過失が認められる余地は(特に負傷の場合は)かなり限定的でしょうから、まあ自己申告でかまわないだろうというのも理解できる話です。
次に自営型テレワークですが、テレワークなので場内外注のような偽装請負の問題は発生しにくいものとは思われます。いっぽうでクラウドソーシングのプラットフォーマ―が林立してなにかともめ事になっているという話もあり、そもそも報酬が低きに失するという問題意識もあるわけで、こうしたガイドラインを定める意義は大きそうです。
そこでその報酬額についての記載を見ると、

 報酬額については、同一又は類似の仕事をする自営型テレワーカーの報酬、注文した仕事の難易度、納期の長短、自営型テレワーカーの能力等を考慮することにより、自営型テレワーカーの適正な利益の確保が可能となるように決定すること。
 なお、自営型テレワークに係る報酬は、一律に時間給又は日給に換算し得るものではないため自営型テレワーカーの報酬と雇用労働者の賃金を厳密に比較することは困難であるが、注文者が標準的な自営型テレワーカーの時間当たりの作業量から想定される時間当たり報酬額を勘案した上で、最低賃金を1つの参考として自営型テレワーカーの報酬を決定することも考えられる。

自営型テレワーカーの定義が「注文者から委託を受け、情報通信機器を活用して主として自宅又は自宅に準じた自ら選択した場所において、成果物の作成又は役務の提供を行う就労をいう」ということなので、そういう仕事限定だったらこういう発想もありえなくはないのかもしれません。ただまあ普通に考えて自ら原材料を調達して加工して納入するといった自営であればおよそ考えられない話でもあるわけで、やはり自営であればマーケットプライスに従うのが自然だというのは、自営型テレワーカーにもあてはまる話ではないかと思います。この手の話は、過剰供給を温存してかえって報酬を上がりにくくなる結果を招く可能性もあるでしょうし、無意味とはいいませんが限界はあるように思います。私としてはクラウドワーカーの中間団体が報酬はじめ商慣行の改善に関与できるようなしくみとルールを作れないものかと考えているのですが、どうなんでしょうか。
兼業・副業については、労働時間管理や安全健康管理に加えて、労務提供への支障(副業があるから残業できないとか副業で疲れて生産性が落ちるとか)や機密保持・利益相反の面での懸念もあり、さらに難しい問題です。そして残念ながら、今回のガイドラインはその問題に対処しているとはなかなか申し上げにくいように思われます。以下見ていきましょう。
ガイドラインはまず兼業・副業の実態とメリット・デメリットを記載し、続けて企業に対して「裁判例を踏まえれば、原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当である。」「副業・兼業を禁止、一律許可制にしている企業は、…労働働者の希望に応じて、原則、副業・兼業を認める方向で検討すること」を求めています。
具体的な内容は、例の「モデル就業規則の改定」で見ることができます。これ自体はただの(単なる・無料の)資料であってなんらの効力もないわけですが、しかしなにを意図しているのかはよく現れています。
まず、現行モデル就規はこうなっています。

(遵守事項)
第11条 労働者は、以下の事項を守らなければならない。
(1) 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと。
(2) 職務に関連して自己の利益を図り、又は他より不当に金品を借用し、若しくは贈与を受ける等不正な行為を行わないこと。
(3) 勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと。
(4) 会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと。
(5) 在職中及び退職後においても、業務上知り得た会社、取引先等の機密を漏洩しないこと。
(6) 許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。
(7) 酒気を帯びて就業しないこと。
(8) その他労働者としてふさわしくない行為をしないこと。

(懲戒の事由)
第62条 労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。
(1)〜(6) (略)
(7) 第11条、第13条、第14条に違反したとき。
(8) (略)
2 (略)
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000118951.pdf

例によって機種依存文字(○付数字)は括弧付数字に変更しました(以下同じ)。まあ比較的一般的な定めと申せましょう。この11条6号を削除して、次のような新条文を入れようとのことです。

(副業・兼業)
第65条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。
3 第1項の業務が次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
(1) 労務提供上の支障がある場合
(2) 企業秘密が漏洩する場合
(3) 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
(4) 競業に当たる場合

現行モデル就規は64条まであるので、新条文ということで便宜的に第65条としたものでしょうか。さすがに最後にこれを置くのではないと思う。さらにこれに加えて、新モデル就規の「解説部分に記載する事項のイメージ」として以下のとおり記載されています。

・労働者の副業・兼業を認めるか、就業規則にどう規定するかは、労使間で十分に検討する必要があること
・届出を必要とする趣旨(自社、副業・兼業先両方で雇用されている場合には、労働時間通算に関する規定(労働基準法第38条、通達))が適用されること等)
・副業・兼業に関する裁判例
長時間労働など労働者の健康に影響が生じるおそれがある場合は、(1)に含まれると考えられること

ということで許可制から届出制にするということのようです。禁止・制限事由は4点の限定列挙であり、一般条項(「その他(1)〜(4)に準じる場合」といったもの)が置かれていないところを見ると、会社による禁止・制限をかなり抑制的に考えているように思われます。
しかしこれでは問題がありすぎであり、まず「自社、副業・兼業先両方で雇用されている場合には、労働時間通算に関する規定(労働基準法第38条、通達))が適用される」と労働時間通算原則を見直すつもりはないことを宣言しつつ、「だから届出を必要とするのだ」と恩を売っているわけですがおよそそれで足りるはずがありません。
なにかというと、ガイドライン本文では「使用者は、労働者が労働基準法の労働時間に関する規定が適用される副業・兼業をしている場合、労働者からの自己申告…により副業・兼業先での労働時間を把握することが考えられる。」と書いているわけです。であれば、少なくともモデル就規65条2項に続けて「また、労働者は、他の会社等での労働日、当該日の始業時刻及び終業時刻、労働時間を、会社に正しく報告しなければならない。」くらいの内容を定める必要があるでしょう。ここで「当該日の始業時刻及び終業時刻、労働時間」と妙に細かく刻んでいるのは理由があり、つまり割増賃金を計算しようと思ったら1日につき8時間を上回って労働した時間や深夜業に従事した時間を正しく把握する必要があるからです(まあ深夜業はこれについてはそれを行わせた使用者が把握していれば足りるといえば足りますが)。
上でも出てきた「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」でもその前身の四・六通達にしてもあれほど自己申告を目の仇にしてきたのにここでは容認ですかという嫌味はともかくとしても、実は実務的にはまだこれでも足りません。
ということでいつもの話ですが、現行の行政解釈では、割増賃金の支払義務を負うのは「通常は、当該労働者と時間的に後で労働契約を締結した事業主」であり、それは「後で契約を締結した事業主は、契約の締結に当たって、その労働者が他の事業場で労働していることを確認した上で契約を締結すべき」だからとされています。そのいっぽうで、行政解釈は「ただし、甲事業場で4時間、乙事業場で4時間働いている者の場合、甲事業場の使用者が、労働者がこの後乙事業場で4時間働くことを知りながら労働時間を延長するときは、甲事業場の使用者が時間外労働の手続を要する」「その労働者を一定時間以上使用することにより、時間外労働させることとなった使用者が違反者となる。必ずしも1日のうちの後の時刻の使用者でもないし、また後から雇入れた使用者でもない。」としているわけです。さらに休日労働という問題もあり、ただでさえ休日労働の特定には面倒な問題がある(これは以前書いたhttp://d.hatena.ne.jp/roumuya/20170702#p1)上に、たとえばA社が労働者に所定休日労働を命じていたところB社がその後別の所定休日に休日労働を命じた場合、行政のいう「甲4時間乙4時間」のように「知りながら」の判定が容易ではなく(B社は当然知らなかったと主張し、A社は労働者にB社への申告を指示したので知っていたはずだと主張するなど)、どちらが法定休日労働になるのか特定できないとかいう話は考えられるわけです。こうなると、およそ「労働者からの自己申告…により副業・兼業先での労働時間を把握する」だけですむ問題とも思えず、企業の人事部署が連絡をとりあい、当該労働者のどの労働時間を時間外・休日労働としてどちらが割増賃金を支払うのか、相当に煩雑な調整が必要となるだろうことは目に見えています。でまあ本人の自己申告と兼業先が把握している労働時間が常に一致するとはおよそ思えず、ましてや、2社兼業の1社または2社がフレックスタイム制や変形労働時間制を適用していた場合や、3社以上で兼業していた場合などなどを想定すると、まあ実務担当者にとっては泥沼というか詰んでるよねえ。なにしろこれ刑事罰付の強行法規なんですよ?(いやさすがにこの状況では犯意を否定できそうではあるが)。
しかもこれでもまだ終わりではなく、社会保険料については就業先2社でともに社会保険加入の場合には合計賃金に対する保険料・掛金を各社の賃金額で按分して納入する(納入先は労働者が選択できる)こととなっていて(まあ手間としては原則年1回ですが)つまり労働時間だけでなく賃金額まで共有する必要があり、これまああまりうれしくないよねえと思えば人事担当者としては普通の神経ではないかと思いますが、さらに健保組合や厚年基金がある場合(料率が法定とは異なる場合も多い)にはどうやって調整するんですかとかいったルールは当然ながらなく、企業間の調整でやってくださいよという話かもしれませんがもうどうにも救いようがない。いや本当になにやら行政としてはこのあたりについては各企業の自助努力で対応してほしいという姿勢だとの話も洩れ聞こえてくるわけですがどうしろというのさ
これに加えて健康管理の問題というものもあって闇はまだまだ深く、ガイドラインはこう書いているのですが、

 副業・兼業者の長時間労働や不規則な労働による健康障害を防止する観点から、働き過ぎにならないよう、例えば、自社での労務と副業・兼業先での労務との兼ね合いの中で、時間外・休日労働の免除や抑制等を行うなど、それぞれの事業場において適切な措置を講じることができるよう、労使で話し合うことが適当である。

いやこれ本当にやれっていうの?というのもガイドラインはこれに続けて「使用者は、労働契約法第5条に、安全配慮義務…が規定されていることに留意が必要である。」とわざわざ書いているわけですよ(まあ「労働者の副業・兼業先での働き方に関する企業の安全配慮義務について、現時点では明確な司法判断は示されていない」とも記されてはいるのですが…)。つまり労働時間と賃金に加えて職務の内容まで就労先の企業相互に共有しなければならない(ここに至ると他社での深夜業の把握も必要になりますね)ということで各企業の負担はきわめて重くなり、「労使で話し合うことが適当」なんて呑気な話でもないでしょう。もちろん長時間労働抑制も健康確保も大事なことは間違いないわけですがしかしできることとできないことがあるだろうと。兼業・副業が本当に一般化したら、かなりの大人数についてこれをやらなければいけなくなるわけですから…。
ということで、現状では仮に厚労省のモデル就業規則を採用するとしても(まあ採用しなければならないというわけではさらさらないのだが)、行政自ら「長時間労働など労働者の健康に影響が生じるおそれがある場合は、(1)に含まれると考えられる」と書いているわけなので、まあ時間外・休日の割増賃金が発生するような兼業についてはこれにあたるとして禁止するのが現実的な対応になるかなあ。ガイドライン(というか働き方改革実行計画だが)は「新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、そして第2の人生の準備」とか美しいお話を語るわけですが、現実に兼業を解禁したらその大半は追加的な収入を目的とするものになるだろうことは目に見えているわけで、となるとやはり長時間労働になることも避けて通れないはずでしょう。やはり「いい兼業」と「そうでもない兼業」を企業としても意識せざるを得ないわけで、なかなか、容易ならざる取り組みのように思われます。