公取が人材と競争政策に関する検討会を開催

雇用政策タグでいいのかどうか悩ましい。公正取引委員会の競争政策研究センターが人材と競争政策に関する検討を行うため「人材と競争政策に関する検討会」を開催するそうです。委員名簿には労働の専門家の名前もいくつかありますね(今回は大内伸哉先生のお名前はありませんが)。

 終身雇用の変化やインターネット上で企業と人材のマッチングが容易になったことなどを背景として,フリーランスや副業など就労形態が多様化し,雇用契約以外の契約形態が増加している。技能人材など一部職種については,需給が逼迫しているとの指摘がある。

 就労形態を巡る上記の環境変化を踏まえ,使用者の人材獲得競争等に関する独占禁止法の適用関係(適用の必要性,妥当性)を理論的に整理するため,「人材と競争政策に関する検討会」を設置する。
 検討会においては,主として,複数又は単独の使用者による引き抜きの防止,賃金の抑制に関する協定の締結,転職・転籍や取引先の制限といった競争を制限する可能性のある行為に関して,内外の実態・判例,労働関係法制における規律の状況,一般的な財とは異なる人材の獲得競争の特殊性,当事者の自治の状況,使用者による人材投資を促進する必要性等を踏まえつつ,独占禁止法や競争政策上の課題を理論的に整理する。…
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h29/jul/170712.html

最初の部分を読むとクラウドソーシングなどの委任、請負関係について検討するのかと思ったのですが必ずしもそうではないようです。米国では(これは上記の省略された部分でも紹介されていますが)すでに数年前にグーグル、アップル、インテルアドビシステムズをはじめとする錚々たるIT企業のビッグネームがIT人材の引き抜き防止・賃金抑制を協定して違法とされ、巨額和解に追い込まれるといったことが起きており、わが国ではいまのところ表立って大きな類似案件はなさそうですが、まあ予防的に検討しておこうということなのでしょうか。
むしろ公取は、わが国についてはスポーツ庁がオブザーバーで加わっているようにかなり古くからあるプロスポーツ選手(と球団等)の問題(いや江川事件っていつだったっけと思って調べてみたら1978年でもう40年近く前なんですね)や、さらに古く50年以上前の映画製作・配給会社による締め出しの件が担ぎ出されているように芸能人(とプロダクション)の問題といったものが念頭におかれているようです。まあ芸能人については最近もSMAPとか能年玲奈とかの案件があったので古くて新しい問題ということでしょうが、プロスポーツではこのところ移籍やドラフト会議で大きなもめ事というのは起きていないのかなあ。
芸能人についてはSMAPの一件のときに書きましたので繰り返しませんが、プロ野球でのもめ事が減ってきたように思えるのは、1993年以降フリーエージェント(FA)制度の導入とその条件の緩和、逆指名制度(名称はさまざまに変更されましたが)の導入といった取り組みが進んだことも大きな理由でしょう。前者については金銭補償や人的補償もルール化されていてそれなりに「カネでカタをつける」形になっているともいえましょう。後者については2007年に廃止されて現在に至っていますが、それでも大過なく経過しているのは各球団が選手の希望に一定の配慮を行った指名を行っていることと、各球団の経営努力によってかつてのように読売や阪神などの一部球団に選手の希望が集中することが少なくなってきたからでしょうか。まあそれでも読売の菅野智之選手や長野久義選手のような事態も起きてはいるわけですが、どうやら一部の球団に「一定の配慮」に否定的な指名態度が見られるとか見られないとか。他にも問題はあり、これはまだ具体化していないようですがいわゆる「田沢ルール」(日本のアマチュア選手がNPBを経由せずに海外球団に入団した場合、退団後2年(高卒選手は3年)間NPB球団に入団できない)はいずれ大きな問題になりそうです。
ということで、経営維持・戦力均衡のためにはドラフト制度が必要というのはわかりますし、「田沢ルール」にしてもそのおかげで私たちは日本ハムファイターズの大谷選手の活躍を楽しむことができるわけですが、しかしやはり職業選択の自由や人身拘束の禁止といった労働の基本的な価値観に鑑みると、こうした制約はなるべく少ないに越したことはないでしょう。でまあプロ野球は芸能界に較べればそれなりにマシであるようには見えるわけで、私としてはここは声を大にして日本プロ野球選手会の貢献を指摘したいところです。労働組合である選手会が、対等性を確保しつつNPBサイドと協議しながら現行制度を作り上げてきたことで、それなりに運営の改善がはかられてきたのではないでしょうか。選手会は現在も米国のルール5ドラフト(翌季必ず25人枠に入れることを条件に他球団のマイナー契約選手を金銭獲得できる)のような制度の導入を働きかけようとしているとのことで、大いにその活躍に期待したいところです。
そこで最初に戻りまして、過去も何度か書いたように私としては最近収入の低さと不安定さがとみに指摘されているクラウドソーシングも含めて、委託とか請負とかいった形態で就労する人たちに関するルール、特に適切な集団的プロセスのルールを整備することが必要ではないかと思っており、この研究会の議論がそうした方向に進むことを期待したいと思います。