1円配でも「株主重視」?どこまでやれば「従業員重視」?

さて、連合の「見解と反論」に戻りまして、「非正規労働者を解雇してまで利益を配当に回すという経営を「雇用の安定に努めてきている」と言うのでは、到底、経営者の言う「雇用の安定」を信用することはできない。」ということで、これもやはりややわかりにくいのですが、文脈からするとこの「解雇」は雇い止めその他かなり幅広いものを指しているようです。とすると、要するに「無配になるまで雇用削減はすべきでない」、雇用削減の前にまず株主への分配をゼロにするべきだ、ということになるのでしょうか。まあ、連合としてはそれが「マクロの配分の歪みに対し、株主重視・従業員軽視の経営姿勢をあらため、バランスのとれた公正・公平な配分に是正する」ということだと考えているのでしょう。とはいえ、無配になるまで非正規雇用の雇い止めをしてはならない、というのが本当に「バランスのとれた公正・公平な配分」なのかどうかは異論もあるところでしょう。この論でいくと、無配になるまで仕事のない非正規雇用の契約更新・延長をし続けない限り「株主重視・従業員軽視の経営姿勢」だということになってしまいます。ということは、非正規雇用を一人でも雇い止めすれば無配でも「株主重視・従業員軽視」の経営姿勢であり、1円でも配当しさえすれば仕事のない人を全員抱え込んでも「株主重視・従業員軽視」の経営姿勢ということになります。わが国には株主重視の企業があふれかえっているというわけで、株主はさぞかしご満足のことでしょう。そのわりには株価はさえない動きが続いていますが…。
私自身は、12月17日のエントリでも検討しましたが、現在の「急激な業績悪化、雇用減にもかかわらず配当は維持」という状況はやや株主への分配が手厚すぎるのではないか、「かつての日本企業は株主を軽視しすぎ」という批判への対応がいささかオーバーシュートしているのではないか、という感想を持ってはいますが、しかし「無配になるまで雇い止めは不可」というのも、さすがにバランスを失しているのではないかと思います。どこがいいバランスなのかは、人により立場によって意見が異なるでしょうし、難しい問題だと思いますが、できるだけ関係者がwin-winになるようなバランスを模索していく必要はありそうです。
なお、連合は「「報告」は外国人労働者の受け入れについて単純労働を含めた移民を受け入れるよう主張している」と述べていますが、現実の「報告」の記載は以下のようなものです。

 人口減少社会が本格的に到来する中、中長期的に国の活力を保っていくためには、国内にある労働力を最大限活用していくことに加えて、海外からの人材を受入れることが避けて通れない課題である。
 これまでわが国では、専門的・技術的分野の高度人材の積極的な受入れを推進してきたが、欧米諸国に比べ遅れをとっている状況にある。今後は、この取組みをさらに強化するとともに、将来高度人材となりうる留学生の受入れ拡大・就業促進に努める必要がある。これらに加え、一定の資格や技能を有する人材を幅広く受け入れ、その定着を図っていくことも重要となる。
 そのためには、在留資格の拡大や要件緩和、柔軟な運用などが求められる。また、看護師や介護士については、経済連携協定のスキームによって、多くの制約の下、受入れを行なっているが、今後は、必要な人材を柔軟に受け入れることができるような制度設計を進めるべきである。さらに、外国人研修・技能実習制度についても抜本的な見直しが必要である。
 そのうえで、受け入れた人々が日本社会に円滑に定着していくことができるように、日本語教育、雇用や就労形態のあり方、社会福祉の適用など、包括的な社会統合政策を実施する必要がある。このような法制面や行政面の整備を含めた、総合的な「日本型移民政策」を本格的に検討すべき時期にきており、国民的な議論を早期に開始することが求められる。
日本経済団体連合会『2009年版経営労働政策委員会報告 労使一丸で難局を乗り越え、さらなる飛躍に挑戦を』から)

これが「単純労働を含めた移民を受け入れるよう主張している」ということになりますか…。まあ、読めなくもないのかもしれませんが…。ただ、「報告」にははっきりと「人口減少社会が本格的に到来する中、中長期的に国の活力を保っていくためには、国内にある労働力を最大限活用していくことに加えて、海外からの人材を受入れることが避けて通れない課題である。」と書いてありますので、連合の「外国人労働者等の契約打ち切りや雇い止めが生じている現在の状況でどう受け入れろというのか。」という指摘は的外れと申せましょう。