ようやく一息ついたのでブログなど書こうと思います。時あたかも春季労使交渉たけなわであり、経済教室などのネタもあるにもかかわらずこの話かよと思われるかもしれませんがバスケットボールのリーグ統合に関する話です。かなり具体的な構想が示されたようで先月末の日経新聞にかなり詳しい記事が出ていました。
長年停滞していたバスケットボール男子のリーグ統合問題。今回は大きく動きそうだ。旗振り役は、国際バスケットボール連盟(FIBA)が設けたタスクフォース(特別チーム)の川淵三郎チェアマン。サッカーのJリーグ創設時にも振るった剛腕に、期待と不安が交錯する。
…12日、bjとナショナルリーグ(NBL)に川淵氏が新リーグの私案を披露した。2016〜17年シーズンに、Jリーグと同じ1〜3部制へ移行。1部参加の条件に、5千人収容のアリーナの確保と選手の最低年俸を1千万円に設定することを挙げた。
アリーナを確保できそうなクラブはわずか。大企業の後ろ盾がないbj勢には最低年俸も酷な条件だ。…
…川淵氏が掲げる理想には賛同の声も多い。サッカーに次ぐ登録人口60万人を持ちながら「見るスポーツ」として未熟なのは、観客席などアリーナが貧弱だから。稼ぐリーグへ、ハード整備から始める方向性はホームスタジアムを最初に義務付けたJリーグと同じで論理的だ。…
タスクフォースは3月4日、1部リーグへの参加要件などを決める。私案に近いものになる見込みだが、アリーナや最低年俸などの高いハードルは今後、現実的な基準に近づけるとみられる。火中の栗を拾った形の川淵氏が、どんなかじ取りを見せるか。
(平成27年2月28日付日本経済新聞朝刊から)
ということで、記事中に一表でまとめられた川淵氏の案はこんな感じです。
○5000人以上収容のアリーナを数年内に確保
○主催試合の8割以上をホームアリーナで行う
○選手の最低年俸は1000万円以上
○企業チームは独立法人化
○20歳以下の選手を1クオーターに必ず1人起用する
○3期連続で赤字決算にならないこと
(注)1部リーグは12〜20チーム、2部は16〜24チーム。3部は残りのチームで構成し、地域別の可能性も
正直な感想としてかなり高いハードルだなという感じです。以下検討していきましょう。なお数字の関係についてはうろ覚えの部分も多く、いま現在ウラ取りはしていませんので誤差があると思いますがご容赦ください。つかなんでこんなことに詳しいんだろう私。
まず「5000人以上収容のホームアリーナ」については、なるほどそこから来たかという感じなのですが、しかしたしかにプロスポーツとして興業を成り立たせるためにはまずはそれなりの「箱」が必要だというのはたしかにそのとおりです。そこそこ経営が成り立つだけの集客をしようと思ったらこの程度の規模が必要だという計算もできているのだろうと思います。実際、プロスポーツというのは大観衆が興奮してボルテージが上がるから楽しいという側面もあるのでしょう。都市対抗野球も大応援団がなければあそこまで楽しくないかもしれません。
とはいえこれはなかなか高いハードルでもあり、どのくらい難しいかというとわが国でバスケットボールの最も主要なアリーナである国立代々木第2体育館でも収容人数は4,000人そこそこです。しかも内訳はスタンドの固定式は3,000もなく、スタンド下に収納されている移動式の座席が数百で、あとはアリーナ上にパイプ椅子などを並べてまあ4,000人入れますという算術になっていたはずです。実際、現状NBLの首都圏の試合は大田区総合体育館や墨田区総合体育館が頻用されており、まあどちらもたいへんに新しくて快適に観戦できるのですが、キャパシティは前者がまあ3,000から目一杯増やして4,000くらい、後者はさらにマイナス1,000くらいのものではないかと思われます。
もちろんもっと大きいアリーナはあることはあり、さいたまスーパーアリーナは世界有数の大規模施設ですし、国立代々木第1体育館や東京体育館はスタンド固定席だけでも5,000〜6,000席はあって10,000人収容できるわけですが、ではなぜ今使われていないかと言うとそんな大きなアリーナ使っても集客できないからこらこらこら、まあ利用料金が高いという問題が大きいわけでさいたまスーパーアリーナの利用料金はベース料金で1日500〜600万円くらいだったと記憶しており、当然ながらゴールポストやスコアボード、10分計や24秒計といった試合に不可欠な備品から、放送設備や照明その他もろもろについてすべて別途課金されるわけですからそうお安いものでもありません。。
もちろんそこまで大きくなくてもいいわけで、首都圏で5,000人以上収容できてバスケットボールの試合が行われているアリーナというと千葉ポートアリーナや川崎市のとどろきアリーナということになり、6,000〜7,000のキャパシティはあります。有明コロシアムはもっと大きいと思うのですがバスケットボールではあまり使われていません(バレーボールはやっているのでできないことはないのだろうと思いますが。bjのファイナルとかここだったかな)。これらがそれほど頻繁に利用されないのはアクセスの悪さという難点を抱えているからだろうと思うわけですが、しかし後述しますが地方都市に較べればまあたいしたことはない。またこのクラスのアリーナであっても利用料金はまあ100〜200万円にはなるはずなので、2,000人くらいの集客だと会場利用料だけで観客一人当たり1,000円とかになってしまうわけです。
さて首都圏でこんな調子なので地方もそれほど楽ではなかろうと思われるわけで、私がわかるのはまあ愛知県(笑)ということになるわけですが一応新幹線からも見える日本ガイシアリーナというのがあって10,000人以上収容できると思います(が、バスケットボールが行われている形跡はありません。フィギュアスケートだと満員になるんですけどねえ)。他の大都市もまあだいたい同じような調子と思われ、政令指定都市クラスであれば5,000〜10,000人収容の体育館はあることはあるのですが、現時点では大きすぎてバスケットボールには使われていないのが実態ということのようです。
さらにローカルになるとどうかというと、これは主に国民体育大会のおかげではなかろうかと思うわけですが県庁所在地にはそれなりに立派なアリーナがあるわけですが、しかし5,000人というとどうでしょう。私もかつては全国各地津々浦々の体育館(まあほとんどは千葉−神戸間ですが)に出向いたわけですが、政令指定都市以外で5,000人規模の体育館といわれて思い出すのはぐんまアリーナとエムウェーブくらいかなあ。もちろん私が知らない・行ったことないだけでいくつもあるのかもしれません。たとえば静岡県にはエコパアリーナや浜松アリーナがあり、三重にも大きいアリーナがあると聞いたことがあります。まあ自治体の経済力次第というところなのでしょうか。それでも限界はあるわけで、実際、恵まれた例として思い出すのは愛知県豊田市のスカイホール豊田で、毎年体操の国際大会も行われる新しくてたいへんに立派な体育館であってバスケットボールもさかんに行われていますし私もかつて頻繁に出入りしていたわけですが、これが6,500人と言って威張っているわけですがスタンドの固定席はまあ3,000というところだったはずです。エコパアリーナや浜松アリーナも立派ですが同じくらいの規模でしょう。
あとローカルの難点はアクセスがはなはだ悪いというところで、やはり地方だと駅前にありますという例はあまりなく、丘を切り開いて作った総合運動公園のメインコンテンツのひとつとして野球場やテニスコートと並んで建っているケースというのが多いわけです。そういう事情なのでバスは駅前から必ず出ており、かつ試合日には増便されたりもするので不便で困るというほどではありませんが、しかし5,000人を毎試合輸送するとなるとまた事情が違うでしょうし、観戦するほうも毎試合通おうかと言うことになると負担は軽くはありません(まあ毎試合見る人はそんなことものともしないかもしれませんが)。トラックがバンバン走ってる幹線道路沿いのバス停で埃を浴びながら寒風に吹かれまたは炎天に焼かれながらバスを持つ(私の経験ではぐんまアリーナがこのパターンでしたが今はどうか知りません)というのもまあそれほど愉快なものではないわけで。主に保守経費の事情と思われますがけっこう大きなアリーナでもスタンドも土足禁止でスリッパにはきかえてくださいという例(私の経験では川越運動公園総合体育館がこのパターンでたぶん2,000人は上回る収容能力がありながら全館土足禁止・飲食禁止。これまた今はどうか知らん)もあり、さすがに試合で使われることはなくなったかなあ(女子ではまだ時にあるようですが)。10年くらい前だと空調のないアリーナでの試合というのもあった(スカイホール豊田ができる前の豊田市体育館はこれだった)わけですがさすがにそれでは興業にならんか。
あとそれと関連してもうひとつ心配なのがアリーナの保全で、3面4面取れるような大きいアリーナであればスタンド席は少なくてもアリーナにゴムシートを敷いて養生してたくさん椅子を並べれば数を稼ぐことはできるでしょう(これは実際に普通に行われていることでもあります)。とはいえまあホームゲームの8割ということは20試合くらいは想定されているはずで、かつ興業として集客したいとなれば枝豆か焼鳥を食べながらビールの一杯も呑みたいという人も増えてくるはずであり(それが重要なご商売にもなるわけで)、もともとそういうことが想定されていないアリーナだと保守上の問題は出てきそうな気もします。実際、現状でもスタンド席のみ飲食可と言うアリーナもみかけるのはそうした事情でしょうし、それがここでスタンド固定席の数を気にしている理由です。ついでに書きますと飲食はできても販売はしていないアリーナというのもときどきあり、たとえば上記の大田区総合体育館もそうで、会場でビールを飲みたければ買って持って行く必要があります(持ち込みはOKで座席にはビールの缶置き場みたいなものもあるのですが)。墨田区総合体育館は1階にレストランが入っていて試合日にはそこがご商売でビールのテイクアウト販売をしています(ビールはないがアスレチックジムの売店もあります)が、しかし本格的な興業でということになると運用が面倒になりそうです。
さて問題はバスケットボールのプロチームのホームタウン・フランチャイズというのはbjの例をみてもわかるとおりNPBのプロ野球チームもJ1のクラブもない地方都市というのも想定されているわけで(もちろん首都圏や大阪圏くらいの集積があれば野球やサッカーと共存できるかもしれませんが)、しかしそういう地方都市で5,000人のスタジアムというのは現状相当大変そうだというところにあります。実際、地域密着のプロチームということで(実態としてはリンクの企業チームじゃねえかという気はかなりするのですが)成功例とされているリンク栃木の場合でも、本拠とする宇都宮市民体育館(いまやブレックスアリーナという通り名が広まっていてまことにご同慶)の収容人数は3,000人程度でしょうし、併用している鹿沼フォレストアリーナはさらに小規模でしょう(しかも鹿沼駅からバス30分)。唯一bjからNBLに移って健闘している千葉ジェッツが本拠としている船橋アリーナも4,000人くらいのはず(しかも最寄駅が東葉高速線船橋日大駅とアクセスが悪い…と言ったら沿線住民に怒られるか)。bjローカルでアリーナが確保できそうなのは、前記浜松アリーナを使っている(しかしホームゲームの半分くらいですが)浜松・東三河くらいかなあ。信州がエムウェーブを使っているかと言うと全然使ってないわけで。
それやこれやで「数年以内に確保」という猶予措置が設けられているということでしょうが、いかに地域密着を訴えてもプロバスケチームのために5,000人のアリーナを新設するという奇特な自治体もなかなかないでしょうから、既存施設を改装するなりなんなりして5,000人規模まで持って行くとか、しかし現実的にできるのでしょうか。まあ、いずれにしてもチームというかオーナーの本気度を試すという意味ではこのくらい高いハードルでいいのかもしれません。
さてアリーナの話がずいぶん長くなってきて疲れましたので今日はこのあたりまでにしておきます。いや最低年俸の話とかに入らないと労働の話にならないのですが。