バスケットボール新リーグ・2

一息ついたと書きながらまた数日バタバタしたわけですが、前回の続きでバスケットボールの新リーグ構想について書いていきます。前回同様あらためてのウラ取りはしていませんので誤りなどがあろうかと思いますがご容赦ください(ご指摘いただければ幸甚です)。まずはこれを主導している川淵三郎氏の構想試案を再掲します。

○5000人以上収容のアリーナを数年内に確保 
○主催試合の8割以上をホームアリーナで行う 
○選手の最低年俸は1000万円以上 
○企業チームは独立法人化 
○20歳以下の選手を1クオーターに必ず1人起用する 
○3期連続で赤字決算にならないこと 
(注)1部リーグは12〜20チーム、2部は16〜24チーム。3部は残りのチームで構成し、地域別の可能性も

まず前回の続きでアリーナの話ですが、前回は「5,000人以上収容のアリーナ」の困難さについて書いたわけですが、「主催試合の8割以上をホームアリーナ」というのも実はそれほどやさしいハードルではありません。
もちろんここはプロリーグである以上はこだわるべきところではあります。つまり現状の企業チームによる日本リーグはいずれの種目も競技振興や教育の観点もあってか全国各地を巡業することが多いわけで、実際ローカルの試合のほうが地元の中学・高校の運動部員が多数集まって大賑わいなどということも珍しくありません。バスケットボールの場合はかつて長らく開催地のバスケットボール協会が勧進元になって会場設営から入場券の販売などを仕切ってきた(女子はたぶん現在でもそうであって入場料も試合によって異なる)という歴史もあって呼ばれればどこでも行ったわけです。またこれも各種目に共通と思いますが企業チームということで当然ながら企業城下町での開催が多くなり、女子バスケットボールなどは半分は愛知県でやっているのではないかと思うくらいです。
ではプロチームなら問題ないかというとそうでもなく、たとえばまた栃木を引き合いに出しますとブレックスアリーナでの試合はホームゲームのまあ半分くらいであり、前述した鹿沼フォレストアリーナでの試合が相当数ありますし、小山とか県内の他都市にも出向いています。レバンガ北海道も道内あまねくという感じですし、bjリーグもホームの都道府県と都市を両方指定することになっていたと思いますがチーム名はほとんどが都市名ではなく都道府県名(まあ福島とか富山とかどちらでもあるチーム名も多いのですが)であって、まあ地域密着と言っても都市レベルではなく都道府県レベルというのが実情なわけです。
これはもちろんバスケットボールは野球やサッカーほどには競技場の制約がきつくないというか、5,000人はともかく2,000人クラスのアリーナならあちこちにあるという地方自治のなせるわざということでしょうが、まあJリーグの経験からみればだからだめなんだという話かもしれません。とはいえこうした現状からはそんなに簡単な話でもないかなと。
さて次なる大問題は最低年俸1,000万円という話で、周知のとおり公表ベースのサラリーキャップNBLが1億5,000万円、bjが6,600万円であり、まあbjは発足当時の数字なので少しは上がっているでしょうが、いずれにしてもチーム合計の上限がこの数字です。1チームの選手の上限が15人、標準的なサイズはまあ11〜13人くらいなので、bjは完全にアウトです。実際bjリーグの場合はA契約でも相当数の選手が最低年俸である300万円に張り付いていて(拘束度を下げれば最低年俸のないB契約も可能)副業しないと生活できないという話もあって、競技力向上を考えれば少なくとも日本トップレベルがそれでいいのかと言われればいいわけがないというのはそのとおりです。ただbj日本のトップじゃないよねえと言われればまあそれもそのとおりであり(たとえば日本代表に選ばれているbjの選手は海外挑戦予定とか例外的な選手だけ)、4日のチーム説明会でも川淵氏は「新法人に入りたいと思ったときに排除することは絶対ない」と述べたそうなので(平成27年3月5日付日本経済新聞朝刊)、最低年俸1,000万円は1部リーグ参加チームに限った話であって3部リーグは従前の300万円で差支えないという話なのかもしれません。ちなみに同じ記事では最低年俸の詳細は25日のタスクフォースで議論されるとなっています。
いっぽうNBLはといえば、企業チームはそもそもチームによってはまだ昔ながらの社員選手がいて賃金などは他の一般社員と同じなので、まあ現役の間はなかなか1,000万円には届かないという問題はありそうです。そのかわり引退後も会社に残って社業に従事できるわけでそこまで考えて社員選手を選択する有力選手もいるわけです。もっともこの4日に開催されたタスクフォースでは選手は原則プロ契約とするという話だったようで、今後新たな社員選手は認めないということかもしれません(Jリーグにもかつては社員選手が存在しましたが今はもういないはずです。制度自体はまだ残しているかもしれませんが)。プロ契約についても、外国人選手なども含めたキャップが1億5,000万円ということですから、オールジャパンでベスト8に残るような本当の日本トップレベルのチームであっても1,000万円に届いていないケースはざらにありそうです。ただこれはNBLのチーム数を増やす、あるいはbjリーグのチームが参加しやすくするといった意味で導入されたという経緯があるはずなので、まあ1部に参入するチームであれば超えられないハードルではない、というか超えるべきだということなのでしょう。とはいえどれだけのチームが超えられるのか、「12〜20チーム」はまあ無理だろうなという感じはしますが…。
話が出たついでにチーム数の話ですが、現行のNBLでも13チームしかなく、かつ戦力差も非常に大きいのが実情です。上位チームと下位チームの対戦では大差がつき、かつ上位チームは終盤はほとんどベンチメンバーがプレーしているのが実態で、興業としてははなはだ興趣を欠いています。しかも、強豪チームが東カンファレンスに集まっていることもあり、今年のオールジャパンでは、JBL時代に優勝3回準優勝2回の強豪で、今年も西カンファレンスを独走しているアイシンシーホースが(試合当時)東カンファレンス5位の千葉ジェッツに敗退するなど、競技力強化をも阻害しているのが実態でしょう。
もちろんこれは他の競技でも同じような実態にはあるわけで、実業団ならそれで差支えないということでしょうが、プロとなるとそうは参りません。ドラフト制度などを導入して戦力の均衡化をはかればよいということかもしれませんが、しかし日本のバスケットボール界の現状からは、カネのとれるレベルのトップチームを12チームというのは無理があるのではないでしょうか。アリーナの面でも財政の面でも競技力の面でも、バレーボールのようにトップリーグは8チームで6チームがまあ常連、残り2チームは上がったり下がったりという程度の規模が現実的なのではないかと思います。
さて最低年俸の話に戻ってでは1,000万円という水準がどうなのかというところですが、Jリーグには最低年俸の規定はないらしいので(この話は後述)、ベンチマークプロ野球の1,500万円ということになります。まあ集客や収支といった話を別にして日本トップのプロアスリートという点にのみ注目すればそれほど高くないということなのかもしれません。
まあ実際問題プロ野球チームにしても読売、阪神といった人気チームを除けば親会社からの支援なしで黒字経営になっているのは広島くらいのものでしょうから(なにしろNPBの規約で球団の赤字は親会社が補填することになっている)収支の話は一応別ということでもいいでしょう(これはJリーグも同じようなものだな)。
それでもなお野球の1,500万円との比較ではバスケットボールの1,000万円は高すぎないかという理由がいくつかあり、まず第一にプロ野球の1,500万円が適用されるのはシーズンを通じて一軍に在籍した選手だけであり、支配下選手の最低年俸は440万円です(育成選手はさらに半額の220万円だったと思う)。いやちょっとぐぐれば「DeNA・柿田「戦力になれなかった」1350万円で更改」(sanspo.com)なんて記事もみつかるわけでして。逆に年俸の高くない若手選手が一軍に上がって、一軍最低年俸との差額を日割計算でもらうことになるという記事もよく見かけますね。日本プロ野球選手会が毎年支配下選手の年俸を調査していて、まあモノがモノなので低めの数字が出ている可能性はありますが、その中央値が1,500万円とのことです(平均はスター選手に引っ張られるので4,000万円近い)。ということは半数は一軍最低年俸に(当初契約では)達していないという話でもあり、まあバスケットボールに二軍はないというのもそのとおりではありますが…。
第二にもちろんこれは競技特性もあるので一概にはいえませんが試合数が大差という問題もあり、プロ野球はレギュラーシーズンの公式戦だけで144試合あります。これに対してバスケットボールはNBLもbjもレギュラーシーズンは50〜60試合であり、これに上位チームはプレーオフNBLチームはオールジャパンが加わりますがせいぜい70試合というところでしょう。
もちろん野球の場合は成功すれば億単位の年俸を獲得する可能性もあるわけなのでそれも考慮に入れる必要はあると思いますが、やはりバスケットボールの「1部の選手であれば全員」1,000万円保障というのはやや高すぎる感があり、出場時間・出場試合数基準を設けるとか、育成枠を設けるとかいったくふうば必要ではないかと思います。
そこからではJリーグではという話に発展するわけですが長くなってきたのでもう一回続きます。