こんな話があるそうで。asahi.comから。
福岡市の公立大学法人福岡女子大から入学願書を受理されなかった20代の男性(福岡県在住)が大学側を相手取り、受験生としての地位があることの確認を求めて福岡地裁に提訴する。男性は「男性を受験させないのは法の下の平等をうたう憲法14条に反する」と主張。不受理決定の無効の確認と慰謝料40万円の支払いも求めるという。
男性側は「運営に広い裁量が認められる私立ならともかく、国公立の教育施設が受験資格に性別を設けるのは不当」と主張。男性の代理人を務める弁護士によると、国公立の女子大の違憲性を問う初めての訴訟になる見通しという。
訴えによると、男性は今月、栄養士の免許の取得に向けたカリキュラムがある福岡女子大の「食・健康学科」の社会人特別入試に出願したが、不受理とされた。福岡県内の国公立大でこうしたカリキュラムがあるのは福岡女子大だけで、男性は「公立に進めないと経済的な理由で資格取得を断念せざるを得ない」と主張。入学願書の不受理は憲法14条や26条(教育を受ける権利)、教育基本法にも反しているとしている。
福岡女子大の担当者は取材に「県立女子専門学校としての開校以来、91年にわたって女子教育を進めてきた歴史や理念がある。今後も女性リーダーの育成を目指した教育を進める」としたうえで、訴訟については「訴状を見ていない段階でコメントはできないが、きちんと対応したい」と話している。
http://www.asahi.com/articles/ASGCF51QYGCFPPZB00N.html
短大を含めれば大学進学率に男女の差がほとんどなくなった現状(もっとも4年制については男性の方がまだ10パーセントポイント程度高いようですが)、国公立の女子大女子高についてはもはやポジティブ・アクションでは正当化できないのではないかという議論はよく聞きますが、裁判所に持ち込むのに手頃な事件がなかったところ、今回いよいよ出てきたというところでしょうか。
もちろんこれを裁判で問うことはたいへん意味のあることだろうと思いますが、ただ記事を読む限りでは多分にためにする議論という感はあり、なぜかというと「公立に進めないと経済的な理由で資格取得を断念せざるを得ない」というわけですが栄養士資格は専門学校2年で取得可能だからです。福岡女子大の学費は大学のウェブサイト(http://www.fwu.ac.jp/exam_info/expenses.html)によると年535,800円であるらしく、入学金を含めた4年分で約240万円というところです。これに対して福岡県の有力な専門学校であるらしい平岡栄養士専門学校のウェブサイト(http://www.hiraoka.ac.jp/eiyou/admissions/payment/)によると2年間の学費(校納金というらしい)は2年間で約210万円となっています。年単価はたしかに専門学校のほうが高いですが総額では遜色なく(まあ他に教材費など23万円がかかるようですがそれは大学も大差ないでしょう)、さらに専門学校の場合は2年で卒業した後の2年は栄養士として就労・稼得できるわけなので大学進学にはその機会損失もあり、「公立に進めないと経済的な理由で資格取得を断念せざるを得ない」との主張は破綻しているように思われます。
まあ学士号も取得したいなどの立論がされているのかもしれませんが、それにしても憲法判断に踏み込まないまま請求棄却で終わるのではないかという気もしなくはありませんがそんなことはないのかな。というか本当に憲法判断を求めるならおそらく最高裁まで行くわけで(まあ受験させて落とすという手もありますが大学にとっては悪しき前例となりますし他の国公立女子大にもご迷惑でしょうから避けたいでしょう)、まあ10年やそこらはかかるわけで、それでも10年後から4年かけて栄養士になりたいんですかこの人。まあ栄養士資格は訴訟と並行して別途取得するということだろうとは思うのですが、ということで、なんとも「ためにする」裁判という感は禁じ得ないのでありました。なお国公立女子大の合憲性に関しては私にはなんらの意見もありませんのでそこはそのようにお願いします。
(1月21日追記)このエントリに思いもかけずhamachan先生からトラックバックを頂戴してしまいました。先生と同じネタだったようで、先生はこれを職業訓練施設という観点からコメントしておられます。私へのTBは次のようなもので、
(追記)
労務屋さんも同じネタに食いついていますが、
http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20150120#p4(公立女子大が違憲という訴訟)
ただ記事を読む限りでは多分にためにする議論という感はあり、なぜかというと「公立に進めないと経済的な理由で資格取得を断念せざるを得ない」というわけですが栄養士資格は専門学校2年で取得可能だからです。
これにはコメント欄で反論もありますが、も少し原理的にいうと、この議論では、戦前の日本みたいに、大学の医学部に女性は入学できないけれども、医専で学んで女医になることはできるんだからいいじゃん、というのと同じになってしまうような・・・。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/01/post-ca0c.html
ご指摘のようなジェンダー論的な論点が大方の最大の関心事であろうことは私も承知しておりますし、上記エントリにも書いたとおり「もちろんこれを裁判で問うことはたいへん意味のあることだろうと思いますが」、しかしここではジェンダー論に踏み込む考えはありませんでしたので「国公立女子大の合憲性に関しては私にはなんらの意見もありませんのでそこはそのようにお願い」申し上げたわけです。
ということなので繰り返しになりますがここで申し上げているのは「公立に進めないと経済的な理由で資格取得を断念せざるを得ない」という立論に対して疑問を呈するといういたってケチな話でありまして(だから小ネタなのですが)ジェンダー論を展開しようというわけではないということでご了解をいただければと存じます。とはいえわざわざhamachan先生からTBをいただいたことでもあり、これは宿題をいただいたという理解でいずれ(いつになるかわかりませんが)ご回答をさせていただければということでご容赦願いたいと思っております。