JILPT資料・第2弾

労働政策研究・研修機構様から、労働政策研究報告書4点、調査シリーズ4点、資料シリーズ4点の計12点をお送りいただきました。いつもいつもありがとうございます。
金曜日のエントリに書いたのと数は同じですが、内容は別でこちらのほうが新しいようです。想像するに数が多いので2個口に分けて発送いただいたところどこかで一方が1日遅れたのでしょう。
これまた非常に盛りだくさんな内容で、やはりリンクのあるものはJILPTのサイトで全文PDFをお読みになれます。

調査シリーズNo.97『入職初期のキャリア形成と世代間コミュニケーションに関する調査』
調査シリーズNo.96『非正規労働者の組織化に関するヒアリング調査』
調査シリーズNo.95『子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査』
http://www.jil.go.jp/institute/research/2012/095.htm
調査シリーズNo.94『高年齢者等の継続雇用等、就業実態に関する調査』
資料シリーズNo.106『東日本大震災の雇用対策を考えるための事例研究』
資料シリーズNo.105『大企業における女性管理職登用の実態と課題認識−企業人事等担当者及び女性管理職インタビュー調査−』
資料シリーズNo.104『労働時間規制に係る諸外国の制度についての調査』
http://www.jil.go.jp/institute/chosa/2012/12-104.htm
資料シリーズNo.103『諸外国における職務評価を通じた均等賃金促進の取り組みに関する調査』
労働政策研究報告書No.147『中小企業における人材の採用と定着−人が集まる求人、生きいきとした職場/アイトラッキングHRMチェックリスト他から−』
労働政策研究報告書No.146『職務構造に関する研究−職業の数値解析と職業移動からの検討−』
労働政策研究報告書No.145『雇用ポートフォリオ編成の研究』
労働政策研究報告書No.144『アメリカの新しい労働組織とそのネットワーク』
http://www.jil.go.jp/institute/reports/2012/0144.htm

わが国でも「職務給にして同一価値労働同一賃金の均等待遇」といった主張はあちこちで聞こえるわけですが、その「同一価値労働」の「同一」ってのはどうやって判断しているんでしょうか、についてスウェーデン、カナダ(オンタリオ州)、イギリスの実例を紹介しているのが『諸外国における職務評価を通じた均等賃金促進の取り組みに関する調査』です。
例によってパラパラと拾い読みしてみたのですが(すみませんイギリスはまだ読んでません)第一感の感想は「苦労しているなあ」というものです。
スウェーデンでは2001-2008年に差別オンブズマン(行政監督組織)が約600の企業で職務評価モデルが検証され、60%以上で格差是正のための賃金調整が行われたとのことです。是正すべき正当化できない賃金格差が存在したのは44%ということですから、けっこうな割合で正当化できるけれど賃金調整しましたという企業もあるわけですね。さらっとみれば結構な話にみえますが、多くの企業から「複雑で時間がかかる」との声があがっているそうで、まあ足掛け8年で600社の実施にとどまっているということは相当に煩雑なのだろうと想像できます。ということで行政官庁に複雑で手間のかかる監督を行われたら正当化できようができまいが「是正」してしまったほうが安上がりという状況は十分に想定できるわけで、まあ産官ともに苦労されているなあと外野からは思うわけです。
オンタリオ州についても「公共セクターでの賃金上昇において効果があったものの、民間部門においては目立った効果が出ていないのが現状」との記述がありさもありなんと思います。いや思うだけですが。
それから、「同一」を判定するクライテリアをみてみますと、スウェーデンでは「教育/経験20%」「計画、開発、作業結果、作業管理に関する責任15%」「問題解決能力15%」「社会的成熟度15%」「他者に対する責任10%」「物的資源および情報に関する責任10%」「心理的環境10%」「物理的環境5%」となっており、カナダでは「知識10%」「問題処理能力12%」「対人能力8%」「精神的努力15%」「肉体的努力10%」「人的資源責任12%」「財務資源責任8%」「情報資源責任10%」「物的資源責任5%」「労働環境10%」となっています。……これって日本でよくやられている職能のディメンジョン別評価だのコンピテンシー評価だのとどれほどの距離があるんでしょうか。
まあこういった評価項目とウェートづけが統一されて公開されているだけでも相当にマシだという考え方もあるだろうとは思いますが、しかし硬直的だなあという感もなくはありません。いずれにしてもわが国でも職務給とか同一価値労働同一賃金とか言ってさあ均等待遇をやるぞと意気込んでみたところでやることは大して変わりませんでしたということになりそうな気がするなあ(特に人事制度の整備された大企業では)。
ということで、私として注目すべきだと感じたのはカナダでは事業所別の集団的労使関係に多くが委ねられているという点です。結局のところ、具体的にこれをどう評価してどれと同じと判定するのかと言った話は現場をよくわかっている企業別労使関係でやるしかないのですね。実際カナダでの調査でも労働組合の有無により効果に大きな差があり、排他的団体交渉権を有する労働組合のない企業では積極的な施策をもってしてもめだった処遇格差の縮小がないとのことです。まことに示唆に富んだ状況だと思うのですがいかがでしょうか。