平成26年版労働経済白書

厚生労働省井上裕介さんから、『平成26年労働経済の分析−人材力の最大発揮に向けて−』をお送りいただきました。ありがとうございます。厚生労働省のウェブサイトで全文を読むことができます(プレスリリース)。amazonにはまだ出ていないみたいなので装丁されて書店に並ぶのはもう少し先なのかな。
例によって第1章が直近の労働市場の分析、第2章と第3章が時事テーマの分析にあてられています。まだ要約版をななめに読んだだけなのですが、とりあえず第1章では昨今の経済情勢の好転を受けて就業者数も(総額の)実質雇用者所得も増勢にあるということでまことにご同慶です。就業者数の内訳をみると非正規雇用が大幅に増えるいっぽうで正規雇用は減少しているということで、まあこれはこの段階(2014年1-3月)ではまだ労働力の不足感が正規雇用を伸ばすまでには至っていないことや定年後再雇用による正規雇用から非正規雇用への移行などによるものではないかなあなどと思うところ。
第2章は企業における人材マネジメントの動向と課題ということで、わが国の現状として依然として長期雇用・内部育成が有力である一方、多様な正社員が注目され、非正規の登用や正規への転換も拡大していると分析しています。そうした中で、人材育成に関しては内部育成は引き続き活発な一方、多様な正社員、非正規雇用に対してはそれに応じて人材育成が限定される傾向があると指摘しています。興味深いのはそれでもなお6割超の企業が非正規雇用労働者の能力開発の責任主体は企業にあると考えているということで、まあそのいかに自己啓発とか外部の教育機関とか訓練機関とかに期待していないかということが感じられる一方で、企業として品質確保に必要な人材育成は自らの責任と考えているということの現れだろうとも思います。いずれにしても企業は必要であれば非正規→正規転換に必要な人材育成は自前でやるだろうということだと思います。
企業パフォーマンスと人材マネジメントとの関係については、勤労意欲が高い企業では労働者の定着や生産性、売上高経常利益率が良好であること、勤労意欲が高い企業では幅広い人材マネジメントに取り組んでおり、その取り組み度合も大きいことが示されています。もちろん因果関係については慎重な判断が必要であり(白書も因果関係には触れていない)、また、人材マネジメントもさることながら雇用の安定や賃金、労働時間といった基本的労働条件の違いによる部分も大きいはずなのでそのあたりも加味する必要がありそうにも思えます。
第3章は職業生涯を通じたキャリア形成ということで、ここでも中心的な関心事項は多様な正社員と非正規雇用にあるように見受けました。非正規では年収200〜400万円で頭打ちが鮮明な一方で多様な正社員では勤続25年程度で年収500万円を超える可能性が示唆されるということで、これはたしかに普及に取り組む意義が示されているように思われます。女性や高齢者の就業も拡大しているとのことで各種施策の効果が表れているとすればご同慶です。
非正規から正規への転換に関しては、同一産業間で移動しやすいこと、専門・技術的職業従事者など高度な知識や技能の蓄積が正規転換に有効であること、とりわけ営業職の正規移行率が高いことが示されています。たしかにそうなのですが、しかし素朴な目でみてこれは人手が足りない分野は正規に転換しやすいということに見えるのですが違うのでしょうか。どうもこの手の話になると(まあ厚生労働省の白書なので仕方ないのかもしれませんが)供給サイドの話がメインになりがちで、需要サイドの話が抜けがちなのは残念です(いやまだ本文全文は読みこんでいないので要約版には出ていないだけなのかもしれませんが)。
ということで全体的には比較的堅実な分析という感じで、多様な正社員への期待感が高いなという印象が残りました。おいおい全文読み込んでいこうと思います。