その他の議員

ついでですので秋山議員以外の議員の発言にもざっとコメントしてみたいと思います。発言順に、まずはグダグダ資料を提出した長谷川閑史議員(経済同友会代表幹事・武田薬品工業会長)のご発言からです。

 解雇のルールについては、我々も全面的な解雇の自由化を求めているわけではなく、「失業無き労働移動」を実現するため、見直すべきものは見直そう、ということが趣旨である。諸外国とのイコールフッティングを図るため、国際最先端基準をよく検証した上で、日本が不利にならないような施策を検討していただきたい。
 ハローワークについては、情報を民間と共有し、ハローワークによる業務紹介と民間の得意とする「アウトプレースメント」というマッチングを個別に行うノウハウを組み合わせることによって、「失業無き労働移動」を担保し加速化させていただきたい。
 若者・女性・高齢者の雇用促進については、特に女性の労働参画を高めることが重要である。そのため、ロールモデルを構築する観点から、女性管理職比率30%を目標とし、官も民も取り組んでいく必要がある。また、結婚している女性が生計を立てるダブルインカムのモデルと、それを支えるダブルインカムの環境制度が重要であることは言うまでもない。
 外国人の積極活用については、多くの高度人材を受け入れるため、ほぼ1年が経過した現行のポイント制度の見直しを行った上で、所要の修正を検討していただきたい。
 国内雇用の確保については、成長が期待される分野において、市場形成をはかるとともに、当該分野に適した人材育成について、官も民も取り組む必要がある。
(第4回産業競争力会議議事要旨http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai4/gijiyousi.pdfから、以下同じ)

「我々も全面的な解雇の自由化を求めているわけではなく、「失業無き労働移動」を実現するため、見直すべきものは見直そう、ということが趣旨である」ということだそうで、まあやはり失業無き、しかし大幅賃金ダウン有る労働移動をやりたいということでしょうかね。
「諸外国とのイコールフッティングを図るため、国際最先端基準をよく検証した上で、日本が不利にならないような施策」というのも悩ましいところで、まあ検証はすればいいと思うのですが、労働市場の諸制度・諸規制というのはすべからくパッケージであるころには十分留意する必要があるでしょう。たとえば解雇に関して言えば米国の随意的雇用が国際最先端基準でしょうが、それを採用した場合には、わが国の随意的職種変更・随意的転勤・随意的残業休出といった働き方の国際最先端基準(かな?)は採用できなくなってしまうわけですね。ただまあ、このあたり長谷川議員や坂根議員はわが国の雇用慣行の強みはよくご承知ではないかと思うところもあり、つまり両議員も経験されたように労働組合ときちんと話をしてそれなりの条件を出せば整理解雇もできるということまで考えるとけっこう国際最先端基準かもと思うわけで、それもあって長谷川議員も「全面的な解雇の自由化を求めているわけではな」いと発言しておられるのでしょう。
女性管理職比率は長谷川議員のご持論のようですし、欧米でもだいたいこの水準ですし、国連ナイロビ将来戦略では1995年(!)までに指導的地位にある女性の比率を30%と言っていたわけなので、まあ本気で考えなければならないのかもしれません。「結婚している女性が生計を立てるダブルインカムのモデルと、それを支えるダブルインカムの環境制度が重要」というのもたしかに「言うまでもない」と思いますが、わが国の現下の情勢においてとりわけ重要なのは、指導的地位にあって主たる生計維持者である女性と家計補助的に就労する男性のカップルというモデルと、それが積極的に受け入れられる環境ではないかと思います。
「国内雇用の確保については、成長が期待される分野において、市場形成をはかるとともに、当該分野に適した人材育成について、官も民も取り組む必要がある。」というのは、まあ当然のことですし、当日の主たる論点ではなかったので、大事なこととして最後に一言ふれたのだと思います。実際にはこれこそが最重要で、「成長が期待される分野において市場形成」されれば、放っておいても労働力もシフトするだろうと思います。まあ加速のための支援はあっていいと思いますし、それがさらに成長分野の市場拡大につながればますますけっこうだと思いますが、いずれにしてもまずは成長分野の市場がなければ始まらない話です。
次に新浪議員ですが、先にふれた合計特殊出生率2.1に続いてこんなことを発言しておられます。

 人材の流動化が新しい産業の創出と雇用吸収とセットであり、両輪である。片方だけやっても意味がない。新しい産業があるから流動化が起こる。人材の過剰在庫について、私も昔大企業にいたが、人材の過剰在庫は存在する。業種を変えることや、中小企業に行くことにより、まだまだ良い企業は伸びる。人材の流動化によって産業を強くすることが重要であると認知しないといけない。大企業においては、流動化を阻害する要因がある。例えば、50歳にならないと退職金が上がらないとか、もともと50歳くらいを目途に終身雇用を前提として制度ができている。よい人材は早く移動してもよいという制度設計が必要であり、民間の提案が必要。
 解雇法理について、四要件全てを満たすことは、世界経済に伍していくという観点からは大変厳しい。緩和をしていくべき。被解雇者選定基準の合理性は大変重要。特に被解雇者選考基準が大事。例えば、勤務態度が著しく悪く、または結果を著しく出せていない社員は他の社員に迷惑をかけていることを十分認識しなくてはいけない。一方で、企業として教育や研修の機会を付与したのかも考慮する。それらを解雇選定基準に入れ、柔軟に解釈すべき。解釈においては、解雇法理そのものよりも、組織全体で迷惑をかけている人に対して解雇が会社として検討しやすくなる柔軟な要件を入れるなど、是非今後検討していただきたい。

ここでの新浪議員の新しい産業があるから流動化が起こるという発言は非常に重要なポイントを指摘していると思います。新産業→流動化が正常な順番であって、流動化→新産業は、可能性はあると思いますが政策としては確率が低く不適切だろうと考えます。
続くくだり、新浪議員の昔いた大企業というのは三菱商事のことだろうと思うのですが、たしかに新浪議員ご自身が「業種を変えること」で「良い企業」を伸ばしたご経験の持ち主なので、その限りでは説得力のある話ではあろうと思います(新浪議員が人材の過剰在庫だったと言いたいわけではないので為念)。で、重要なのは新浪議員がなぜローソンで成功を収めたかというと、もちろん新浪議員の傑出した指導力とか経営者としての資質とかいうものによるところ大だろうと思いますが、たぶんそれだけでもなかったわけで、一般論として少なくともあなた人材の過剰在庫ですからどこかに行って活躍してくださいと言われて放り出されたとしたらどれほど活躍できるのかというとかなり怪しいわけで、少なくとも行き先は決まっていて、労働条件も(同様とはいいませんが)それなりで、就労環境もそれなり、というくらいのことは必要ではないかと。
なおその後に「50歳」を連呼しておられるのはローソンというよりは三菱商事がそうだったのだろうなあと思って多少口もとがほころぶところですが、まあ過度に足止め的な人事制度はよろしくなかろうというのは同感するところです。少なくとも自発的に出て行ってほしいと思うのであればそうしやすい人事制度にする必要はあるでしょうし、ご発言のとおり民間が自らやればいい話だろうと思います。ただまあ「よい人材は早く移動してもよいという制度設計が必要」とまで言われるとまずローソンでやってみせてくれとは言いたくなるところで、いややはり各社ともよい人材は移動せずにとどまってほしいと思ってるんじゃないかなあ。ローソンでも抜群の売り上げを誇る店長とかエリアマネージャーとかいうよい人材がいるのではないかと思うのですが、新浪議員はそういうよい人材がセブンイレブンファミリーマートに早く移動してもよいと本気で思っておられるのでしょうか。まああれかな、逆にセブンイレブンファミリーマートからローソンに来るケースもあるだろうから行って来いということかな。なんかカリスマ店長の報酬がバカ高くなりそうな気はしますが、それはそれでひとつの理想なのかもしれません。
最後の解雇法理のところは議事録の書き方がまずく、「四要件全てを満たすことは、世界経済に伍していくという観点からは大変厳しい。緩和をしていくべき。」に続く「被解雇者選定基準の合理性は大変重要。」は別の話題に移っているので改行が必要ではないかと思います。そうしないと「非解雇者選定基準」が整理解雇4要素の一つのそれであると普通読めてしまうわけで、全文ではない要旨なのですから、このあたり気を使ってほしいところです。いや要旨を作った官僚が話題が違うことを理解していないのかもしれませんがこらこらこら*1
でまあ前段は整理解雇規制の緩和を訴えておられるわけですが、内需型産業のローソンが世界経済に伍していくわけでもないでしょうから(もちろん海外展開なんかも拡大しているとは思いますが)、ここは一般論でしょうか。現実には裁判になったケースでも裁判所は個別の事情に応じてそれなりに柔軟に判断しているわけですが、もっと予測可能性を高めてほしいということでしょう。ただ、本当に文章化したルールを作れという話になると、実際問題としてはかなり厳しいものになってしまいかねないのではないかと懸念しますが…。必ずしも明文でないほうが都合がいいものもありますよね。
後段は要するに成績不良者の普通解雇を念頭においているのでしょうが「勤務態度が著しく悪く、または結果を著しく出せていない」「組織全体で迷惑をかけている人」については現状でも解雇可能だと思うのですが違うのでしょうか(しかも「企業として教育や研修の機会を付与したのかも考慮する」とまで言っておられるわけで)。もちろん「私の勤務態度は著しく悪くはない、結果も多少は出している」と主張して争いになる可能性はありますが、しかしそれは新浪議員の発言の範囲ではどのようにルール化しても同じことのような気はします。この部分で新浪議員が戦うべきなのは、法制度というよりは解雇に否定的な世論とかいったものではないでしょうか。
もうお一方、お約束の竹中議員のご発言を。全般にわたってコメントされているので、雇用関連はごく短いのですが、

 労働移動型の解雇ルールへのシフトは大変重要。判例に委ねられているのは、ルールとして不明確であり、明文化すべき。金銭解決を含む手続きの明確化することが必須である。早急に議論を煮詰めていくことが必要である。雇用調整助成金を大幅に縮小して、労働移動に助成金を出すことは大変重要。是非大規模にやって欲しい。今は、雇用調整助成金と労働移動への助成金の予算額が1000:5くらいだが、これを一気に逆転するようなイメージでやっていただけると信じている。

まあ端的すぎて何言ってるのかわからないのでコメントもしにくいのですが(いや「労働移動型の解雇ルールへのシフト」についても、いわゆる准正社員のような雇用形態の普及であれば必要な施策だと思いますしね)、いつも気になるのは「金銭解決を含む手続きの明確化」という奴です。なにが心配かというと、これまで政労使でもっぱら議論されてきたのは「解雇不当の場合の(復職ではない)金銭解決」であって、これは私も真剣に議論すべきものだと思います。ただ、これは竹中議員とかが持ち出される「再就職支援金を渡せば解雇は正当」とかいった発想とはまったく異なるものなんですが、それがわかって議論しているのかどうか。実は今朝の日経の社説はきちんとわかった上で書いてあって感心した(いや当然であって感心していてはいけないのですが)のですが、竹中議員や三木谷議員はおわかりなのでしょうか。なんかあまりそんな感じもしないなあ。

*1:誰だ!新浪議員自身が違いが判っていないんじゃないか、とか言ってるのは!