学歴と採用・人事管理

さて上記のエントリを書いていたところ昨日「学歴は選考会場への入場整理券くらいのものと思っておけばいい」というエントリが新たにあげられていることを発見したわけです。
http://jyoshige.livedoor.biz/archives/4248386.html

 なぜか知らないが学歴否定論者だと思われているらしく、たまに「なんで学歴を否定するんですか?」と聞かれるのだが、大きな誤解だ。僕は別に全否定はしていない。
 ただ「良い大学出てるから優秀だ」というのは間違いで、正確には「良い大学出てるから優秀かもしれない」と期待してもらえる程度の話だという現実の話をしているに過ぎない。まあ一回戦パスのシード権みたいなものである。
 重要なのは、あくまで実社会におけるパフォーマンスだ。
http://jyoshige.livedoor.biz/archives/4248386.html

さすがに城氏はわずかながら人事実務の経験があるだけあって、このあたりの認識は比較的正確ですね。

 ただし、このシード権、使いようによってはバカにならない価値を生む。
 というのも、日本には一度雇ったら年齢に応じて昇給させ、賃下げもクビにもしてはいけないという終身雇用・年功序列制度という不思議な制度が中堅以上の企業を中心に存在しているためだ(いわゆる雇用の“二階建て”部分)。
 このシード権を上手く使って、この手のガラパゴス企業に潜り込んでしまえば、よっぽどの不祥事でも起こさない限り安定した生活が保障されることになり、仕事が無くなってもソリティアマインスイーパで定年まで余生を送ることも可能である。
 福島の一部は数十年間人も住めない地域になりそうだが、東電は賃金カットもリストラも企業年金カットも無しに元気に営業しているし、潰れたJALにしても早くもボーナス払えるまでには(税金で)回復した。
 そう考えると、学歴というのは今でもそれなりの価値を持つと言えるかもしれない。

へえ、「日本には一度雇ったら年齢に応じて昇給させ、賃下げもクビにもしてはいけないという終身雇用・年功序列制度」なんてものが存在するんだ。まあ、公務員の世界にはそれに近いものがあるのかな。「仕事が無くなってもソリティアマインスイーパで定年まで余生を送ることも可能」な人も稀ではあるでしょうがいなくもないでしょう(もっとも、ここまで書くならリアルに100人くらい連れてきてみろとは言いたくなりますね。あそこやあそこにいっぱいいる、といった観念論ではなくて)。まあどちらにしても例外的な話になっているはずでしょう。
いっぽう、「東電は賃金カットもリストラも企業年金カットも無しに元気に営業している」というわけですが、「元気に」というのが事実かという疑問はおくとしても、すでに東電は賃金カットを発表していてhttp://www.tepco.co.jp/cc/press/11042504-j.htmlhttp://www.tepco.co.jp/cc/press/11052004-j.html)、その幅が小さいといって叩かれてませんでしたかねえ。また「潰れたJALにしても早くもボーナス払えるまでには(税金で)回復した」とのことですが、まあ税金も入っていますが、JALは賃下げやって希望退職やってまだ足りなくて165人の整理解雇に踏み切りましたなhttp://www.jal.co.jp/other/101224_01.pdf、まあこれは整理解雇されるほうがされに行ったという面もありそうですが)。こういうウソと誇張で他人を批判しちゃいかんでしょう。まあ結局はご自身の信頼を失墜することになるわけですが。

 ただし、シード枠の旨味はどんどん少なくなってきている。
 5年くらい前に「とにかく平和で安定した生活を送りたいです」という人には新聞社やテレビ局をおススメしていたけど、この5年で一気にメディアという楽園は崩れてしまった。
 ついでに言うと、(終身雇用が保証される)二階建て部分の企業にしても、彼ら自身が安定志向の人材から、リスク選好タイプの人材にシフトしつつある。僕の友人には二階部分に潜り込んでのほほんと十数年生きてきている連中がいっぱいいるけれども、そういう彼らですら「こんな生き方が許されるのは俺達で最後だ」と言っているほどなので、まあたぶんシード枠は近い将来消えてなくなると思っている。
 実際、職場に中途で入社者があったら、学歴を知りたいという人は少ないだろう。
 普通は「今、何ができるのか」を知りたがるはずで、そのためにまずは職歴やスキルが注目されるはずだ。
 というわけで、「学歴はもちろんあって損じゃないけれども、社会に出てからの努力の方がずっと重要ですよ」というのが、僕の言わんとしている話だ。

「学歴はもちろんあって損じゃないけれども、社会に出てからの努力の方がずっと重要ですよ」というのに異論はないのですが、しかしその学歴を獲得するための努力を通じて得るものもあるでしょう。中途入社が現有スキルを重視されるというのはそのとおりですが、長期・内部育成を意図した新卒採用については現有能力以上に潜在能力が重視されますので、そのシグナルとしての学歴の活用は、まあ縮小はするにしても残るのではないでしょうか。
興味深いのは「彼らですら「こんな生き方が許されるのは俺達で最後だ」と言っている」という部分で、まあ城氏に対するリップサービスなんじゃないかなあとか、東電が賃下げしてないとか書く人だから仕方ないのかなあとか思わなくもないのですが、正味の話だとすれば中堅世代の雇用に対する不安感が高まっているという例なのかもしれません。