社長公募

昨日に続き、城繁幸氏のブログから。お題は「社長を公募する事情」です。
http://jyoshige.livedoor.biz/archives/4200645.html

 リーブ21の社長公募が話題となっている。
 社長公募と言えば、外務省キャリア官僚を社長として採用したユーシンのケースも記憶に新しい。
 ただの宣伝目的だと言っている人も多いが、個人的には結構本気で募集していると思う。
 というのも、実は日本企業は慢性的な社長不足だから。
 エグゼクティブサーチのヘッドハンター曰く、そこそこの規模の外資が経営者をリクルートしようとした場合、候補者のプールは100人いないらしい。
 以前、アップル日本法人の元代表の原田氏が日本マクドナルドのトップに就任して「マックからマックへ」と話題になったが、グローバル企業のトップが務まる人材なんて、そうそういないということだ。
 そう考えると、広く門戸を開放して募集するのは十分合理的だろう。
 もちろん、宣伝効果というオマケもある。
http://jyoshige.livedoor.biz/archives/4200645.htmlから、以下同じ

リーブ21はアップルやマクドナルドのようなグローバル企業なのかという疑問はあるわけですが(ユーシンは米欧中に拠点を有するグローバル大企業ですので為念)、まあここまでは事実というところでしょう。

 ところで、ここから見えてくる日本企業の現状は以下の2点。
・組織内で社長業が務まる人材が上手く育成できていない
 ユニクロのように、後継者育成で苦労している大手も珍しくない。
 現状の一直線型キャリアパスが上手く機能していないためだ。
 長期雇用で自社の現場に特化した人材は育成出来ても、マネジメントまでカバーできる人材、それも柔軟性のある若い人材の育成が困難だということだろう。

いやなぜこういう議論になるのでしょうか。
高橋伸夫先生も以前ご紹介した著書『ダメになる会社』の中で「成功するベンチャーが少ない大きな理由はまともな経営者が圧倒的に不足しているから」と指摘されているように、たしかに企業経営というのは容易な仕事ではありません。外資が日本法人を立ち上げようというときには社長の育成などといっているヒマは当然ながらないわけなので母国から送り込むか現地でヘッドハントするしかありませんし、そのときにそのトップがすぐにも務まる人材がマーケットにごろごろしているわけもないというのもよくわかる話です。JALの再建だって稲盛氏という超大物経営者を送り込んでいるわけですし。
とはいえ、ユーシンリーブ21のケースがニュースになるというのはそれがかなり珍しいケースだからであり、逆に言えばほとんどの企業ではそれなりに組織内で社長を育成しているということではないでしょうか。もちろんそれは非常に重要な課題であり、各社とも相当に努力し苦心しているでしょうし、それにもかかわらず失敗することもある(JALなんかはたぶんそう)わけですが、しかし日本の大企業の典型的なトーナメント型人材育成・選抜システムは、そのチャンピオンとして経営人材を輩出するしくみとしてなかなか優れているし、機能していると評価すべきでしょう。
むしろ、こうしたしくみを持たない中小企業の後継者難はかなり以前から問題視されており、順調な事業を後継者がないゆえに廃業するという例も多々あるようです。それでもなお、多くの企業では経営者がその子弟を手塩にかけて育て、帝王学を学ばせて後継者としてきていますし、子弟が物足りなければ見どころのある従業員を女婿に迎えるなんて話もまだ珍しくはないでしょう。それもうまくないとなれば、取引先から転籍出向などで後継人材の派遣を受けるという方法(これには長短・賛否があるでしょうが)も広く活用されています。
たしかに、ユニクロのように辣腕経営者の手腕に依存して急成長した企業は後継経営者に苦労するだろうなと思います。そういえばソフトバンク孫正義氏も自身の後継者育成のために「ソフトバンクアカデミア」を作ったというニュースもありました(どうなっているのだろう)。それでも両社とも30年くらいの歴史はあるだろうと思いますが、まあ前半期は人の出入りも多かったでしょうし。そもそも柳井氏や孫氏は経営者の中でも傑出した存在であり、こうした人を量産しようというのも無理がありそうなわけで。

・社長をはじめとする経営陣ポストは、もはやゴールではなくなった
 当たり前の話だが、社長だけが“役割化”しつつあるのではなくて、事業部長、部課長、そして主任クラスにいたるまで、この組織内全体が役割化のトレンドにある。
 ゆくゆくは入り口から専門職とマネジメントとその他というコースに分かれ、最終的には職務給に移行することになるだろう。
 それが定着するまでは、社長の公募というのは意外に人気のあるスタイルとなるかもしれない。

前半は意味不明なのでスキップするとして「ゆくゆくは入り口から専門職とマネジメントとその他というコースに分かれ」というのは案外合理的で現実味のある話かもしれません。現時点で似たしくみを採用しているのが国家公務員で、もっぱらマネジメント人材としての育成が意図されている1種、専門職主体の2種、その他はまあアルバイトなどというところでしょうか。これはこれで課題も問題点もあるわけですが、しかし専門職とマネジメントを入口から分けるというのはhamachan先生の「ジョブ型正社員」に通じる発想でもあります。滅多にいいこと言わないのだからたまに言ったときには大いにほめておかないと(笑)。いやいいことどころかまともなことを言うこともそう多くはないんですからこらこらこら。でまあ専門職とその他は職務給に近づいていくというのもたいへんにありそうな話です、というかその他はすでにほぼ職務給ですね。
さて最後に「それが定着するまでは」社長の公募は人気があるだろうと書かれていて、これは入口からマネジメントのコースを作ればその中から社長の人材が育つといいたいのかな。上で書いたように各社ともすでに経営人材の育成には熱心に取り組んでいるので、それほど変わらないような気はしますが。もちろん、実際に人材がなくて本当に困っているという場合には「オープンな経営」の訴求も含めて公募に踏み切る企業は増えるかもしれません。実際問題、人材はないわ引き受け手もいないわといった第三セクターなんかではけっこう経営者の公募も行われているわけですし。