週刊ダイヤモンド「解雇解禁」(7)

どこまで引っ張るのかと言われそうですがもう一回だけ。藤沢数希氏が「参考資料」としてあげていた城繁幸氏のブログのエントリをご紹介します。
http://blog.goo.ne.jp/jyoshige/e/e5e4bb63377e30a42cb6aac87f1c0494
ただ、城氏のエントリは冒頭に週刊ダイヤモンドの表紙が掲載されてはいるのですが、特に記事の内容に触れているわけではありません。エントリの趣旨は主に日弁連と宇都宮会長を揶揄するところにあるようですが、その部分は私としてはどうでもいいので省略させていただいて。

…何が何でも正規雇用が原則だという共産党や(一部の)労働系の弁護士センセイのご尽力のおかげで、契約社員であっても3年経ったら雇用主責任が発生するという判例が出来てしまっている(面倒なので、この人たちは以下“サメ”と呼ぶ)。
 というわけで、企業は請負や派遣といった形で雇用してきたのだが、サメ達は「それは偽装請負だ!」「派遣も3年経ったら直接雇用にすべし」といってそれらすべての芽を摘んできた。
 215人の偽装請負を指摘され直接雇用に切り替えたものの、3年待たずに雇い止めにするダイキン工業は、上記の構図の縮図である。ダイキンでは10年以上も働いていた労働者がいたそうだが、サメ達が「有期雇用を規制しろ」とやったために失職してしまったわけだ。…
 一方、企業にとってもメリットなど何もない。ノウハウのあるベテランをクビにし、またゼロから育成しなければならない。それも、3年置きに、ずっとである。
 生産性のムダ、人的資本の垂れ流しだ。このグローバル化の時代に!
 「では、非正規雇用労働者は、何も要求するなと言うのか?」と言われそうだが、それは違う。どんどん要求するべきだ。
 ただ、それは「正規雇用にしろ」ではなく「正規雇用制度を無くせ」 である。
 いったん期間の定めのない長期雇用とみなされると、企業は賃下げも解雇も合法的には不可能であり、だから請負や派遣といった形で雇用するのだ。そういったことが可能なシステムなら、誰も2年半なんて中途半端な契約にはしないし、大手なら派遣会社なんて最初から使わない。
 ついでにいうとリーマンショックのようなマクロショック時にも、正社員の側の人件費も調整するはずだから、非正規“だけ”が切られるなんてことは無い。
 要するに、非正規雇用正規雇用は表裏一体であり、後者を無くすことなしに前者はなくならないということだ。

例によって「契約社員であっても3年経ったら雇用主責任が発生するという判例が出来てしまっている」とか「期間の定めのない長期雇用とみなされると、企業は賃下げも解雇も合法的には不可能」とか書かれていて甚だ愉快*1なわけですが*2、そういう部分を除けば企業の人事管理の実態をふまえた議論になっており、さすがに藤沢数希氏よりは数段マシと申せましょう。藤沢氏は本当に参考にしたのだろうか。
実際、「要するに、非正規雇用正規雇用は表裏一体であり、後者を無くすことなしに前者はなくならないということだ。」という前提はまことにそのとおりですし、現状の非正規を規制することによる弊害の指摘もまずまずもっともです。
ただ、城氏は非正規雇用労働者は「正規雇用にしろ」ではなく「正規雇用制度を無くせ」 と要求しろ、と主張しておられますが、この結論はいかがなものかと思います。もちろんそう思う非正規労働者もいるかもしれませんが、いっぽうで「いや自分が正規雇用になりたいのだ」という非正規雇用も多そうですし、どちらもイヤだという人も(正規・非正規双方に)いるでしょう。また、正規雇用をなくしたときに、企業が従来同様に「ゼロから育成」するかどうかという問題もあります。
というわけで、繰り返しになりますが、私は現行の正規雇用(とその解雇規制)は残しつつ、より解雇に対する制約の少ない雇用契約も容認して雇用契約を多様化する方向の規制緩和が好ましいと考えているわけです。

  • あ、一部週刊ダイヤモンドが月刊ダイヤモンドになってた。失礼いたしました(修正しました)

*1:後者は端的に誤りですが、前者の「契約社員であっても3年経ったら雇用主責任が発生するという判例が出来てしまっている」というのは意味不明で、なかなかの傑作です。もちろん契約社員であってもなくても従業員を雇用すれば(3年経たなくても)その時点で一定の「雇用主責任」は発生しますし、「判例」といわれてもどれのことか見当がつきません。謎です。

*2:(9月9日追記)匿名の方から、上の脚注1について、城氏のブログにあるダイキン工業の雇止めを報じた関西テレビのウェブサイトの記事に「労働問題に詳しい専門家は「3年以上経つと雇用責任が生じる判例が多いため、低賃金で切りやすい労働者を合法的に確保するためだろう」と指摘」との記述があるとご教示いただきました。もちろんこの記事も意味不明・不適切であり、「専門家」氏がいいかげんなのか記者が正しく理解または記述できなかったのかわかりませんが、いずれにしてもお忙しい城氏がそれをうのみにしてほぼそのまま転記したのは致し方ないのかもしれません。ご教示ありがとうございました。