昼休みで書ける城繁幸氏ネタ

考えをまとめてきちんと書かなければいけない課題がいくつか投げかけられているのですが、なにしろ雇われの身としてはあれこれ火の粉がかかる中でなにせ時間がなくてすみません。なんとかならんか、この状態は…。というわけで今日も小一時間で書けるネタということで、困ったときの城さん頼み(笑)。毎日ネタですみません(笑)というか、ネタにマジレスするのもカッコ悪いのではありますが、相変わらず電波飛ばしまくってます…。
ということで城繁幸氏のブログから一つ二つ。まずは1月29日の「本当に日本の解雇規制は緩いのか」というエントリ。
http://blog.goo.ne.jp/jyoshige/e/6d0713908f0e40daa4b0497d3d250eba

 モリタクがまた妙なことを言っている。もうこの人はほっといても良いのだけど、僕のことを意識した反論くさいし、何よりこういうのを野放しにするのはやっぱり教育上よろしくないと思うので、ここは一つ後輩として介錯してやろうと思う。

おまえが言うかおまえが。まあ、たしかにモリタク先生もたいがいで勘弁してくれという感じなんですが、少なくともそれなりに経済学のバックボーンがあるという点で城氏よりかなりマシだと私は思います。城氏は人事部勤務がバックボーンだと言いたいのでしょうが、まるっきりバックボーンになってないんだものなぁ。ときに、城氏はモリタク先生の何の後輩なの?評論家の後輩?デタラメの後輩と言ったらモリタク先生に失礼でしょうし…。
さて、その後は解雇規制の国際比較の話になるのですが、その中で

 法律上は、一ヶ月前の告知で一か月分の賃金さえ払えばいつでも誰でも解雇可能となっているわけで、総合ランキングだと日本のポイントが低くなるのは当然だろう。
 だがそんな風に解雇される労働者は稀だ。

本当にこの人「人事コンサルタント」なの?ここ労働基準法があるから、第19条と第20条を読んでおけ。ここに労働契約法があるから、第16条を読んでみろ。こんなことは、人事部に配属されて1ヶ月の新入社員だって知ってるよ。城氏は富士通の人事部で勉強しなかったのかなぁ。

  • ご参考までに、労働基準法第19条は労災休業中と産前産後休業中およびその後30日間の解雇を禁止しています。労働契約法第16条は申し上げるまでもなく解雇権濫用法理を成文化したもので、「法律上は、…いつでも誰でも解雇できる」というのは大間違いもいいところです。また、労働基準法第20条は、解雇する場合は少くとも三十日前にその予告をしなければならず、三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない(予告の日数は、平均賃金を支払った日数短縮できる)と定めていて、「一ヶ月前の告知で一か月分の賃金」を支払うことまでは求めていません。これは人事担当者にとっては初歩の初歩です。

「だがそんな風に解雇される労働者は稀だ。」というのは、ある意味正しいといえば正しいといえます。世間には、解雇予告や解雇予告手当の支払いもなしに「明日から来なくていいからな」と解雇する程度の低い使用者がまだまだいるのが悲しい現実だからです。とはいえ、とはいえ、正しい手続きで解雇されている労働者も多いと思いますので、「稀」と言えるかどうかは疑問ですが。
さて、その後の議論は、「建前はともかく、中小企業などでは実態として解雇が多々行われている」と述べるモリタク氏に対して、城氏は「建前は厳しいし、大企業では解雇が行われにくい」とかみあわない反論を展開(それで論破した気になってしまってるのが城氏の痛いところ)し、結局は

…どんな制度であろうと、雇用調整はなされる。問題はそれが規制によって一部の下請け企業、特定の雇用形態の労働者に集中し、資源と人員の効率的な配分がなされていない点にあるのだ。

という持論を展開しています。言葉はもっともらしく体裁を整えていて、例によって城氏は大企業の中高年正社員憎しのようですが、規制なしに雇用調整できるようにすれば、現実に起こるのは中高年正社員よりは未熟練の若年や非正規労働者のより一段の解雇でしょうし、それなりに体力のある大企業よりは中小企業でのより一段の解雇でしょう。まあ、城氏としてみれば、もっともらしい言葉で若年や非正規の味方を装ってはいるものの、現在以上に大企業の中高年正社員が泣きを見るのであれば、中小企業や非正規労働者がさらにひどいめにあってもかまわないというのが本音なのでしょう。

 もしここを見ているテレビ局の人がいるなら、お願いしたいことがある。
 あなた方に公共心があるのなら、もうこの男は金輪際使わないで欲しい。
 どんなに我々が正論を吐いても、この男はお金儲けのために電波で嘘を撒き散らしてしまう。
 獨協大教育機関としての自覚があるなら、こんな嘘つきを教壇に立たせるべきではない。

おまえが言うかおまえが。「どんなに我々が正論を吐いても」って、城氏の正論なるものは「俺様をコケにした富士通の中高年の奴らに泣きを見させたい」だとしか思えないんですけど(邪推ですよ邪推)。「お金儲けのために電波で嘘を撒き散らしてしまう」ってのもご自分のことじゃないんですか?いや、モリタク先生にしても城氏にしても、その手の文章を見たり聞いたりして気持ちよくなる人も一定数いるわけで、そうしたニーズに応えてカネ儲けをすること自体は私は別に悪いことではないと思います。まあ、個別に見れば迷惑を被る気の毒な人もいるでしょうが、見え透いたウソなのでそれほど影響力を持つこともないですから、まあ仕方ないんじゃないでしょうか。

もう一つ、その前日(1月28日)の「連合が「Yes」と言えない理由」というエントリもなかなかのものです。
http://blog.goo.ne.jp/jyoshige/e/a7d622cff1e77e61373939df01d3b4ad

 はっきり言うが、春闘なんて時間の無駄なのでやらないほうがいい。
 日産みたいに前年度の業績に応じて人件費の原資を決めるルールを作ったほうが、人事も労組も楽で良いだろう。
 というか、実際には他の大手もそうやって決めてるわけだし。

いやはや、城氏は富士通の人事部にいたはずなのですが、春闘で電機の労使がなにを交渉し、協議しているのかご存知ないんでしょうかね?給料を上げろ、いやそんなカネはない、なんてやりとりばかり何時間もかけてやってるとでも思ってるんでしょうか?それはそれとして、日産は「前年度の業績に応じて人件費の原資を決めるルール」を作ったんでしたっけ?私が知らないだけ?

 職務給や年俸制の企業と違い、一般的日本企業の雇用契約においては「誰がどれくらい貢献していくら支払うか」というコスト管理の概念が完全に欠落している。
 だから同一労働同一賃金を実現しようとしたって、出来るわけがない。
 誰がいくらの仕事をしているのか、人事にも管理職にも誰にもわからないためだ。

もう滅茶苦茶で何を言っているのか理解に苦しむ(何をいいたいのかはわかりますが)のですが、とりあえず人件費の「コスト管理」というのは、ざっくり言えば「この商品はいくらで売れるだろう、したがって原価はそれ以下にしなければならない、そのためには原材料費などを考えれば人件費はこのくらいにする必要がある…」といったものでしょう。その中で限られた人件費を必要な労働力に対してどのように使うか、配分するかといった議論の中で「どのくらい貢献していくら支払うか」という考え方も出てくるわけで、「貢献」はその際に考慮すべき要素の一つにすぎません。もちろん「職務」もその要素の一つですし、能力や生計費、市場の相場なども考慮に入ってくるでしょう。どれをどのように考慮するかは各企業の考え方次第で、城氏にもご意見はあるでしょうが、どれが正解とはなかなか言えないものがあります。ちなみに「年俸制」というのは賃金の支払い方の問題で、これはこれでまた異なる問題になります。
「だから同一労働同一賃金を実現しようとしたって、出来るわけがない。誰がいくらの仕事をしているのか、人事にも管理職にも誰にもわからないためだ。」というのはたしかにそのとおりで、神ならぬ人間に「この仕事の賃金はいくらが正しい」と疑問の余地なく決めることなどできるわけもなく、仕方がないから労働市場の需給関係とか、それこそ春闘での団体交渉とかいう不完全な、しかし比較的マシな方法で決めようとしているわけですね。海外で言われている同一労働同一賃金だって、職種別の労使による中央団体交渉で決めたりしているわけですし。まあ、城氏はご自身のことをそれが正しく決められる神のごとき叡智の持ち主だと思われているのかもしれませんが…まさかそんなことはないか。

 ではまったく報酬に関する契約が存在しないかといえば、あるにはある。それが「後で出世するから生涯賃金で見れば世代間の不公平は生じないよ」という年功序列的価値観だ。賃金カーブで言うなら「あなたもこのラインをなぞって、先輩みたいに昇給しますよ」ということになる。もちろん、これは「暗黙の契約」なので明文化はされてはいないが、日本型雇用の唯一の正当性の根拠と言っていいだろう。
 連合として定昇凍結を認めるということは、彼ら自身が既得権の正当性を否定し、日本型雇用の崩壊を認めることになる。
 これだけはそうやすやすとウンとは言えないはず。

いや、この人本当に富士通の人事部にいたの?定昇凍結といってもツンドラみたいに永久に凍結するわけではなく(それは凍結とは言いませんよね)、一年だけやめておきましょう(あるいは一部分だけにしましょう)ということですから、それは賃金カーブを1年分(あるいは0.何年分か)右にシフトするに過ぎません。これはたしかに総額原資が減少して賃下げになりますが、いずれ業績回復してベアが復活すればやがて追いついていくわけです。賃金カーブが右方シフトしても形状が変わらない以上は、その平均変化率としての定昇もそのまま温存されて変わることはありません。

  • まあ、厳密に議論しはじめればいろいろ技術的な論点はありますが。

したがって、仮に労組が定昇凍結で妥結したとしても、それが「既得権の正当性を否定し、日本型雇用の崩壊を認める」なんてことにはさらさらならないわけですね。連合としては名目での賃下げ阻止を訴えているわけで、それはそれで「そうやすやすとウンとは言えない」でしょう。

 メディアも、そして若い組合員の多くも、定昇の見送りが意味することは深くは考えないだろう。だがその日は、連合が正式に「50代が逃げ切るために2,30代を切り捨てた」という記念日となるはずだ。
 ※実際には00年前後に個別の企業で凍結されている。また、35歳以降は業績連動性にして、平均的に昇給を抑制する仕組みに変えている企業がほとんど。新著で書いたとおり、サラリーマンの40代以降賃金カーブが過去10年低下し続けているのはこれが原因。

「業績連動性」ってなんだよ。それはそれとして、まあメディアも若い組合員の多くも、城氏みたいなデタラメな考え方では深くは考えないことは間違いなさそうです。元が悪いからどうしようもないのですが、1年定昇を凍結することのなにがどうなって「50代が逃げ切るために2,30代を切り捨てた」になるのかさっぱりわかりません(まあ、賃金カーブは若い世代のほうが傾きが大きいので、一律凍結だと凍結幅は若い世代のほうが大きくなりますが)。城氏の「50代を逃げ切らせたくない」という怨念だけはよく伝わってきますけどねえ。
それから、「35歳以降は業績連動性にして、平均的に昇給を抑制する仕組みに変えている企業がほとんど」って本当ですか?春闘の文脈で「昇給を抑制」というのですから月例賃金のことですよね?「ほとんど」というからには過半をかなり上回るのでしょうが、35歳になると月例賃金が業績連動になって昇給が抑制される仕組みになっている企業がそんなにたくさんあるとはとても思えないのですが…というか、不勉強な私に10社でいいから教えてくれませんか?
というわけで小一時間でこれだけ書けました。城さんありがとう。

  • (2月4日追記)「富士通」を連呼してうるさく感じられたかもしれません。お詫び申し上げます。為念申し上げておきますと、私が存じ上げている富士通の人事の方はみな勉強熱心で当然正確な知識を持った有能な方ばかりで、おそらく人事部もそうした優れた組織なのではないかと拝察します。実際、結果はともあれ、あれだけアグレッシブでチャレンジングな試みを行い、問題ありと見ればこだわらずに見直すということは、普通なかなかできることではありません(城氏はその「問題あり」の部分を面白おかしく暴露したわけですが)。そういう前提で、城氏は富士通の人事部にいたはずなのにおかしいな…と申し上げているわけです。