なにを今さら

次は8月11日のエントリで、「長期雇用の立場からみた規制緩和の必要性」というお題がついています。これはネタタグを貼ろうかどうか少し迷うくらいにまともに近づいていますので逆の意味で(笑)備忘的に。
http://jyoshige.livedoor.biz/archives/4131072.html

 先日、某・重厚長大系企業の人事部長と話した時、色々と面白い話を聞いた。
 コテコテのモノづくり企業では、長期雇用重視の流れは基本的に一貫している。
 (中国鉄道事故の影響もあるとか)
 その企業も「職能給も捨てることは絶対にあり得ない」とのこと。
 では労組のように終身雇用バンザイかというとそんなことはなくて、むしろ金銭解雇のような規制緩和は必須だと認識しているそうだ。
 新時代の日本的経営で示されたように、コア業務=正規雇用、周辺的業務=非正規雇用という振り分けが、現在の日本型雇用制度の肝の部分だ。
 派遣切りに代表されるように、雇用調整は非正規の部分で行われることになる。
 ただ、必ずしもコアと非コアが業務内容で区切られているかというと、全然そんなことはなくて手のつけやすいところから非正規に置き換えられているのが実情だ。
 案外と知られていないことだが、実は2000年前後に大手製造業で行われたリストラは、そのほとんどが製造ライン対象で、事務系はほとんど対象となっていない。
 現場で年収一千万の職長クラスのベテランを早期退職させつつ、本社には生産性ゼロの担当〇長などがゴロゴロしている光景は、どこの大手でもありふれたものだ。
 この十数年というのは、「モノづくりを大事にする」と言いつつ、全然逆のことをやっていたケースが結構あったのではないかと、個人的には思っている。
 現場の技術者や職人の方こそ終身雇用で、ホワイトカラーの方が年俸制でも何でもいいんじゃないか、という話が、重厚長大系の人事部の中からポンと出てくるようになったというのは一つの変化だろう。
 それは、規制緩和した上で、個別の企業が判断すればよいことで、白と黒が混じってグレーになるのではなく、実際にはマダラ模様になるのだろう。
 長期雇用と規制緩和の目指すゴールというのは、意外に近いものなのかもしれない。

うん、しかしまあまともなのはもっぱら某・重厚長大系企業の人事部長の話の部分かな(笑)。
多少解説が必要かと思いますが、まず「金銭解雇のような規制緩和」は労組が警戒している「手切れ金でサヨウナラ」ではなく、「不当解雇の金銭解決」(まあこれも労組は大反対しているが)のことでしょう。「重厚長大系企業」なら労組と協議して割増退職金積んで希望退職、というのもルーチンでしょうし。
さて「案外と知られていないことだが、実は2000年前後に大手製造業で行われたリストラは、そのほとんどが製造ライン対象で、事務系はほとんど対象となっていない」以降は少し怪しくなってきて、まず現実には2000年前後の大手製造業(特に電機)のリストラは株式市場対策で発表人数を水増ししており、その相当部分は実は海外現地法人で行われました。さらには事業部門の分社化なども人員削減にカウントしたりしていたと記憶しています(あらためてウラをとったわけではないので自信なし)。その過程では事務系も相当程度分社化や転籍出向などの対象になっていたはずです(技術系は各社がんばって維持していたと思いますが)。いつものことながら城氏の記事は誇張が過ぎるようですね。
「現場の技術者や職人の方こそ終身雇用で、ホワイトカラーの方が年俸制でも何でもいいんじゃないか、という話が、重厚長大系の人事部の中からポンと出てくるようになったというのは一つの変化だろう。」っていうのは、いや城氏も引き合いに出している1995年の日経連の『新時代の「日本的経営」』が言っていることがまさにそれなんですが。城氏はこれを「コア業務=正規雇用、周辺的業務=非正規雇用」といたく単純化しておられますが、『新時代の「日本的経営」』が提示した自社型雇用ポートフォリオにはもうひとつ「高度専門能力活用型」という類型もあって、まさに一部の高度なホワイトカラーは1年契約の年俸制でもいいじゃないか、という発想にその当時(1995年ですよ)すでになっていたわけです。ちなみに『新時代の「日本的経営」』には検討に加わったメンバーのリストがついていますが、重厚長大型企業の人事部長さんの名前も何人かみえますな。
ただ、それが実態としてあまり拡がっていないことは事実で、したがっていずれは城氏のご指摘のとおり「白と黒が混じってグレーになるのではなく、実際にはマダラ模様になる」でしょうし、そのために一定の規制緩和(組織への拘束度と雇用保障とがともに現状の総合職正社員より低い労働契約を実質的に可能とするなど)が求められてもいます(まあ、城氏のお考えなのは相変わらず首切り自由化の規制緩和なのかもしれませんが)。このへんは城氏にしてはたいへんにまともな論になっていますが、ただこれは少なくとも3年くらい前には業界では相当に有力な見解になっていたわけで(たとえばhttp://d.hatena.ne.jp/roumuya/20090108参照)、また製造現場では長期雇用が依然として有効だということは総合規制改革会議華やかなりし時期でも例えば八代尚宏先生のようなモノのわかった論者はきちんと指摘していたわけで、そんなん今さらあなたに言われてもなあという話です。城氏のブログは相変わらず楽しいのでもう一日続きます。