高年齢者雇用研究会報告たたき台(続)

もう一日厚労省の高年齢者雇用研究会を取り上げたいと思います。今回は報告書のたたき台で触れられていないポイントで、一昨日ご紹介した日経新聞の記事でも触れられていた「若年雇用に悪影響が出る可能性もある」という点です。「たたき台」では最初に「少子高齢化の進展に伴い、労働力人口の減少が見込まれている」と述べていますので、少なくとも長期的には高齢者雇用の拡大が労働市場に悪影響を及ぼすことはないという立場なのでしょう。
実態はどうかというと、年齢階層別完全失業率の推移をみると、基本的にはどの年齢階層も景気循環に連動して動いているのですが、特徴的なのは55〜64歳と25〜34歳の動きで、2003年までは前者が7%前後、後者が5〜6%程度だったのに対し、改正高齢法が成立した2004年を境に逆転し、その差も拡大傾向にあります(http://www.stat.go.jp/DATA/roudou/rireki/nen/ft/pdf/2009.pdfの28/46にデータがあります)。これだけをみれば、高齢法改正によって若年雇用に悪影響があったようにも見えます(もちろん統計的な検証が必要で、有意な影響はなかったという結果をどこかで見たような気も。ご存知の方ご教示いただければ幸甚です)。ちなみに、第1回高年齢者雇用研究会に提出された「資料4 高年齢者雇用の現状と課題について」(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000w15e-att/2r9852000000w194.pdf)にも年齢階層別完全失業率推移のグラフがあるのですが、なぜか45歳〜49歳以上の年齢階級しか表示されておらずいささか不審な印象はあります。いや15〜24歳は数字が大きすぎてグラフがはみ出すとか、5歳刻みのデータなのでそれ以上増やすと見にくくなるとかいうことだろうとは思うのですが。
いずれにしても高齢法改正が労働需要に大きく影響するとは思えないわけで、法改正でこれまで再雇用されなかった高齢者が再雇用されるとすれば、従来ならその仕事についていたはずの人が職からあぶれるということは自明なように思われ、長期的にはともかく短期的にはそれなりの影響は避けられないでしょう。あとはどの程度の影響があるのかという問題と、どのような労働者に影響するのかという問題になりますが、とりあえず上記第1回研究会の資料によれば基準に該当せずに継続雇用されなかった人は定年退職者全体の2%にとどまるということで、したがってそれほどたいした話ではないというのが厚労省の評価のようです。
しかし、現実には継続雇用を希望しなかった人が26.3%いることにも注意が必要で、この中にはもう引退するとか、あるいは別の企業で働きたいとかいった理由で希望しなかった人もいるでしょうが、中には「希望しても基準に該当しないだろうから希望しない」という人もいるでしょう。基準ありの企業では希望しない人が29.2%、なし(希望者全員)の企業では19.5%となっており、その差の9.7%のかなりの部分はそうした人の存在によるものだと考えられるのではないでしょうか。こうした人の中には基準制度がなくなれば希望を出す人もかなりいると思われます。さらに、老齢厚生年金が支給されるなら引退するけれど、支給されないとなると引退はできないなという人も一定数いると思われますから、およそ従来実績の2%ではとどまらない、おそらくは十%以上の影響はあるものと思われます。やはり同じ資料によると55〜59歳の就業率は74.2%ということで、まあ定年時はもう少し低いでしょうが、それにしても毎年一学年の7%とか8%とかの求人が減るわけで、決して小さい話ではありません。いずれにしても2013年に一気に65歳に持っていくというのは無茶で、やるにしても支給開始年齢引き上げにあわせて段階的に進めるべきでしょう。
さてこのしわ寄せは必ずしも若年に向かうとは限らないわけですが、しかし失業率が高く求職者が多い若年により大きく影響するであろうとは想像できます。
また、従来であれば基準に該当しなかった人については、常識的に考えてそれほど技能が高くない人が多いだろうと思われますから、そうした仕事につく人に影響するものと思われます。やはり比較的技能の高くない傾向のある若年が影響を受けやすいのではないでしょうか。ただ、そうした仕事は雇用されても低賃金だったり、不安定な非正規雇用であったりする可能性が高いわけで、そういう意味では悪影響の程度は高くないともいえるかもしれません。
いっぽう、年金が出ないから引退はやめる、という人の中にはかなりの高技能者も含まれている可能性もあります。この場合、企業にしてみればやめられて困る人が残ってくれる、しかもかなり減額した賃金で働いてもらえるわけですから、ありがたい話になるかもしれません。ただしこの場合はその人が引退していれば他の人が得ていたであろう良好な就業機会がひとつ埋まってしまうことにはなります。
いずれにしても短期的には労働市場に少なからぬ影響は出るはずで、あまり軽視しないほうがよさそうに思われます。前回の改正はたまたま好況期にあたったので幸いでしたが、さて2013年4月の状況はどうなっているでしょうか。これが不況期にあたったりしたら若年を中心に相当の悪影響が出そうです。今は異常事態ですが、今後復興需要が出て好況に沸き、それが2015年くらいまで続いてくれれば法改正のショックを吸収できるかもしれませんが、復興景気が短期にとどまり、2013年には反動で大きく落ち込んでいた…ということになる危険性もあります。そうなるとマクロでもやばいですが、ミクロではそれこそ40代、50代で希望退職とかリストラしているかたわらで60歳の人は希望者全員継続雇用という話になるわけで、これは現場はたまらないでしょう。結局はとにかく経済・財政政策をしっかりやって好況を長引かせてほしいということになるわけですが、しかしこれまでの現政権の政策をみていると望み薄な感もこれあり、あまり危険なギャンブルはしてほしくないなあと私などは思うわけですが。昨日もう一回だけと書きましたがそれではどうするんだという話もありますのでもう1日続きます。