高年齢者雇用研究会報告たたき台(続2)

さて一昨日・昨日と厚生労働省高年齢者雇用研究会の報告書たたき台について書いてきました。たしかに現実に2013年から老齢厚生年金の支給開始年齢引き上げが始まる中でなんらかの無年金者対策が必要であり、それが働く場の確保を通じて行われることが望ましいことは間違いないにしても、たたき台が示したような一律的な法制化による対応は他の世代とのバランスや労使関係・雇用慣行の実態を考えると無理が大きいと言わざるを得ないように思われます。
それではどうするのかという話になりますが、高年齢者は多様であり、企業・職場の実情もまた多様であることを考えれば、やはり個別労使の自治に多くを委ねていくことが望ましいのではないでしょうか。先日書いたように現行制度でも労働サイドは拒否権を持っていて交渉力が強いわけなので、なるべく多くの高年齢者が雇用され、希望者全員に近づいていくよう、職場や働く人が理解し納得できる方策を検討し、経営に提案していくことが期待されると思います。もちろん、提案を受けた協議の中では定年後のみならず定年前の従業員の配置・処遇・労働条件などについても議論が必要になるでしょうが、各労使が誠意と互譲の精神をもって協議し、得られた結論が最大限尊重されるというのがあるべき姿ではないかと思います。
この時に重要なのが労働サイドの代表性の確保であることは言うまでもなく、そのための規制は当然必要になると思います。現行の基準方式であれば過半数代表ではなく労基法38条の4の労使委員会を活用するアイデアもあるでしょうし、私は思い切って過半数労組との団体交渉・労働協約を要件としてもいいと思います。過半数労組のない事業所については希望者全員再雇用、あるいは定年延長を義務化し、過半数労組との交渉が整った場合に限って基準を認める、さらには再雇用の形態などもより自由度を高めるといった内容を織り込んでもいいかもしれません。これは代表性の確保に加えて、私がたびたび言及している「経営にとって労組が存在することのメリット」となり、労使関係の安定や高度化に資するのではないかと思います。
いっぽう、こうした労使の努力にもかかわらず働く場が確保できない人の安全網を準備することも必要でしょう。「たたき台」でこれに触れていないのは基本的な考え方として希望者全員が継続雇用されるのだから安全網は不要だということなのかもしれませんが、しかし希望者全員を法制化しても「働きたいけれどこの企業で続けて働くことは希望しない、しかし仕事が見つからない」という人は一定数出るでしょうし、いかにたたき台が生計費賃金を要請しても、現実には継続雇用はされたものの1日4時間以上就労することが困難で、収入が不十分だという人も出てくるでしょう。前者のように失業状態であれば新設される見込みの求職者支援制度でカバーできるのでしょうが、後者のようなケースについては部分失業給付のようなものを考える必要があるのかもしれません。というかこれも年齢とは関係のない話だとも思いますが。まあ制度設計によっては失業して失業給付・求職者支援制度を使ったほうがいいという話になるかもしれませんが…。もちろん、公的制度に限らず、継続雇用されない人については企業福祉としてつなぎ年金的なものを設けることも、労使で合意できるのであれば有力な選択肢だと思います。
労働市場全体への影響については、まずはもちろん企業が技術開発や商品開発などに努力して付加価値を高め、雇用を増やすことが求められますし、労働サイドにもそれに対する協力が望まれましょう。それに加えて、昨日も書きましたが適切な経済政策・金融政策によって経済活動が活性化され、労働需要が高まることを期待するということになるでしょうか。