インドの解雇規制

SankeiBizでインドの解雇規制が紹介されていましたので、備忘的に転載しておきます。

 インド・ムザファルプルの町で縫製工場を経営するシェカール・バグワットさんは昨年、モスクワやプラハ、ベルリン、ロンドンなど欧州各地のブティックに計200万ドル(約1億6400万円)超の女性下着を送り届けた。バグワットさんの工場では92人の従業員が、ブラジャーから特別注文のガーターベルトまでさまざまな女性用下着を縫製している。しかし、男性用下着は扱っていない。

 高級な女性用下着なら、ブラジャー1着で最大3ドルの利益を得られるが、男性用下着で同水準の利益を得るためには100枚販売する必要がある。もちろん、より多くの人手も必要となる。

 そして、インドの労働法では、被雇用者が100人を超えた雇用主は労働者の解雇に際しては政府の許可が必要となり、事実上解雇ができなくなるのだ。

 この下着縫製をめぐる問題が浮き彫りにするのは、インドの労働法がいかに海外からの投資を阻害し、製造業の成長を妨げているかだ。スイスの金融大手クレディ・スイスで東南アジア・インド経済部門の責任者を務めるロバート・プライアワンデスフォーデ氏は「インドが他の新興国と異なるのは、工業部門の改革なしで成功を収めているということ」と驚きを隠さない。

 インドの労働法は1880年代に生まれたもので、最後の全面改正は、インド産業紛争法(1948年)だ。この法律では、労働者を100人以上雇用する企業は、余剰人員を産み出すことが禁じられているほか、違法行為以外の理由での解雇も禁止している。労働省によれば、そのほか45の連邦法や約200の州法が労使関係を規定している。

 そういった法律によって、企業は出勤記録を6枚作成する必要があるほか、給与について5種類の書類を用意しなければならなくなる。さらに、「賃金」という用語1つに少なくとも11種類の異なった定義が存在する。

 一方、こういった規制を緩和して成功した業界もインドには存在する。同国2番目の外貨の稼ぎ手であるIT(情報技術)産業だ。IT分野の成長を促すため、2001年以降、労働法の一部が緩和された。規制緩和により、IT企業やコールセンターは24時間の営業が可能となったほか、女性の夜間勤務が許され、職員を自由に雇用できるようになった。

 インドはIT業界の成功を受けて、整備されたインフラを持ち規制の少ない特別区の創設を進めている。財務省によれば、インドにはこういった経済特区が100程度存在しているほか、そのほかにも470カ所超が承認されており、2005年以来、350億ドルの投資を呼び込んでいる。(ブルームバーグ Mehui Srivastava)
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/110208/mcb1102080506024-n1.htm
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/110208/mcb1102080506024-n2.htm

時折紹介される話題ですが、しかし客室乗務員を太りすぎを理由に解雇したのってどこの航空会社だったっけとも思うわけです。
私はインドの労働事情にははなはだ疎いのですが、ウェブ上をざっと見てみても、インドの労働規制は厳しいという話と、いやいやそんなことはありませんという話と、両方出ているようです。
想像するに、規制は規制としてあることはあるのでしょうが、実効性の問題があるのではないかと思うわけです。どういうことかといいますと、たとえば解雇には政府の許可が必要だが、その許可が容易に下りるという可能性があります。エアインディアでは就業規則?で客室乗務員の体重制限が定められていたそうで、それをもとに解雇が行われたらしいのですが、仮にこうした理由での解雇が簡単に許可されるのであれば、たしかに「政府の許可」という規制は外形的にはいかにも厳しく見えますが、しかし実態としてはそれほど厳しい規制であるともいいにくいでしょう。
あるいは、規制はあるけれど違反した場合の処罰や救済が行われない、行われにくいという可能性もあります。法違反の解雇があまりに多すぎて行政の手が回らない、となると、規制はあっても事実上野放しに近い状態が出現するかもしれません。
インドの現実がどちらかなのか、両方なのか、どちらも違っていてやはり解雇は実効的に厳しく規制されているのか、どうやら業種によって違うらしい(上の記事でもIT業界の規制は緩いという話が紹介されています)という情報もあり、よくわからないのですが、いずれにしても「政府の許可が必要」だけで「規制が厳しい」と即断はできないように思われます。というか、実際に解雇がバンバン行われるから「政府の許可が必要」ということになっている可能性もあるわけですし。実際はどうなのでしょう?