きのうの日経から。先日のエントリ(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20090325#p1)で「あまり期待できないのでは」なんて書いたとたん、労働政策審議会に出てきてしまいました(笑)。
まず1面の記事。
厚生労働省は二十五日に開催した労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の分科会に追加の雇用対策の具体案を提示した。残業の大幅な削減で従業員の雇用を維持するワークシェアリング(仕事の分かち合い)を導入した企業に、非正規労働者一人当たり最大年四十五万円を助成する。派遣先企業に賠償などを求めやすくするなど、派遣労働者の保護を目的とした指針も強化する。(関連記事5面に)
政府、日本経団連、連合は二十三日に、労使で合意した「日本型ワークシェアリング」を、政府が雇用調整助成金で支援することで合意していた。厚労省は今回示した雇用対策について、年度内の実施を目指す。
ワークシェアリングの支援では、雇用調整助成金に創設する新たな枠組みで企業を助成する。対象は残業の削減や従業員の雇用維持などの条件を満たす事業主。大企業では契約社員など有期労働者一人当たり年二十万円(中小企業三十万円)、派遣社員なら同三十万円(同四十五万円)とする。
(平成21年3月26日付日本経済新聞朝刊から、以下同じ)
で、(関連記事5面に)というのがこれです。
厚生労働省は労働政策審議会(厚労相の諮問機関)に示した追加の対策で年度末に向けた雇用の安全網(セーフティーネット)の拡充を打ち出した。ワークシェアリング(仕事の分かち合い)に対する支援で非正規労働者に手厚く対処するとともに、解雇が相次ぐ派遣労働者の保護にも目配りする。いずれも法改正が必要なく、即効性が見込めるのが特徴だ。(1面参照)
政府はこれまでにも雇用対策に乗り出しているが、雇用不安になお収束の兆しは見えない。こうした状況を踏まえて、与党は追加の雇用対策を策定。政府、日本経団連、連合も雇用の安定・創出に向けた緊急対策で七年ぶりに合意している。近く非正規労働者まで適用を広げる雇用保険法改正案も成立する見通しだ。
厚労省が今回、労政審に示した具体案には非正規労働者の雇用維持を狙うワークシェアリングへの新しい助成の仕組みが盛り込まれた。非正規労働者一人当たり年二十万―四十五万円という企業に対する助成は、雇用を維持するインセンティブになるとみられ、失業者の増加を抑える効果が期待できる。
また従業員を一切解雇せずに休業で雇用維持した事業主への休業手当の助成率も大企業、中小企業ともに上乗せする。
派遣先企業などが守るべき指針を強化し、派遣労働者を安易に解雇するような悪質な事例の防止も狙う。具体的には、派遣先の責任で派遣契約が中途解除になった場合、派遣先が損害賠償することを派遣元との契約のなかで定めるよう指針に盛り込む。契約の解除で職を失った派遣労働者に対し、派遣元が他の職場を確保することも明確にする。
ただ今回の内容で雇用対策が万全とはいえない。労働者派遣を巡っては一定の資産規模などで人材派遣会社を制限すべきだとの声も強い。厚労省は与党の追加雇用対策に沿って、派遣業を担える企業の資産要件を一千万円から二千万円に引き上げるほか、派遣企業の責任者が受けるべき講習を五年ごとから三年ごとにすることを検討する。
「残業の大幅な削減で従業員の雇用を維持するワークシェアリング(仕事の分かち合い)を導入した企業に、非正規労働者一人当たり最大年四十五万円を助成」ということは、仕事が減ってきて、残業もどんどんなくなってゼロに近くなってしまい、いよいよ雇用を減らさなければならない、しかたないからまずは非正規労働者を契約期限の到来した順に雇い止めしていくしかないか…という状況の企業に対して、「そこを雇い止めせずに持ちこたえてくれれば一人あたり年20〜45万円助成しましょう」ということでしょうか。派遣のほうが高くなっているのは、派遣は手数料が発生する分企業の支払額が多いことが考慮されているのでしょうか。
しかし、「雇用を維持するインセンティブになるとみられ、失業者の増加を抑える効果が期待できる」かというと、それはいかほどのものか、やはり疑問は禁じ得ません。先日も書きましたが、年20〜45万円助成するから、仕事のない非正規労働者をもう1年間雇い続けてください、と言われて「そうしましょう」という事業主がどれほどいるのでしょうか?まあ、特別な技能があるとか、あるいは勤務時間や出勤日数の少ないパートタイマーで、年間賃金が100万円くらいということであれば(そういうケースも満額出るのかどうか知りませんが)、「長いこと来てくれていることだし…」といったことで利用する事業主もいるかもしれませんが、常識的に考えて、残業ゼロまで追い込まれた事業主に、多少の助成金で仕事のない非正規労働者を雇い続ける余力があるとはあまり思えません。もちろん、残業ゼロだからといって即座に非正規労働者もゼロになるわけではなく、一部は仕事のある非正規労働者も当然いるでしょうから、そういう非正規労働者については利用されそうです。したがって、仕事が減った以上に非正規労働の雇用が減少することを喰い止める効果はあるでしょう。逆にいえば、これは結局助成金がなくても雇用されていた可能性の高い人に助成金を使ったという結果になるともいえるわけですが…。
あるいは、残業ゼロになったあとも非正規労働を減らさず、正社員も含めて所定労働時間を短縮して賃金を減額する本格的なワークシェアリングを実施している企業であれば、人員と仕事量が見合っていますので、この助成金が効果的になる可能性あるかもしれません。ごく単純化した議論ですが、非正規雇用を減らして人員を仕事量にあわせるのに較べれば、助成金が支給される分だけ企業は有利になるからです。
しかし、これも実際にはなかなか困難かもしれません。正社員からしてみれば、非正規労働者も正社員も同様に賃金を減らされるというのはなかなか納得しにくいものがありそうだからです。非正規労働は正社員と較べて傾向的に勤続が短くて企業組織へのコミットが低く、基幹的業務に従事する割合も低く、技能や経験なども高くないことが多いでしょう。そうなると、どうしても「仕事のなくなった非正規労働者を期間満了後も継続雇用するために、自分たちの賃金を減らされるのは納得できない」ということになってしまうのは、情において否定しがたいものがあります。正社員同士においてすら、全員の賃金減額よりも希望退職募集を選ぶ労組が多いのですから、なかなか「同じ働く仲間じゃないか」というわけにはいかない実態がありそうです。
まあ、常識的に考えて仕事がないのに従業員を雇い続けるというのは基本的に不自然なわけで、得がたい技能や知識・経験などを持つ正社員、あるいはそれを意図して育成されつつある正社員ならまだしも、そうでもない非正規労働者を仕事がないにもかかわらず契約期間が満了した後も雇い続けさせようという発想そのものに無理があるのではないでしょうか。もちろん、やらないよりはやったほうが…ということはあるだろうと思いますし、できることは総動員する、ということも必要な状況かもしれません。導入されれば全国の職安が利用促進に動くでしょうから、それなりに利用もされるでしょう。ただ、上でも書きましたが、おそらく利用されるのは助成金がなくても雇用されていた可能性の高い非正規労働者が大半になるのではないかと思います。
いっぽう、「派遣先の責任で派遣契約が中途解除になった場合、派遣先が損害賠償することを派遣元との契約のなかで定めるよう指針に盛り込む」、これは重要だろうと思います。たとえば1年間派遣を受け入れます、と契約した以上は、仕事が乏しくなろうが全くなくなろうが、1年間は受け入れるのが当たり前でしょう。ところが、先日、リクルートワークスの大久保幸夫さん、一橋の川口大司さんと話をする機会があり、そのときに大久保さんに聞いたところでは、派遣で失職している人の半分くらいが期間途中の解約で、そうち八割の人は同時に派遣会社の雇用も終わっているのだそうです。これは派遣労働者にとってはまことに迷惑な話です。中途解約で雇用を終わらせてしまう派遣会社にも大いに問題がありますし、中途解約する派遣先にはさらに大きな問題があります。
そこで、派遣会社が派遣先と契約する際に、途中解約の場合には派遣先が派遣会社に違約金なりなんなり、名目はともかく相応の賠償的な支払を行うことを決めておくことは非常に有用でしょう。できれば、派遣労働者にもそれを周知して、派遣会社と派遣労働者との間で、中途解約の場合に雇用が継続されるのかどうか、されない場合には派遣会社が派遣労働者にどのような補償(財源は当然派遣先の違約金でまかなわれ、したがって違約金の水準は派遣労働者への補償が可能な水準に設定される必要がある)を行うのか、といったことも事前に取り決めて覚書などにしておくことが望ましいでしょう。現行法制を厳格にあてはめれば派遣契約が(一方的に)中途解約されたことが派遣会社が派遣労働者を解雇する「やむを得ない事情」にあたるかどうかはかなり疑わしいわけですが、そこを少し緩やかにして、一種の解雇の金銭解決のようなものを認めてはどうか、というわけです。まあ、解雇は認められない、期間終了まで所定の賃金を払え、というのは正論ですので、もちろんそれでいいのですが、このようなやり方のほうが早期に拘束が解けて、かえって派遣労働者にとってもいいのではないかとも思うわけで。まあ、登録型派遣の拘束はそもそもあまり強くないので、たいした違いではないかもしれませんが。
なお、「契約の解除で職を失った派遣労働者に対し、派遣元が他の職場を確保することも明確にする」というのは、まあ精神論としてはあり得るのかもしれません。さすがに、契約解除された派遣労働者が出たときに、次に提示する派遣先がひとつもありません、ということは現実にはまず考えられない(もちろん、派遣労働者がその派遣先で就労するか否かは派遣労働者の自由です)ので、契約解除されたからすぐ解雇、という行動に走らせない、放り出さずにちゃんと次の派遣先を提示しなさい、という規律づけには一定の効果が期待できそうです。