組合活動はワークかライフか?

連合総研から「労働組合におけるジェンダー平等」というレポートを送っていただきました。ありがとうございます。連合総研のサイトでも公開されているようです(http://rengo-soken.or.jp/report_db/file/1244101522_a.pdf)。
シンポジウムの記録なのですが、基調講演やパネルだけではなく、聴講者との討議まで収録されていてなかなか興味深いものがあります。問題意識は「労働組合活動にいかに女性が平等に参加できるようにしていくか?」というもので、労組自身がこうした問題意識をもって専門家と議論するというのはまことに有意義な取り組みと申せましょう。
論点は数多いのですが、ここではまず連合東京の芳野友子女性委員会委員長のこんな問題提起を紹介したいと思います。

…多くの労組で、女性委員会など女性だけの組織が「発展的解消」をされ、男女で構成する男女平等参画推進委員会などに生まれかわりました。そのころから、非常に女性のリーダーが減ってきたのです。あるいは、女性が役員になっても、組織のなかでなかなか権限を持ちづらい、男性役員と対等な位置づけで活動ができないという悩みが聞かれるようになってきたのです。

(連合の)第2次(男女平等参画推進)計画で示された男女平等参画推進委員会の目的は、労働組合活動に女性が参画するためには、どのような組織運営をすればいいのかを議論することであったはずです。つまり、子育て中の女性も、介護をしている女性も、もっと組合活動に参加しやすいように、時間外や休日の活動、宿泊をともなう活動などを見直し、日程を考慮するなどの運営の見直しについて議論し、実施していくことが求められていたはずです。
 しかし、実際には、男女平等参画推進委員会主催の均等法セミナーやワーク・ライフ・バランス研修会が開かれる一方で、組織のあり方、運営の仕方を変えていくという本来の目的は果たせていない状況にあるので
はないかと感じています。(p.45)

これは読めばわかるとおり、労組の中に女性だけで構成された組織がなくなったことの弊害を訴えているのですが、ここで注目するのは「子育て中の女性も、介護をしている女性も、もっと組合活動に参加しやすいように、時間外や休日の活動、宿泊をともなう活動などを見直し、日程を考慮する」という部分です。
もうひとつ、連合東京の真島明美男女平等局部長の発言です。

…女性役員の継続が難しいという問題もあります。連合東京の活動を通じて、街頭行動なども経験して、組合活動の達成感を感じるようになる女性は多いのですが、「任期」が終わると交代してしまう。
 本当はもっと継続してやっていきたいという思いをもっていても、「任期」がくれば交代するものといった慣行が女性の場合はあったりします。だから、どうすれば、女性が継続して組合活動をやっていける環境をつくっていけるか、日々考えているところです。

そこで、表題の疑問となるわけですが…
「組合活動は『ワーク』なのか『ライフ』なのか?」
もちろん、会社の理屈からすれば組合活動はワーク=仕事ではありえないでしょう。組合活動は時間外、労働協約で時間内の組合活動を認めている場合でも、その間は無給というのが一般的ではないかと思います。
これに対し、組合の立場からすれば、組合が手当(賃金)を支払っている専従役員については、これは「組合活動が仕事だ」としか言いようがないでしょう(会社は「あれは『会社の』仕事じゃないよ、だから給料払わないよ、ということになるでしょうが)。専従役員自身も、自分の仕事は組合活動だと考えているに違いありません。いっぽう、一般組合員にしてみれば、たまに昼休みに職場集会があったりする程度でしょうから、これは仕事ではないと言われても十分に納得するでしょう。
悩ましいのは、非専従の職場役員、それこそ時間外、休日に活動している職場役員です。末端の職場役員であれば受け持つ組合員の人数は少なく、さほどの責任もなく、役割も職場集会の報告者兼司会をするのと、職場役員会で機関決定事項の説明を受けたり自職場の職場集会の状況を報告するくらいの活動量でしょうから、それほど負担も重くないでしょう。これなら、組合活動が「仕事」だという感覚も薄いかもしれません。しかし、非専従でも分会長レベルくらいになると、担当する組合員も多く、責任も重く、多くの時間を費やすことが求められ、かなりの負担になります。これは当然、組合活動以外の「ライフ」を大幅に圧迫するわけで、それほどの責任と負担をともなう役割を、いかに賃金は支払われないにしても、はたして「これは組合活動だから「仕事」ではない、「ライフ」だ」と本人が割り切れるものかどうか。ましてや家族がどのように見るかというと、なかなか「仕事ではない」とも参らないでしょう。よりよいワーク・ライフ・バランスを考えるにあたっては、「会社の仕事=ワーク、それ以外=ライフ」と単純に考えるのでは不十分で、働く人にとってはなにが「ワーク」でなにが「ライフ」なのか、あるいは「ライフ」の中にもいろいろな性格のものがあるということまで考える必要があるでしょう。
そこで女性の労働運動になるわけですが、芳野氏の「子育て中の女性も、介護をしている女性も、もっと組合活動に参加しやすいように、時間外や休日の活動、宿泊をともなう活動などを見直し、日程を考慮する」という発言は、組合活動はかなりの程度「ワーク」である、子育てや介護などの「ライフ」を侵食する存在である、という認識を示しているように思われます。真島氏の発言も、女性は任期で交代するのが慣行になっている、継続してできる環境がないということで、それがなぜかといえば、やはりユニオン・ライフ・バランスの課題があるのではないでしょうか。
つまり、女性が組合活動に継続的に取り組もうとすると、「組合活動は仕事ではない「ライフ」なのだから、時間外や休日にやるのが当然」という発想では難しく、組合活動を「ワーク」の性格を持つものとして考える必要があるということでしょう(それがいいかどうかはまた別問題として)。ということは、労組が取り組むべき課題は単純に考えて「労働時間中の組合活動を可能とする」ということです。1週間に半日でもいい、分会長クラスだけでもいいから、仕事中に組合活動ができる職場役員が増えれば、組合活動はおおいに活性化するでしょうし、女性の参加もはるかに容易になるでしょう。
もちろん、そうしてくれと団体交渉を申し入れたとしても会社は簡単には認めないでしょうし、そのためにストライキを行うというのも犠牲が大きい(そもそも組合員の賛成が得られるかどうかも疑問)ですから、これを実現するためには「分会長クラスに、週に半日、仕事中に組合活動をさせることが、それに見合う以上のメリットを企業経営にもたらす」ということを経営者に納得させることが必要になります。
現実には、まだまだ組合というと古典的な労働運動を想起してしまう頭の古い経営者も多いのも現実(まあ、古典的な労働運動もまだ生き残っていることも事実ですし、それはそれで一定の役割もありますが)ですが、成熟した良好な労使関係を確立している企業では、労組が経営に不可欠な一要素として機能しており、それが労組の交渉力ともなっていることも事実です。電機連合のホームページには企業経営における労組のメリットが記載されています(http://www.jeiu.or.jp/nakama/yuni_001/)。こうした考え方のもとに、現実にこうした役割を果たすことができるのであれば、経営としても「分会長クラスに週半日の時間中の組合活動」を認めることは難しくないのではないでしょうか。
もっとも、それを「有給で」というところまで認めさせるのはさすがに難しいでしょう。職場役員が手弁当で(減収覚悟で)やる、というのもひとつの理想ではあるでしょうが、しかしそこはやはり組合として手当することが望まれるでしょう。ということは組合費でまかなうということになるわけで、それについて組合員が賛同することが必要になります。さてこれがどの程度のハードルになるのか…。