「キャリアデザインマガジン」第94号に掲載した書評を転載します。
- 作者: 中村圭介,連合総合生活開発研究所,連合総研=
- 出版社/メーカー: 教育文化協会
- 発売日: 2009/05
- メディア: 新書
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もちろん、組合員も非組合員も同様に雇用が減少したのであれば、組織率は変化しない。雇用減で組織率が向上したということは、組合員が非組合員に較べて職を維持されやすかったということであり、それは組合活動の成果であるとみることもできるだろう。いっぽうで、今回の雇用調整局面においてはいわゆる非正規労働者の雇止めなどによる雇用減が目立ったことも事実だろう。ということは、労働組合の活動はより弱い立場にある非正規労働には届いていないということでもある。
いっぽうで、産別の組合員数をみるとUIゼンセン同盟が前年から45,000人増やして最大の伸びをしめしているが、この相当部分はパートタイマーなどの非正規労働者であるという。実際、労組は古くから非正規労働の組織化に問題意識を持っているし、連合も発足以来取り組んでいる。近年の組織率低下の主因のひとつは非正規労働比率の上昇だというのだから、当然といえば当然だろう。その成果も上がりつつあって、平成17年に3.3%にとどまっていたパートタイマーの組織率は、平成21年には5.3%に達している。
さて、この本は連合総研が非正規労働者の組織化に成功した労働組合10単組の実態調査を行ったプロジェクトの結果をもとに、組織化の必要性とプロセス、そしてその成果を生き生きと描き出している。対象は従来正社員組合員中心で活動してきた企業別労組が8単組、2単組は公務である。
第一章では、企業別労組が自らの利益のために非正規労働者の組織化に取り組む必要性が述べられる。非正規労働者が増加する中で、雇用確保の基盤となる企業業績の向上のためにも、各職場で良好なコミュニケーションを実現するためにも、職場を代表して経営に説得的な意見を述べ、交渉を行うためにも、非正規労働者の参加が必要であり、それなくしては正社員の労働条件や雇用の安定、ひいては組合組織の存続もありえないということが主張される。
それ以降は、各労組の事例が組織化の段階を追って紹介される。第二章では非正規組織化のきっかけとなった「危機の察知」が語られる。時に業績の悪化であり、時に職場の生産性低下であり、時には使用者の不当解雇であったりもする。第三章は執行部内、そして一般組合員も含めた組合内における非正規組織化の意思決定過程、「異論と説得」が描かれる。比較的容易なケースもあれば困難をきわめるケースもある。
第四章は、いよいよ組織化だ。組織によってニュアンスの違いはあるが、非正規労働者との地道な対話と勧誘、説得が中心であることは共通する。組合費が高いハードルであることも共通であり、「組合費を払って誰かからサービスを受けるのではなく、職場をよくするために組合に主体的に参加し、そのための費用も支払う」という理念も共通である。ここが成否を分ける大きなポイントなのだろう。
第五章は組織化の結果と成果、もたらされた変化が述べられる。非正規労働者の労働条件、処遇の改善はいうまでもなく、組合活動そのものの活性化にも大きな成果がもたらされた。公務を除く8単組のうち7単組がユニオン・ショップ協定の締結にこぎつけており、経営サイドからも総じて前向き、好意的に受け止められているようだ。
まるでNHKの人気番組「プロジェクトX」をみるような───というといささか大げさかもしれないが、およそ組織化の道のりは決して平坦ではなく、容易でもない。それに挑んで成功させた労働組合リーダーたちの苦心と情熱には心からの経緯を表したい。これは成功事例だけを対象とした調査だから、その背後には挫折したケースもあるだろうし、いま現に苦闘している組織もあるに違いない。いずれにしても、もはやこれは待ったなしの課題であり、それが決して不可能な取り組みでもなく、そして得られる成果も労力に見合う以上のものがあるということをこの本は示している。
この本は連合新書の「労働組合必携シリーズ」の最初の1冊であるという。それほどに、これはすべての労組にとって必須のものであると労働界では考えられているのだろう。非正規に限らず、組織化に取り組む活動家に大きな勇気を与えてくれる本だろう。そして評者としては、経営者、労担役員・幹部にもぜひ一読を勧めたい。組合のない企業の経営者の中には、自社に組合ができることについて抵抗や不安を感じる人もあるだろう。すでに組合のある企業の経営者であっても、非正規労働の組織化に対しては懸念を覚えるかもしれない。しかし、労働組合が必ず経営を阻害したり、コストを高めたりするわけではない。経営にとってなくてはならないパートナーとなっている労組も数多い。この本は、非正規労働者をも組織した組合と企業とが、信頼と協調のもとにwin-win関係を築くことも十分に可能だということも示しているからだ。さらには、正規、非正規を問わず、多くの労働者に読まれることで、非正規の組合加入が進展することも期待したい。それだけの拡がりのある本である。