「休日改革」は総合的に

きのう取り上げた「休日改革」ですが、ごく初歩の(ryは別として、非常に興味深い論点を含んでいますので続けて取り上げてみたいと思います。

 政府は観光市場の拡大に向け、自治体が独自に設けている休日を土曜や日曜につなげて連休にするなどの「休日改革」を検討する。取得率が減少傾向にある有給休暇の取得促進策も併せて講じる。観光地の混雑解消や観光事業者の経営の効率化につなげるのが狙いだ。政府は観光庁を中心に、関係省庁や産業界との調整を進める方針だ。
自治体独自の休日は東京都(十月一日)、千葉県(六月十五日、一部を除く)、茨城県(十一月十三日)などが主に公立学校の児童・生徒を対象に設けている。政府は休日を土曜や日曜の前後に移して連休にすることを検討、該当する自治体に関係条例などの改正を促す運びだ。
 日本では五月の大型連休、盆休み、年末年始などに観光需要が集中している。連休を増やせば、需要の分散や平準化が期待できる。
 休みの集中を避ける一環として、小中学校の夏休みを地域ごとに数週間程度ずらすことも検討する。自治体の教育委員会と調整に入る方針だ。
 主に児童・生徒向けの対策を講じる一方で「大人向け」の対策として、企業が労働者に与える有給休暇を増やす方策も検討する。五割弱と世界でも低い水準にとどまる有給休暇の消化率を引き上げ、家族でレジャーに出かける環境を整える。
 具体的には、労働者が残した有給休暇の残日数を金銭評価して、事実上買い取る制度を創設。その分を引当金として、企業の負債として計上するよう会計基準を改正する案などが浮上している。
 政府は年次有給休暇の完全取得が実現した場合、約十二兆円の経済効果と約百五十万人の雇用創出効果があると試算している。
 「休日改革」はこれまでも観光や旅行関係の業界などが主張。政府はハッピーマンデー制度の導入で、二〇〇〇年と〇三年にそれぞれ二つの祝日を月曜に移し、三連休をつくった経緯がある。
 その後も与党が「秋のゴールデンウイーク構想」を主張したり、〇七年六月には政府の「観光立国推進基本計画」で休日改革の必要性を訴えたりしているが、進展していない。伝統のある祝日や休日を移すことには抵抗の声もある。有給休暇の取得率の向上だけを優先させると、企業の生産性が低下する恐れもあり、ハードルは高い。
(平成21年4月21日付日本経済新聞夕刊から)

まず申し上げたいのですが、「「大人向け」の対策として、企業が労働者に与える有給休暇を増やす方策も検討する。五割弱と世界でも低い水準にとどまる有給休暇の消化率を引き上げ、家族でレジャーに出かける環境を整える。」ってのはどういうことなんでしょうか。わが国では年次有給休暇は企業が年間何日かを一括して労働者に付与し、それを労働者が時季指定して取得するということになっています。問題は付与日数の少なさよりは取得日数の少なさであって、今のまま「企業が労働者に与える有給休暇を増や」したところで取得日数が目に見えて増えるとも思えません(多少は増えるでしょうが)。
で、取得日数を増やす(取得率を上げる、というのもほぼ同じことですが、本当の問題・目的は取得日数のほうでしょう)ために買い上げ制度を入れることはむしろ逆効果ではないか、というのは昨日書きました。むしろ効果的なのは、時季指定権を労働者から使用者に大幅に移し(年数日程度は労働者に残していいと思いますが)、その分については大半を取得させることを企業に義務付ける、という案ではないでしょうか(計画的付与の活用などを考えれば、全部を義務づける必要はないと思います)。これは取得日数増に加えて、分散化という意味でも効果的です。もちろんある程度労働者の希望も聞くしくみとすべきでしょうが、しかし基本的には使用者が事業に支障がないように各労働者の有給休暇取得日を決めてしまう。これであれば、たとえばそのうち1週間分は連続して取得させよ、という規制にしてもいいかもしれません。取得日数が増えた分は事実上企業にとってはコストアップ(記事でいえば生産性低下)になりますが、これは賃上げを抑制するとか、定昇を少し削るとかいった方法で数年かけて取り返していけばよろしい(年休取得させることの使用者への義務づけとセットで、その分ダイレクトに賃下げできることとすればさらに効果的で、現実の実態にもあっているわけではありますが、さすがにそうした激変は無理でしょう)。
加えて、記事にもあるように「休みの集中を避ける一環として、小中学校の夏休みを地域ごとに数週間程度ずらすことも検討する」というのも大事でしょう。学校単位であれば、他校と夏休みが異なっていても学校はそれほど困らないのではないでしょうか(まあ、運動部の大会が開きにくいとかいう話はあるのかもしれませんが)。夏休みを学校単位で大雑把に6月中旬〜7月中旬、7月下旬〜8月下旬、9月上旬〜10月上旬、くらいに分けることができれば、夏休み期間は4ヶ月、17週間に及びます。この範囲内に平準化して、各労働者が1週間の連続年次有給休暇を取得する。これなら職場では17人に1人が休んでいるという計算になりますから、おそらくそれほど大きな影響にはならないでしょう。
こうすれば、現状ではいわゆる旧盆近辺に集中する旅行なども大幅に分散し、混雑も緩和され、またサービスも廉価になるでしょう。それ以上に観光活動が活発になれば観光産業も潤うわけで、真剣に検討してみる価値があるのではないかと思います。
ハッピーマンデーも秋のゴールデンウィークもけっこうでしょうが、しょせん政府が決めて休みにする、ということではそこへの集中は避けられません。そうなると観光の増加への効果も限られるでしょうし、「レジャーの価格が高すぎて、賃金が低いから旅行にも行けない」とかいったつまらない議論に終わりかねません。ハッピーマンデーについては、月曜日の授業時間が足りなくなることから休日としない学校も増えていると聞きます。休日については日数とともに分散化も重要でしょうから、こうした施策の効果はやはり限られるでしょう。
利害関係者も多く、調整はなかなか困難かもしれませんが、しかし各関係者がそれなりに受け入れられる形で総合的にあり方を見直していかないと、実効はなかなか上がらないのではないかと思います。まずは漸進的に、構造改革特区のような発想で地域を限ってテストしてみる、といったことも考えられるのではないでしょうか。