休暇分散化、各紙の反応

金曜日のエントリのフォローです。なかなか大胆な提案だけあって、新聞各社が社説でとりあげています。まずは日経新聞から。

 政府の観光立国推進本部が全国を5つの地域に分け、日程をずらした大型連休を春と秋に設ける試案をまとめた。渋滞や混雑を緩和し旅行需要を掘り起こすとともに、繁閑の集客の差を縮め、受け入れ側の生産性を高める狙いもある。
 実現へ課題は多いが、生活の質の向上と新産業の育成につながるよう各方面で知恵を出し合いたい。

 休暇の分散が消費者と業界の双方に利点があるのは間違いない。ただ今回の試案に不安の声も聞かれる。主な理由は2つある。
 一つは企業活動への影響だ。本・支社間の連絡、取引先との受発注、決済、納入など地域をまたぐ仕事は多い。手順の変更、ミス防止の努力がいる。効率低下の懸念もある。中小企業からは「結局、休みは取れないのでは」との声も上がる。
 もう一つは5月の一斉連休が消えるため帰省や単身赴任者の帰宅、遠方の家族との旅行に差し障る点だ。新制度でレジャー消費が減っては本末転倒だ。「国民の祝日」の意味をどう考えるかという問題も残る。
 政府は数年かけて議論した成長戦略である点を丁寧に説明し、産業界の理解と協力を得る必要がある。経済的な得失の試算もほしい。日本経団連は観光を新たな成長産業と位置付け、準備期間などを条件に休暇の分散化に賛成している。有給休暇の取得促進策とうまく組み合わせるといった工夫も考えられる。
 休暇分散の推進を前提に地域の線引き、地域以外での分け方、期間設定などに皆で知恵を出せば、もっといい案になるのではないか。今回の試案を「休みは皆で一斉」からの脱皮を探る契機に生かしたい。
(平成22年3月7日付日本経済新聞「社説」から)

そうそう、「「国民の祝日」の意味をどう考えるかという問題も残る。」というのも大事な論点でしょう。たとえば5月3日には9条がヘチマとか靖国が滑った転んだとか言っている人たちが思い思いに集会などを開いているわけで、それはそれでやはり「その日」に特別な意味があり、休日にしてそれを改めて考えよう…という趣旨もあるわけでしょうから。
「経済的な得失の試算もほしい」というのもそのとおりで、現在ある試算はかなり大きな効果を見込んでいるのですが、大きすぎてにわかには信用しにくい感もあります。これについてはかなり以前に書いたものがありますのでご参考までにリンクをおいておきます。
http://www.roumuya.net/zakkan/zakkan14/kyuka.html
9条が好きな(のではないかと思いますが)毎日も、「憲法記念日やこどもの日が休日でなくなるのは反発を呼びそうだ。」と書いていますが、全体的には好意的な論調を示しています。


 混乱を心配する声も多い。経済界からは、勤務地や通学先で家族の休みがバラバラになる恐れがある▽全国で事業展開する企業は対応が難しい、との意見が出ている。観光庁国民意識調査でも「この時期の祝日のそもそもの意識が薄れる」「分散して休むと、逆に業務に差しさわりが出る」「祭事やイベントに参加しづらくなる」という理由で、約3割が分散化に反対だった。
 「休日でない祝日」ができることが祝日法の趣旨に合うかといった疑問もある。特に、憲法記念日やこどもの日が休日でなくなるのは反発を呼びそうだ。
 しかし、こうした問題点をふまえても意義深い試みだと評価したい。内需拡大や観光振興という経済的側面だけではない。「休むことが苦手で下手」と言われる日本人にとって、働き方や家族とのかかわりを主体的に考え直すきっかけになると思えるからだ。「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」は言葉としては広まり定着した。しかし、民間労働者の年休取得率は08年で47・4%にすぎず、ほぼ100%の英独仏などとの開きは大きい。
 どう休むかは個人の問題だ。それぞれの自由な選択で休暇を取りやすくする一人一人の意識改革が大切なのは言うまでもない。政府が休み方を誘導し、観光需要をならすのはやりすぎかもしれない。しかし、「みんなが休むから休もう」「みんなが働いているから休めない」の横並び意識がなかなかぬぐえず、「調和」への道のりが遠い中、休暇分散化はやってみる価値のある試みである。
(平成22年3月5日付毎日新聞「社説」から)

あのー、「「休むことが苦手で下手」と言われる日本人にとって、働き方や家族とのかかわりを主体的に考え直すきっかけになると思えるからだ。」って、別に休日が増えるわけでもなんでもないんですけど。元々全国的に休んでいた日は休まないことにして、別に地域別に同じだけ休もうというだけのことなんですから。そういう意味では、とりあえず目に入る範囲(地域ブロック単位)では「「みんなが休むから休もう」「みんなが働いているから休めない」の横並び意識」だってなにも変わらないんですけどねぇ。そういう意味では日経の「今回の試案を「休みは皆で一斉」からの脱皮を探る契機に生かしたい」というのもピントがずれているわけで。まあ、こんなことやってもうまくいかない、やっぱり年次有給休暇で個人別の休暇を持つようにしないと…という方向に意識が向かえばいいんですけどね。
ちなみに、社説中にある「観光庁国民意識調査でも…約3割が分散化に反対だった」については、直近の調査としてこんなのが報道されていました。

 アイシェアは8日、国土交通省の観光立国推進本部が現在検討中の「大型連休の分散化」に関する意識調査の結果を発表した。同調査は2月16日〜19日の期間、同社が提供するメール転送サービス「CLUB BBQ」会員を対象に実施され、全国の20代〜40代の男女462人から有効回答を得た。

同調査で地域ごとの大型連休分散化について尋ねたところ、「とても賛成(7.6%)」と「どちらかというと賛成(26.0%)」を合わせた33.5%が「賛成」と回答。一方、「とても反対(30.3%)」と「どちらかというと反対(36.1%)」を合わせた「反対」は66.5%と「賛成」の約2倍となった。
http://journal.mycom.co.jp/news/2010/03/08/053/?rt=na

観光庁の調査とは正反対の結果ですが、これは聞き方の問題に加えて、あまり現実的なものとして考えていない段階での意識と、いよいよ現実的になりつつある段階での意識の違いといった要素もありそうで、興味深いものがあります。
さて毎日が好意的なのに対し、読売は批判的なトーンを出しています。


 5月の「憲法記念日」から「こどもの日」までの3日間と、「海の日」「敬老の日」「体育の日」は、それぞれ記念日として残すものの、休日とはしないという。
 しかし、それぞれの祝日には歴史的、文化的な背景があって国民の間に定着している。休みを取って国民全体で祝うのが本来のあり方だろう。祝日を休日とすることは祝日法にも明記されている。
 観光を一つの成長産業として位置づけ、その活性化をはかっていくことは重要なことだ。しかし、観光という狭い観点だけから祝日の問題を論じるべきではない。
 全国展開する企業が地域ブロック別に休暇に入れば、本支社間の連携や取引先との決済などに支障が生じる恐れもある。
 中小企業の場合、大企業の都合で結局、休日に仕事をすることになるのではとの懸念もある。
 日本の有給休暇の取得率はわずか47%で、ほぼ100%を取得している欧州諸国に遠く及ばない。まず、有給休暇を取得しやすい環境を整備していくことの方が先決ではないか。
…現在の祝日制度の大枠の中で、どのようにして休みを拡充していくべきなのか。さらに議論を深めていかなければならない。
(平成22年3月9日付読売新聞「社説」から)

まあ、比較的穏当な見解といったところでしょうか。たしかに拙速は避けるべき問題でしょう。
産経はさらに厳しいトーンで批判的見解をとっています。

 だが、一見、結構ずくめにも見えるこのアイデアには、大きな問題点がいくつもある。
 説明とは裏腹に、地域で休日が異なり、大手、中小を問わず、取引相手との営業日に齟齬(そご)が生じれば、企業活動への影響は避けられない。個人レベルでも、家族の休日が勤務先や通学先によって異なる可能性が出てくる。
 肝心の観光業も、歓迎一色とはいかない。旅館やホテル、テーマパークなど常設の事業者はともかく、地域に定着した伝統行事が売り物の観光地は、逆に集客が落ち込む心配がある。
 金融機関はオンライン化された決済システムの改定を迫られる。就業規則や労使協定見直しも不可欠で、とりわけ中小企業には、過大なコスト負担となりそうだ。
 日本経団連など経済界も、観光需要の拡大などに期待する一方、実施に向けては国民への周知など相当の準備期間が必要だと指摘している。当然の懸念である。

 祝日とは本来、「国民こぞって祝い、感謝し、又は記念する日」(祝日法第1条)であり、休日としてこそ意味を持つ。連休を増やすためだけの理由で制度の根本をいじるのは安易すぎる。連休の分散化は祝日に対する国民の認識をさらに希薄化させかねない。
(平成22年3月9日付産経新聞「主張」から)

経団連は観光業界および政府・行政への配慮もあってか基本的には「推進すべき」との立場を示していますが、しかし先日のエントリでも書いたように提出文書を読めば読むほど「そうは言ってもねぇ」というのがにじみ出ていて、まあなかなか難しい立場なのでしょう。