誇張もほどほどに…。

いつもいつも池田先生頼りではいけないのですが(笑)、それにしても「池田信夫blog」の今日のエントリ(http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/706ab37b90a9298056c88e3269435b91)が面白すぎたのでひとことご紹介。お題は「希望について」で、さらに前の日のエントリに前説があるようなのですがそれには私はあまり関心がなく、反応したのは最後のほうのこの一節です。

…この意味で今の日本が不幸なのは、富が失われていることより希望が失われていることだろう。終戦直後の日本では、若者は焼け跡に設計図を描いて新しい事業を興すことができたが、今では都市はコンクリートの建物で固められ、職場はノンワーキング・リッチに占拠されている。仕事がいやになっても、転職すると生涯収入は5000万円以上減る。起業してもうかると、東京地検特捜部がやってくる。
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/706ab37b90a9298056c88e3269435b91から)

いや、池田先生、そりゃいくらなんでも誇張が過ぎるでしょう…。焼け跡だのコンクリートだのはレトリックでしょうからそれはそれとしても、「職場はノンワーキング・リッチに占拠されている」ってのはいくらなんでも…。ノンワーキング・リッチに職場が占拠されている企業がいつまでも存続できるわけがないでしょう。まあ、役所の外郭団体なんかには本当にそういう職場がひょっとしたらあるのかもしれませんが、それで若者が希望を失っているわけもなく…。
それから、「仕事がいやになっても、転職すると生涯収入は5000万円以上減る」のがいたくご不満なようですが、「いやになったら転職」を繰り返しても生涯収入が減らないほうがおかしいわけで。で、例によって面白いことに、「イヤになったらすぐに会社をやめられて、いつでもすぐに同じ職種で再就職ができて、しかも賃金は下がらない」、これは木下武男氏とか、hamachan先生のいわゆる「ジョブ派」の左翼の見果てぬ夢でもあるんですね。でも、誰がどう考えたって転職すれば普通は生産性が低下しますよね(もちろん例外はたくさんありますが)。生産性が低下しているのに(生涯)賃金が変わらなければ当然その人は賃金を貰いすぎることになり、あれ?いつのまにかノンワーキング・リッチの出来上がり・・・・・。
あと、「起業してもうかると、東京地検特捜部がやってくる」ってのも、まあそういうこともあるでしょうが、どちらかといえばやってこないことが多いのではないかと…。私の知人にも企業して成功している人が何人かいますが、東京地検特捜部がやってきたという話は聞きませんが…。というか、この一文、起業してもうけるのなら、多少やり方が違法でも見逃せよ、って読めてしまうのは私だけ?
まあ、こういった短くて端的な歯切れのいいフレーズが池田先生の売りなのかもしれませんが、あまり言葉を省略しすぎたり断定的になりすぎたりすると思わぬ誤解を生みますよと、まあこれは余計なお世話ですが…。


(4月28日追記)
終りのほうの感想に関連して、池田先生のブログの昨日(4月27日)のエントリ(http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/d03842c8b25388f0d9ab59112996acbd)ではこんな記述もありました。

…かつてのマルクス主義に代わる現代のメシア的な希望は、たぶん起業だろう。ホリエモン村上ファンドに「反体制」のにおいがあったのは偶然ではない。しかし彼らは国家権力によって圧殺されてしまい、物語のまったき不在が全面的ニヒリズムを生み出した。
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/d03842c8b25388f0d9ab59112996acbdから)

「かつてのマルクス主義に代わる現代のメシア的な希望は、たぶん起業だろう」というのは興味深い指摘だと思うのですが、「ホリエモン村上ファンドに「反体制」のにおいがあったのは偶然ではない」というのは何物でしょうか。なるほど、「起業してもうかると、東京地検特捜部がやってくる」ってのはホリエモン村上ファンドのことだったんですか…。でも、ホリエモン村上ファンドのところに東京地検特捜部がやってきたのは、彼らが起業してもうけたからではなく、彼らのやってることが「違法な取引の疑いがある」からでしょう。まあ、池田先生にしてみれば、ホリエモン村上ファンドが違法になるような法規制がおかしい、ということなのかもしれませんが(さすがにこれは違うかな)、それにしても「希望は起業」と言っておいて、その「起業」が投機のようなシロモノ、しかも違法性があるということでは…。なにも投機でなくても起業して成功している人(もちろん合法的に)はたくさんいるわけで、こうした書き方はまじめな起業家に失礼じゃないでしょうか?ま、ホリエモン村上ファンドも、それはそれで大まじめではあったでしょうが。


(4月30日追記)
匿名の方(ありがとうございました)からご指摘をいただいたのですが、池田先生とブログで論戦を展開しておられる弁護士の小倉秀夫先生が、ご自身のブログでほとんど同様のエントリを書いておられたようです。
http://benli.cocolog-nifty.com/la_causette/2009/04/post-8e99.html
小倉先生とは私とも(笑)意見があわないのではないかと思いますが、これに関しては一致したようです…というか、較べて読んでみるといろいろとニュアンスの違いがあって、私はけっこう面白く感じました。