連合の「就労・生活支援給付」

 ――雇用情勢悪化のスピードが速い。雇用をどう守る。
 「米国発の金融危機実体経済に影響を与えたが、ここまでひどいとは誰も予想できなかった。安全網として職業訓練と能力開発、そして新雇用の創出が不可欠だ。いまは失業給付が切れると、すぐに生活保護が必要な状態に陥る。連合はその中間的な位置づけとして『就労・生活支援給付』を提案している。非正規労働に定着させるのではなく、技能を身につけたうえで医療や福祉、環境、農業など新しい雇用分野に人を移動させる仕組みを考えている」
(平成21年1月25日付日本経済新聞朝刊から、以下同じ)

連合の「就労・生活支援給付」というのは、現金給付と職業訓練、生活支援をセットで5年間給付するというものです。具体的にどのような制度にするかによりますが、基本的な方向性としては望ましいのではないかと私も思います。「いまは失業給付が切れると、すぐに生活保護が必要な状態に陥る」というのは誇張があるとしても、たしかに失業給付と生活保護の間の支援が手薄なことは事実です。労働需要が不足している中では、失業者が短期間で再就職するのは現実的には困難であり、失業がある程度長期化せざるを得ないのであれば、うまくマッチングするまでの間を職業訓練などの努力に有意義に使うという考え方は大切だと思います。5年というのはかなり長い感じもしますが、「安心」を重視して長くしたのでしょう。期間が長い分、就労促進という意味でも財源という意味でも給付や支援の水準は低くならざるを得ないでしょうし、職業紹介と組み合わせて、紹介を3回断ったらストライクアウトで現金給付は打ち切り、といったものとセットにする必要もありますが。
いっぽう、古賀氏のいうように、福祉や環境、農業などで人手不足が現にあるのであれば、そこは比較的短期間での再就職が可能でしょうから、そうした仕事についてはなにも事前に訓練を行うまでもなく、まずは就職して就労を通じて技能を身に付けていけばいいだろうと思いますが。
なお、連合は「収入・資産要件は緩やかに」とのことですが、ここが難しいところでしょう。たとえば1,000万円の定期預金を持っている人に5年間の現金給付を行うのが妥当かどうかは、わが国では議論がありそうです。個人的には、ミーンズ・テストを緩めるのであれば、資産への重課税(とそこからの再分配)がセットであるべきではないかという気がしますが。あとは財源で、雇用保険が念頭におかれているのでしょうが、はたしてどの程度の負担増となるのか。再分配を重視すれば、一般財源の活用も視野に入ってくるでしょう。

 ――特に非正規労働者の雇用悪化が目立つ。
 「連合としては正社員と待遇格差のある非正規社員の労働条件改善を訴えていく。今春の労使交渉でもパート労働者の処遇改善や、企業内最低賃金協定の締結などの協議を徹底する。ただ労組に入っている非正規社員は五十万人にすぎない。組合加入も促す」

これはたぶん記者の問題だと思うのですが、質問と回答がかみあっていません。質問は「雇用悪化」についてきいているのに、古賀氏の回答は待遇、労働条件の話になっています。まあ、雇用も労働条件の一部ではありますが、この回答では「雇用悪化対策」にはならないでしょう。もっとも、組織化は非常に重要な取り組みであるには違いありません。ただ組織化すればよしというのではなく、経営サイドとも協議しながらいかにして雇用を維持するかを考えながら組織化していくことが大切ではないでしょうか。