賃上げと個人消費

きのうの日経新聞から。

 今春の労使賃金交渉の注目点は、その結果が消費に与える影響だろう。今回は民間企業に勤める正規社員(管理職は除く)にアンケートした。
 賃上げと消費の関係について尋ねたところ、最も多かった回答は「賃上げがあっても消費は増やせない」で三七%。次いで「賃上げがなければ消費を切りつめる」の三二%だった。「賃上げがあれば消費を増やしたい」は一二%にとどまっている。
 これをどう解釈すべきか。世界の自動車生産台数で首位に立ったトヨタ自動車労働組合でさえ、賃上げ要求額は千五百円とつつましい。ガソリンや食品などの値上がりが家計を圧迫していることもあり、賃上げが消費を押し上げる効果はあまり期待できない。だが経営側の回答が社員の期待を下回った場合、消費を冷え込ませるリスクを軽視できないのではないか。
 日本総合研究所の山田久主席研究員も「行きすぎた賃金の抑制は、消費の低迷を通じて合成の誤謬を生み出す」と警鐘を鳴らす。個々の企業がコスト競争力を確保しようとして賃金を抑えると、日本全体では景気が悪化し、個々の企業の収益も低下しかねないという。
 日本経団連御手洗冨士夫会長は「余力のある企業は働く人々への分配を厚くすることも検討してよい」などと話してきた。ただ米国の景気後退懸念が強まっており、株価動向などによっては賃上げに慎重な経営者が増える可能性もある。
(平成20年2月11日付日本経済新聞朝刊から)

連合の「賃上げ→内需拡大」論に水を注すような調査結果ですが、賃上げ推進派?の日経新聞は「賃上げが消費を押し上げる効果はあまり期待できない」としながらも「だが経営側の回答が社員の期待を下回った場合、消費を冷え込ませるリスクを軽視できないのではないか」と、「賃上げがなければ消費を切りつめる」が32%あったところを強調し、賃上げの必要性を主張しています。
で、これを労働サイドからみれば、当然賃上げはしてほしいわけで、自分は賃上げ分を貯蓄に回して将来に備えたいが、周囲には大いに消費して景気回復に寄与してほしいというのが本音だということになるでしょう。妙な言い方になりますが、そういう面からは労働サイドにも山田氏のいう「合成の誤謬」がありうる、ということになりそうです。このあたりは、経営は経営、労働は労働でおたがいさまというか、協調が必要なところがあるということかもしれません。
それはそれとして、記事がさりげなく(おそらくは深い考えはなく)書いている「株価動向などによっては」というのが味があるところで、はたして「わが社は消費活性化のために大いに賃上げします」という企業が出てきたとして(消費活性化を切望する小売あたりではそういう企業もあってもいいように思うのですが)、その企業の株価は上がるのか下がるのか?あるいは、仮に経団連が「会員企業はすべて定昇込み3%以上の賃上げを実施すべし」とお達しをしたとしたら(効き目のほどは疑わしいですが)、日経平均は上がるのか下がるのか?人事屋としてみれば、そんなことで賃金政策が左右されるというのも面妖な話だなあという印象は禁じえないのではありますが…どんなもんなんでしょうか。