いつか見た議論

きのうの話の続きになりますが、先月23日に開催された経団連と連合の懇談会では、経営サイドからこんな発言があったようです。

 新日本製鉄の三村明夫社長(経団連副会長)は「給与を上げても貯蓄に回り、消費がよくなるとは思えない。消費が増えないのは、社会保障など将来への不安だろう」と語り、社会保障の充実や国際競争力強化などが伴わない内需拡大論に疑問を投げかける。
(平成20年1月24日付毎日新聞朝刊から)

で、どうも見覚えのある議論だなあと思っていたのですが、実は2000年の春闘の際にも同じようなやりとりがあったことが思い起こされます。

 鷲尾氏がまず「もしベアゼロなら、個人消費を冷やし、景気回復に水を差すことになる」と賃上げの必要性を強調した。これに対し奥田氏は「賃上げと消費拡大との関係性は薄い。むしろ雇用安定を最優先すべきだ」と反論。一方、鷲尾氏が「もし、失業率を二%台まで下げることを約束してくれるのなら、ベア要求を引き下げることもありうる」といえば、奥田氏が「賃上げした部分を一〇〇%消費に回してくれるのであれば、賃上げも考えられる」と応じた。
(平成12年1月14日付朝日新聞朝刊から)

当時と現在とを比較してみると、この1月の消費者態度指数は37.5と、2003年6月以来の低水準ということです。2000年当時にはこれが42前後で推移していましたので、とりあえず消費に対しては当時のほうが意識は積極的だったといえそうです(50が標準の指数なので42前後でも低いように見えますが、この指数が50を上回ることは現実にはめったにありません)。
いっぽう、雇用情勢はといえば、1999年の完全失業率が4.7%だったのに対して2007年は3.9%、有効求人倍率は1999年は0.5倍を切ってどん底だったのに対して2007年は1.04倍(これまた、1倍を上回るのはかなりの好況期です)となっています。2000年当時、旧日経連は奥田氏の発言にもあるように「雇用や社会保障などの先行き不安が消費不振の原因」といった主張を展開していたはずで、その論法でいけば雇用情勢に関しては今春闘での賃上げは消費増につながるということに一応はなるでしょう。もちろん、社会保障の将来不安は、制度的な取り組みは不十分ながらも進んだとはいえ、社会保険庁不祥事などもあって当時と較べて軽減されたとはお世辞にもいえませんし、雇用情勢も非正規雇用比率の上昇などがあって、統計数値ほどには改善していないとの見方もあるかもしれませんので、なかなか単純ではありませんが…。
明日には金属労協主要各社が要求書を提出する予定とのことですが、さて今年の行方はどうなるのでしょうか。