ようやくここまで来た、大事なのはこれからだ

新潟と酒田で山籠もりをしておりました。帰還したところこんなニュースが。

 正社員の数が8年ぶりに増加に転じた。総務省が16日に発表した2015年の労働力調査によると、正社員数は前年比26万人増の3304万人になった。新たに働き始める女性や高齢者が増えたほか、パートやアルバイトから正社員に職種転換する例も目立つ。非正規中心だった企業の採用姿勢に変化が出てきた格好だ。雇用は改善してきたが、賃金や消費への波及は依然鈍いままだ。
 雇用者数は5284万人と同44万人増えた。増加数の内訳は正社員が26万人、非正規社員が18万人だった。調査方法が違うために単純比較できないが、総務省によると、増加数で正社員が非正規社員を上回るのは21年ぶりになる。
 働いていなかった女性や高齢者が正社員になる例が増えている。女性の正社員は1042万人と前年比23万人増。65歳以上の高齢者も93万人と同7万人増えた。
 企業はこの20年ほど、業績が上向いた時も雇用調整が容易な非正規社員の採用を優先させる傾向が強かった。
 だが15年は完全失業率が3.4%と18年ぶりの低水準になる一方で、有効求人倍率も1.2倍と24年ぶりの高水準を記録。失業期間が1年以上の人は前年比12万人減の77万人と、比較可能な02年以降では最少だった。待遇の良い正社員の枠を広げることで人材流出を防いだり採用を優位に進めたりする狙いがあるとみられる。
平成28年2月17日付日本経済新聞朝刊から)

いよいよこの段階に来たか、という感じでしょうか。
業況が改善して労働力が不足しはじめると、企業はまずは業況が再度悪化するリスクを考慮して雇用調整が比較的容易な非正規社員を採用したり派遣労働者を活用したりします。好況が広がってくると非正規社員が不足して非正規の賃金が上がりはじめます。それでもなお必要な人員を確保できないと、当分の間はこうした状況が続くだろうと一応考えられれば正社員の新規採用増や非正規社員の正社員登用に踏み込んでいくという順序を踏むわけで、アベノミクスもいよいよこの段階に達したということでしょう。
それでもなお人手不足感が続けば、いよいよ次は正社員の賃金が上がる番ということになるわけで、そういえば今週は大手労組の要求書が提出されて春闘本番という時期になりましたが、企業がどの程度人手不足感があるか、そして先行きも当分その状況が続くと考えているかどうか、これがベースアップ実現に大きく影響することになりそうです。記事でも三菱総研の武田洋子氏が登場されて「円高・株安で日本経済の下振れリスクが高まっているが、失業率は今後も低水準で推移するとみる。景気下振れで企業収益は減るかもしれないが、内部留保は減っていない。優秀な人材を確保するため、正社員化や賃金引き上げの動きは途切れないだろう」と強気な見通しを示しています。手厚い内部留保が業績下振れリスクへの耐性を高めているなら内部留保も悪いものでもないというところでしょうか。さすがに専門家の武田氏は内部留保を取り崩して賃上げとかいう素人論は述べないだろうと思います。いずれにしても、企業にはデフレマインドを払拭し、少々の業績下振れリスクなどものともせずに賃上げ(できればベースアップ)に踏み切ることが求められている局面と言えるかもしれません。
さらに重要なのが日本総研の山田久氏の指摘で「女性や高齢者が働き始めて世帯収入が増えても、社会保障への不安や景気の先行き不透明感から貯蓄に回してしまう。賃金の伸びが低いことも消費低迷の要因だ。企業は賃上げに慎重になっているが、日本経済の成長には引き続き積極的な賃上げが不可欠だ」という指摘で、後段もさることながら前段の「社会保障への不安や景気の先行き不透明感から貯蓄に回してしまう」という問題がいまや重大でしょう。企業・経営者がようやくデフレマインドを脱しようとしている現在、それ以上に強固な消費者のデフレマインドをなんとか打破しなければ、山田氏が主張されるベースアップを実施しても、まさに山田氏が指摘されるとおり「貯蓄に回してしまう」ということになりかねません。ベースアップの消費弾性値は高い高いとエコノミストのみなさんは口々に主張されますが私は疑わしいものだと思っており、今次春闘では労組のみなさまにはベースアップを獲得した際には妥結提案して採決して終わりではなく、さあベースアップ分はジャンジャン使いましょう貯金したってマイナス金利(まあ普通預金の利率はマイナスにはならんと思うが微々たるものには違いない)なんだからキャンペーンを大々的に展開してほしいと思います。冗談抜きで日本経済にとっては今回の春闘は回答・妥結のあとが本番ではないかと思います。そして今回はおそらく経営サイドは賞与もポンと弾んでくれそうですから(希望的観測)、それも貯め込まずにどんどん使うようになれば消費者(≒労働者でもある)のデフレマインドも払拭されたという話になりそうです。
さてどうなりますか。