賢明な対応

コンビニ大手のセブンイレブンが店長に残業代を支払うよう変更するそうです。

 セブン―イレブン・ジャパンは三月から、同社が管理職と位置付けている店長に残業代を支払う方針を固めた。一月末に東京地裁日本マクドナルドに店長への残業代支払いを命じたことを受けた。同判決以降、外食・小売業界で店長への残業代支払いを決めたのはセブンイレブンが初めて。
 コンビニエンスストア業界では、ローソンやファミリーマート、サークルKサンクスなど他の大手はすでに残業代支払いに切り替えており、セブンイレブンの対応が焦点となっていた。
 セブンイレブンの約五千人の社員のうち直営店に勤務する店長約五百人が対象となる。従来は基本給と店長手当が主な給与項目だった。三月一日分から店長は店内のパソコンで毎日労働時間を入力し、同社は残業時間分すべてを支払う。店長手当は大幅に減額する。ただ、店長が管理職という位置付けは変えない。
 フランチャイズチェーン(FC)展開をしている同社では、FC店オーナーの店舗運営などを経験させるため、入社二年目前後の若手社員が管理職として約一年間、店長を経験する特殊な制度を取っている。社員教育を目的としており、店長を外れたら一般社員となる。マクドナルドの判決を受け、労働法制上の問題が指摘されかねないとみて、残業代支払いを決めたとみられる。
 制度変更と同時に、月平均で約四十五時間だった店長の残業時間を三十時間に短縮する目標を設定した。残業時間が四十二時間になれば、残業代を払っても会社の人件費負担は現行制度と同程度になるという。
(平成20年2月8日付日本経済新聞朝刊から)

まことに適切な対応と申せましょう。とりわけ、入社2年目の若手にやらせているとなるとなおさらです(店長とはいっても、さすがに事実上の指導者がついているとみるのが妥当でしょうから)。ローソンなど他の大手は残業代を支払っているということですから、特段マクドナルド判決がどうこうということもなさそうですが、それなりにきっかけにはなったということでしょうか。判決の効果が早くも現れた形です。
現状、残業が月平均45時間のところ、新制度は42時間で同程度になるということですから、2%程度の賃上げに相当するというところでしょうか。もっとも、店長手当が賞与のベースに含まれているとすると、年収ではほとんど変わらないかもしれません。いずれにしても、これを効率化・残業削減の契機としようという取り組み姿勢も、まことに労務管理の高度化として好ましいものがあります(もっとも、収入減を嫌う人としては歓迎できないかもしれませんが、それはどこでもある話です)。
ポイントは「店長が管理職という位置付けは変えない。」というところでしょう。残業代が支払われていても、一定の責任と権限をもって管理的な業務に従事する人は「管理職」と呼び、管理職として処遇しても何ら差し支えないわけです。世間の企業で一般的に考えられている「管理職」と労働基準法の「管理監督者」とは異なるわけですから、そこは割り切って考えればいいわけで。

  • もっとも、労基法上の労働時間規制が適用除外される範囲については、現行の労働基準法や裁判例が想定する「管理監督者」ではやや狭すぎることも間違いないと思いますので、それはまた別の問題として考える必要はあるとは思いますが。

いっぽうで、日本マクドナルドの原田社長はといえば、相変わらず店長には残業代を支払うつもりはないようです。

 日本マクドナルド原田泳幸会長兼社長は5日、朝日新聞の取材に応じ、店長を管理職とみなし、残業代を支払わなかったのは違法との東京地裁判決について「時間と無関係に結果を出すのが店長の仕事」などと述べ、全面的に反論した。
 1月28日の判決は、原告の店長について肩書に見合った待遇を受けていない「名ばかりの管理職」との認識を示したが、同社は控訴した。
 原田社長は「会社の構造的な問題とは考えていないし、無報酬の労働を強いてはいない。店長は今でも管理職で、自身の判断で残業時間を管理できるから『みなし労働』にはあたらない」として、残業代を支払う考えはないとしている。
(平成20年2月8日付朝日新聞朝刊から)

だから、「名ばかりの管理職」ではなくて、「企業の人事管理上は管理職であるとしても、労働基準法上の管理監督者にはあたらない」ということなんですよ。こういうマスコミが取材するから社長だって勘違いする。それから、「自身の判断で残業時間を管理できるから『みなし労働』にはあたらない」ってのも意味不明です。裁量労働とか事業場外みなしにあたらないって、そりゃそうでしょう。で、見なし労働にあたらなければふつうは残業代を払うのであって、それらが適用除外になるのが管理監督者ということだと思うのですが。
で、現実には、裁判所は「自身の判断で残業時間を管理できるから」というのが「事実上そうなっていない」と判断したわけですね。もちろん、原田氏がいうように、「労働時間とは関係なく、売り上げや利益を上げるのがよい店長であり、そういう人には多くの報酬を支払う。労働時間ばかり長くて、売り上げや利益の少ない店長にたくさん残業代を払うなんていやだ」というのも、一面の正論ですし、気持ちはよくわかります。でも、そうしたいんだったら、利益が上がればそれなりに短時間労働ですむようになってなければならないわけで、マクドナルドの店長がそうなっていたかというと、さてどうなんでしょうか。それでもなお残業代を払いたくないのであれば、店長を雇用するのではなく、フランチャイズのオーナーとして店舗運営を委ねるとかすべきでしょう。