朝日と読売と日経

一昨日のエントリで取り上げた朝日と読売の社説比較ですが、日経も、ずいぶん遅ればせながらも同じ問題をきのうの社説で取り上げていましたので、フォローしておきます。

 司法判断を公然と無視する一流ホテルがあるとは、あきれてしまう。日本教職員組合が東京のグランドプリンスホテル新高輪で開く予定だった教育研究全国集会の全体集会が中止に追い込まれた問題である。
 ホテル側はいったん結んでいた会場使用契約を解除し、使用を認める裁判所の決定にも従わなかった。「右翼団体が多数の街宣車を繰り出し、騒音や警備によって利用者や住民に大きな迷惑がかかるのは明白」。プリンスホテルはこう主張した。
 たしかに、日教組の教研集会には毎回右翼団体が押しかけ、会場周辺はものものしい警備と相まって騒然となる。静かな雰囲気や高級感を売り物にするホテルとしては、神経を使う催しには違いない。
 しかし今回の場合、ホテル側は昨年5月に予約を受け入れていた。日教組側は催しが教研集会であり、警察に警備を依頼していることも伝えている。ところが、ホテル側は11月になって突然、解約を通告した。過去の例を調べたら影響があまりにも大きいのが分かった、という。
 仮処分の申し立てを受けた東京地裁日教組側に落ち度はないとし、会場を使わせるよう命じた。東京高裁もホテル側の抗告を棄却し「警察と十分な打ち合わせをすることで混乱は防げる」と指摘している。
 日教組の主義主張に批判は少なくないが、あくまでも合法的な組織の合法的な集会だ。早い段階で事情を説明して契約も結んでいる。この司法判断は極めて妥当だが、ホテル側は会場使用に頑として応じず、会場に別の予約まで入れていた。
 教研集会をめぐっては公共施設が貸与を拒んだ例はあるが、司法は使用拒否を認めず、施設側も従ってきた。そこには、憲法の保障する言論や集会の自由が損なわれてはならないという社会の意思があるはずだ。それなのに、私企業とはいえ公的な性格を持つ大規模ホテルがこの対応では情けない限りではないか。
 プリンスホテル西武鉄道株の名義偽装事件を機に誕生した新生西武グループの一員だ。コンプライアンス(法令順守)にはとりわけ配慮を払っているという。それが裁判所の命令さえはねつけたのでは、企業理念がむなしく響くばかりである。
(平成20年2月5日付日本経済新聞朝刊社説)

読売と朝日に共通していた「右翼団体の思うつぼ」との主張はありませんが、「裁判所が「解約は無効」としたにもかかわらず、ホテルが会場を使用させなかったことは許せない」「憲法で保障された集会の自由、表現の自由が脅かされる」との基本路線は共通しています。社説の大半が事実関係の確認に費やされているのが特徴的で、社説というより解説という趣すら漂っています。
おもしろいのが「日教組の主義主張に批判は少なくないが、あくまでも合法的な組織の合法的な集会だ。」というくだりで、日教組の主義主張と日経新聞のそれとが折り合わないのはわかるのですが、この書きぶりではふつうの読み手は日教組は合法的ではあってもおよそ好ましくない組織だという印象を持つはずで、いささか日教組に気の毒なのでは。
なお、「教研集会をめぐっては公共施設が貸与を拒んだ例はあるが、司法は使用拒否を認めず、施設側も従ってきた。そこには、憲法の保障する言論や集会の自由が損なわれてはならないという社会の意思があるはずだ。それなのに、私企業とはいえ公的な性格を持つ大規模ホテルがこの対応では情けない限りではないか。」とのくだりは朝日と似ていますが、朝日が公共施設に対する司法判断をホテルにも「あてはまる」としてしまっていたのに対し、日経は「情けない限り」との情緒的評価にとどめています。やはり「あてはまる」とまではいえないということなのでしょう。