社内預金で経営再建?

 経営再建を進めている日本航空労働組合が会社側に対し、社員から預金を募る「社内預金」の導入を提案していることが19日分かった。集まった預金を社債の償還資金などに使い、再建に役立てるのが狙い。
 八つある日航の労組のうち、最大のJAL労働組合を除く7労組が同日までに会社側に提案した。ただ、資金がどの程度集まるかが不透明なうえ、金利負担が経営を圧迫する可能性があり、経営側が受け入れるかどうかは不透明だ。
 日航によると、同社は93年まで社内預金を導入していたが、市中金利より高い金利負担が重くなったため廃止した。厚生労働省によると、社内預金の最低金利は現在、年0・5%。
(平成19年6月20日朝日新聞朝刊から)

これはまた、なかなかユニークというかなんというか…。要するに、従業員が運転資金を貸し付けようということですなこれは。
社内預金については、基本的には労働基準法18条の強制預金の禁止が原則で、同条2項で例外として社内預金をやるには過半数労組か過半数代表との労使協定が必要とされています。これは労組が提案しているのですから大丈夫そうに見えますが、最大労組が同調していないとなると必ずしも成り立たないかもしれません。で、同条4項で社内預金には利子をつけなければならないと定められていて、その最低利率は市中金利などをふまえて省令で定めることとなっています。最近改定されたのは平成11年で、記事にもあるとおり0.5%とされています。
そこまではいいのですが、記事に書かれていない部分で、同条3項は「労働者がその返還を求めたときは、遅滞なく、これを返還しなければならない」と定めています。まあ、当たり前といえば当たり前ですが、「社債の償還資金などに使い、再建に役立て」てしまうと手元にはキャッシュとしては残らないわけで、果たして本当に遅滞なく返還できるのかはちょっと心配になります。
というわけで、賃金の支払の確保等に関する法律はちゃんと社内預金の保全について定めていて、賃確法3条には「事業主は、…毎年三月三十一日における受入預金額について、同日後一年間を通ずる貯蓄金の保全措置(労働者ごとの同日における受入預金額につき、その払戻しに係る債務を銀行その他の金融機関において保証することを約する契約の締結その他の当該受入預金額の払戻しの確保に関する措置で厚生労働省令で定めるものをいう。)を講じなければならない。」と定められています。要するに金融機関に保証してもらいなさい、ということでしょうが、はたしていまの日航とそういう契約に応じる金融機関があるのでしょうか?もっとも、すでに巨額の金融支援を注ぎ込んでしまっていることを考えれば、社内預金の保証を追加してもなんら大勢に影響ないという考え方もあるかもしれませんが…。
こうしてみると、最低率の0.5%でも市中金利を考えれば十分高いわけですし、保全もされるということであれば、労働組合としては再度社内預金制度を導入するのは福利厚生の改善だからけっこうな話だ、ということなのかもしれません。日航にしても、いまの日航に0.5%の金利で融資する金融機関はないでしょうから、やはりけっこうな話ということになるのでしょうか。
ただし、保全されているから会社が倒産しても社内預金は大丈夫かというと、実はそうでもないようです。2002年の会社更生法改正により、社内預金については「賃金の6ヶ月分、あるいは総額の3分の1の多い方に限定して共益債権部分とする」こととなりました。したがって、多額の社内預金がある場合は、その3分の1しか守られない可能性があるということです。はたして日航の労組はそこまで考えているのかどうか。

  • ちなみに、連合は2002年の会社更生法改正にあたり、更正手続きに労組などが関与できることになったことは評価しつつも、社内預金保護については問題視していました。

結局のところ、日航の少数労組はすべて「日航は絶対につぶれない(会社更生法適用にはならない)」という信念のもとに活動しているということなのでしょう。虎の子を会社に預けることで労使が運命共同体となり、絶対につぶさないという覚悟で労使一体で再建に取り組むということなら立派な覚悟ですが、そうとも思えません。となると、「絶対につぶれない」というのがはたしてどこまで現実的な想定なのかについては、最大労組の慎重姿勢が示しているようにも思いますが、まあ信念なのでどうしようもないのでしょうか。そういう信念の人が多いとなると、再建も一段と困難になりそうですが…。