キャリアデザイン「労働ビッグバン」(2)

「キャリアデザインマガジン」第60号のために書いたエッセイで、きのうの続編です。これも5回くらいの連載になりそうです。
以下転載です。


労働ビッグバン」(2)

 経済諮問会議が「労働ビッグバン」を打ち出したのは、昨年(2006年)10月13日開催の平成18年第22回経済財政諮問会議有識者議員提出資料(いわゆる「民間議員ペーパー」)においてであった。この会合は、小泉政権から安倍政権に代わり、それにともなって小泉政権時代の政策決定に大きな役割を果たした経済財政諮問会議も、そのメンバーを一新しての最初の場であった。いわゆる「民間議員」についてもそれまでの牛尾治朗氏、奥田碩氏、本間正明氏、吉川洋氏が退き、新たに伊藤隆敏氏、丹羽宇一郎氏、御手洗冨士夫氏、八代尚宏氏が就任しており、これはその最初の民間議員ペーパーとして注目されるものであった。
 このペーパーは『「創造と成長」に向けて』と題するもので、「イノベーションによる生産性向上」など7つの課題を指摘している。その2つめとしてあげられたのが「労働市場の効率化(労働ビッグバン)」であるが、具体的な内容はここでは「経済全体の生産性向上のためには、貴重な労働者が低生産性分野から高生産性分野へ円滑に移動できる仕組みや人材育成、年功ではなく職種によって処遇が決まる労働市場に向けての具体的施策が求められているので
はないか。公務員についても公務員制度改革が必要である。」と述べられるにとどまっている。
 以降、経済財政諮問会議は毎回テーマを決めて集中審議を行うという運営が行われたが、「労働ビッグバン」がふたたび表舞台に立ったのは同年11月30日開催の平成18年第27回経済財政諮問会議においてであった。この日は集中審議の第5回として「再チャレンジ支援・労働市場改革」がテーマとして設定され、再チャレンジ支援、労働ビッグバンハローワーク(の民間開放)について議論が行われている。
 この日は、「複線型でフェアな働き方に〜〜労働ビッグバンと再チャレンジ支援〜〜」と題する民間議員ペーパーが提出され、労働ビッグバンの具体的内容が提示された。それによると労働ビッグバンは「複線型でフェアな働き方」をめざすものであり、「働き方の多様性」「労働市場での移動やステップアップのしやすさ」「不公正な格差の是正」を「3つの目的」としている。そのうえで、「労働市場に関して検討すべき論点」として「再チャレンジを阻害する労働市場の問題はどこにあるか」「雇用形態による格差をどう是正するか」「仕事と育児の両立を図るには何が必要か」「技能をもった外国人労働者をどのように活用すべきか」の4点を示している。さらに具体的な細目も示されているが、労働市場や人事労務管理全般に幅広く関係するものとなっている。いかに集中審議とはいっても1回の会議でこれをすべて議論し尽くすことは不可能ということか、民間議員ペーパーでは「労働ビッグバンの進め方」としてまずは「専門調査会の設置」さらにそれを受けて「『骨太2007』に向けた府省横断的な検討」を行うとされた。
 さらに、専門調査会設置前の12月20日に開催された第30回では「労働市場改革専門調査会の検討項目についての意見」という民間技員ペーパーが提出され、正規・非正規、性別、働き方、年齢、国境、官民という6つの「壁」の克服が主張されるとともに、「均衡処遇の確立(不公正な格差是正)」「多様な働き方の実現」「高齢者雇用の拡大」「労働市場(の)グローバル化」「職業訓練、就職斡旋の充実」という検討項目が示された。この「6つの壁」は、「労働国会」と言われた今次第166通常国会における大田弘子経済財政担当大臣の経済演説にも盛り込まれることとなる。
 こうして、同年12月28日には「労働市場改革専門調査会」の第1回の会合が開催され、「労働ビッグバン」の具体的検討が開始された。この専門調査会は精力的に開催され、翌4月6日の第7回会合において『「働き方を変える、日本を変える」―《ワークライフバランス憲章》の策定―』と題する第1次報告がとりまとめられている。ここに至って、「ワーク・ライフ・バランス」という考え方が大きく前面に打ち出されることになった。