いつか見た議論

日経新聞さんは「主要企業時短調査」というのを実施されたのだそうで、先週の夕刊で3回連載の特集を掲載していました。ちょっと古いですが、その(上)から。

 残業は仕事につきもの――。景気回復で増えた仕事を残業でこなすのが普通だった少し前まで、社員にも経営者にもそんな本音があった。しかし仕事と生活の両立が重視され、働き方も大きく変わった今、企業はコスト増をしのんで人を採用し、残業削減に動き始めている。
(平成19年11月12日付日本経済新聞朝刊から、以下同じ)

なんか、80年代後半の時短運動のときにも同じようなことを言っていたような気がしますが。で、「景気回復で増えた仕事を残業でこなす」のでなければ、それは有期雇用でこなすしかないわけで、残業削減は非正規雇用の増加と表裏一体なんですが。
で、その非正規雇用がダメだということで、「景気回復で増えた仕事」量にあわせて正社員を雇用するとなると、不況期に今度は「景気後退で減った仕事」の分は正社員を解雇せざるを得なくなるわけで、残業削減は正社員の雇用の不安定化とセットになるわけですが。わかってるのかしらん。

 「ずいぶん早帰りが増えたなあ」。今月七日の夕刻、東京都品川区の日立ソフトウェアエンジニアリングから一斉にはき出される社員の波に交じり、テレコム事業部の水本修司さん(30)はつぶやいた。きょう水曜日は定時退社日なのだ。
 「新3K(きつい、厳しい、帰れない)」といわれるIT(情報技術)業界。同社にも徹夜、残業は当然という考えが染みついていた。その常識を覆そうと昨年、午後九時の一斉消灯を開始。さらに長時間残業者の名前を社長が出席する経営会議で報告することも始めた。小野功社長自身も時短作戦を強く呼びかけた。
 効果はてきめん。長時間残業は「問題行動」であるとトップが定めた結果、「月百時間以上などの異常残業者の割合は二〇〇四年比で八割減」(人事部)となり、年間の総労働時間も三年前に比べ八十六時間減の二千九十一時間となった。水本さんも「今では部下のほうが早く帰るくらい」と、変化を実感している。

「月百時間以上などの異常残業者の割合は二〇〇四年比で八割減」なんて、こんなのはいったい今まで長時間なにをやっていたんだ、と言いたくなりますね。残業代目当てかな。さすがに裁量労働だろうからそんなことはないか…。それにしても、八割減とは。もっとも、「異常」の基準を100時間に決めたことで、99時間の人がどっと増えたという可能性もありかも(笑)

 時短の阻害要因の一つが「社風」だ。企業の約三割は時短が進まない理由に「長時間働くことで評価されると考える」社員の存在をあげた。一方、正社員千人を対象に実施したネット調査では約四割が「時短を実現しづらい社内の雰囲気」が問題と答えている。

さすがに、長時間働く人を「アイツはがんばってるから」とか言って高く評価するというのはだいぶなくなっているのではないかと思います。これはむしろ、人事評価をめぐる競争環境の問題で、「彼は確かに優秀だ。でも私も彼に負けたくはない。だったら、私は彼の倍がんばらなければダメだ」という意識を持っている社員が存在する、ということでしょう。「時短を実現しづらい社内の雰囲気」というのもその裏返しで、「自分が時短したら相対的評価が下がるのではないか」という意識が「雰囲気」を感じさせるのではないでしょうか。たしかにこういう人が多いと残業は減らないでしょうが、かといってこれに「そんなにがんばらずに低評価に甘んじなさい」というのも情において忍びないものがあるわけで…結局は本人が「会社で高く評価されて出世することだけが人生の幸福ではない」という意識にならないと難しいのでは。もちろん、本当に「早く帰ると嫌味を言われたり白眼視されたりする」という職場もあるでしょうし、営業職などでありがちな「売れてないのに早くは帰りにくい」という実態もまだまだあるでしょうが。