パート労働法 その3

今日は賞与・退職金・諸手当の均衡処遇をとりあげます。均衡のあり方は、それぞれに異なってくるでしょう。

 短時間労働者に対する賞与支給制度の適用については、通常の労働者と比較して以下のような実施状況にある。このような現状も勘案し、均衡処遇のあり方をどのように考えるか。
 ※ 賞与の実施状況(事業所ごと・平成17年パートタイム労働者実態調査((財)21世紀職業財団))
 正社員に対して適用する 83.0%
 短時間労働者に対して適用する 65.7%
 ※ 平成13年に実施された同旨の調査では、短時間労働者に対する適用が45.5%

ここからは「あり方」になっています。これも賃金と同じことなのですが、賞与はより強く従業員への利益配分という性格を持っていることに注意が必要でしょう。もっぱら補助的・定型的な業務のみに従事し、業績へのコミットメントのほとんどない短時間労働者であれば、賞与の適用がないというのも自然だろうと思います。

 短時間労働者に対する退職金制度の適用については、通常の労働者と比較して以下のような実施状況にある。このような現状も勘案し、均衡処遇のあり方をどのように考えるか。
 ※ 退職金制度の適用状況(事業所ごと・平成17年パートタイム労働者実態調査((財)21世紀職業財団))
 正社員に対して適用する 66.1%
 短時間労働者に対して適用する 7.3%
 ※ 平成13年に実施された同旨の調査では、短時間労働者に対する適用が8.3%

これは賃金・賞与とはまったく別問題ですし、現実的にはフルタイムとパートタイムという問題でもありません。退職金の大きな目的のひとつが長期勤続奨励である以上、多くの場合長期勤続が期待されている正社員について制度の適用があり、そうでない有期雇用についてはその適用がないのは理にかなっています。また、現実には、有期雇用に対しても期間満了(途中退職抑制)のインセンティブとするために満了手当などを支給している例も多いはずです。もちろん、長期勤続期待も含む「職務と人材活用の仕組み等」が、同様の期待を受けている「通常の労働者」、すなわちフルタイム従業員(正社員)と「実質的に異ならない」パート労働者については、フルタイム労働者と同等(それが時間比例でいいのかどうかといった議論はまた別問題ですが)相当の退職金制度が適用されるのが自然であり、それが現状の結果として現れているのではないでしょうか。

 諸手当については、様々な種類のものが支給されているが、これらの性格に応じた均衡処遇のあり方を検討すべきではないか。
○ 生活給的なもの
○ 実費弁償のもの
○ 職務関連のもの
 また、その際、以下のような実施状況も勘案し、具体的にはどのようなあり方とするか。
 ※ 各種手当の実施状況(事業所ごと・平成17年パートタイム労働者実態調査((財)21世紀職業財団))
 通勤手当 正社員に支給89.9% パートに支給86.4%
 役職手当 正社員に支給83.9% パートに支給16.4%
 精勤手当 正社員に支給18.4% パートに支給11.4%
 家族手当 正社員に支給74.6% パートに支給11.0%
 住宅手当 正社員に支給55.7% パートに支給 8.3%
 ※ 平成13年に実施された同旨の調査と比較して、パートに対する支給の状況はいずれも高くなっている。

性格に応じてあり方を検討すべきとの考え方はもっともでしょう。
生活給的なものとしては家族手当や住宅手当が想定されているのでしょうが、これらは福利厚生的な性格を強く持ち、基本的に世帯単位で考えられていることに注意が必要です。ほとんどの場合は、夫婦が同等に就労・稼得することを前提とするのではなく、一方が主たる生計維持者となり、もう一方は稼得しないか、補助的な稼得にとどまるという形態を前提としているでしょう。であれば、補助的な稼得者であることが多いパート労働者にその適用が少ないのは自然なことだろうと思います。個別の生計費の必要性に応じて生活給を支給するというのは現実的ではなく、生活給にまで均衡概念を持ち込むのは明らかに行き過ぎではないかと思います。各企業労使において、必要と判断すれば導入すればよい話ではないでしょうか。それが現実の結果として現れているように思います。
実費弁償のものとしては通勤手当が想定されているのだろうと思いますが、これはフルタイムでもパートタイムでも通勤は同様に発生する以上、同様に支給すべきだとの考え方は一応もっともに思えます。ただ、フルタイム働いてくれる人であれば通勤費を払っても採用したいが、パートタイムで働いてもらう人は通勤費を払ってまでも採用しなくてもいい、という判断は当然ありうることだろうと思います。一律ではなく、職務や人材活用の仕組み等の違いをふまえて「均衡」を考えるべきものでしょう。
現実問題としては、パートタイム就労を選ぶ人は当然通勤時間も短いことを希望するでしょうし、募集・採用においても事実上一定のエリア内居住者に限って行われていることが多いと思われます。したがって、通勤費も高額となることは考えにくく、実務的な影響はそれほどないものと思われますし、それが現実に支給している企業の割合が高いことにつながっているのでしょう。事実上通勤圏を限って採用した場合は、労働者の転居等によって通勤経路が変更となっても、当初の通勤手当を変更することを要しないとか、通学定期券を持っている学生アルバイトには通勤手当の支給を要しないとかいった細部をしっかりさせれば、「均衡」の考え方が他の手当より大括りになってもそれほど影響はなさそうです。
役職手当と精勤手当については職務関連ということになるでしょうが、役職手当については、たとえば同じ売り場で売場主任が3人いて2人がフルタイムで1人がパートタイムといった場合に、仕事の内容は同じなのにフルタイムには役職手当が支払われ、パートタイムには支払われないというのは明らかに不合理でしょうから、これは均衡させる必要があるでしょう(これまた、時間割がいいかどうかといった議論は別問題ですが)。もっとも、これは現場ではどちらかといえばパート労働者間の違いという面が強いのではないかと思いますが。
いっぽう、精勤手当については、企業としてその人にどれほど「精勤」してもらいたいか、という事情によって扱いが異なってくるはずです。「精勤」というのがたとえば年次有給休暇等一定のケースを除いて遅刻・早退・欠勤等がない、という意味であるとすれば、勤務時間が長いフルタイム労働者のほうにより強く精勤してもらいたいという企業もあるでしょうし、パートタイマーに欠勤等が比較的多い傾向があるので精勤手当を支給して欠勤を抑制したいという企業もあるでしょう。こちらは一律に「均衡」を考えることはなじまないように思われます。