パート労働法 その4

今日は教育訓練と福利厚生に関する均衡処遇です。

<教育訓練>
 指針においては、教育訓練について、短時間労働者の就業の実態に応じて実施するよう努めるものとしているところである。その種類は、職務・職種別の研修、法令遵守・企業倫理研修など様々であり、現状としては以下のような実施状況にある。また、今後、労働力人口減少社会の到来等を踏まえ、日本経済の活力を維持するためには、短時間労働者がその有する能力を有効に発揮できるようにしていくことが必要となってくる。
 これらを踏まえ、教育訓練の性格に応じた均衡処遇のあり方をどのように考えるか。
 ※ 教育訓練の実施状況(パートへの実施率が高いもの上位3項目・事業所ごと)(多様化する就業形態の下での人事戦略と労働者の意識に関する調査(平成17年(独)労働政策研究・研修機構))
 計画的なOJT 正社員に実施69.5% パートに実施47.7%
 職種・職務別の研修 正社員に実施61.9% パートに実施21.2%
 法令遵守、企業倫理研修 正社員に実施40.7% パートに実施18.0%

これも指針から努力義務化したいということでしょうか。「就業の実態に応じて」ということですが、その意味するところが重要です。
教育訓練には、目前の仕事に必要な能力を補うためのものもあれば、将来を見越して能力の向上をはかるためのものもあります。前者は勤務形態等を問わずにきちんと行わなければ企業が成り立ちませんので、これをパートには行わないというのは論外です。法令遵守や企業倫理に関する最低限の研修もこれに該当するでしょうから、これが行われていないとしたらフルタイム・パートタイムを問わず問題というべきでしょう(そういう意味では調査結果は意外ですが、回答者が最低限のものは当然として除外し、アドバンスしたものだけを念頭に回答した例が多かったのかもしれません)。
いっぽう、後者については、企業の経営方針や事業計画と密接に結びついており、投資に近い性格を強く持っています。したがって、こうした教育訓練については、誰に何を行わせるかは使用者の専権と考えるのが当然でしょう。使用者がこれを考えるときに、投資の回収を考慮して長時間働いてもらえる人を優先するというのもまことに合理的です。そもそも「均衡」にはなじみにくい分野のように思いますが、「均衡」を持ち込むにしても、こうした事情を十分に考慮したものとすべきでしょう。
なお、「今後、労働力人口減少社会の到来等を踏まえ、日本経済の活力を維持するためには、短時間労働者がその有する能力を有効に発揮できるようにしていくことが必要」というのはそのとおりかもしれませんが、だから企業に必要以上に教育訓練を実施せよというのは筋違いで、企業の必要以上の部分は行政などが担うべきものと思います。企業はその受益者になりますが、応分の税負担をしているでしょう。

<福利厚生>
 指針においては、福利厚生制度について、施設の利用について短時間労働者に対して通常の労働者と同様の取扱いをするよう努めるものとしているところである。一方、現状としては、施設の利用、金銭の支給など様々な福利厚生が実施されているが、これらを踏まえ、福利厚生の性格に応じた均衡処遇のあり方をどのように考えるか。
 ※ 福利厚生の適用状況(パートへの適用率が高いもの上位3項目・事業所ごと)(平成17年パートタイム労働者実態調査((財)21世紀職業財団))
 社内行事への参加 正社員に適用92.2% パートに適用85.1%
 慶弔見舞金の支給 正社員に適用88.1% パートに適用71.1%
 保養施設の利用 正社員に適用52.4% パートに適用41.0%
 ※ 平成13年に実施された同旨の調査と比較して、パートに対する実施の状況はいずれも高くなっている。

福利厚生制度はその内容も目的も企業によって多様であり、一律の議論にはなじみにくいものではないかと思います。
施設と言われても何のことかという感じですが、パート労働指針では「給食、医療、教養、文化、体育、レクリエーション等の施設の利用」となっています。パートには従業員食堂の利用を認めていない、というケースがどれほどあるのかわかりませんが、キャパシティの関係で、時差での対応などを実施してもなお正社員に限らざるを得ない、ということもあるのでしょうか。施設建設はかなりの高額の費用を要するだけに、そうしたケースで建設を余儀なくされるような規制を行うのは現実的ではないように思います。
医療施設については、フルタイムで残業もする人の方がケアの必要性が高いということはあるでしょうし、長期雇用を念頭において長期的な健康増進につながる各種サービスを提供している場合に、それを短期雇用が多いパート労働者にまで適用するというのも企業にしてみれば不合理です。文体レク施設や保養施設などについても、フルタイムでの長期就労を期待するから家族などに対するサービスまで提供しているという面もあるでしょう。要するに、施設の種類も目的も多様ななかでは、やはり職務や人材活用の仕組み等の違いをふまえて「均衡」を考えるべきで、一律に「均衡」を論じるのはいかにも無理だと思われます。
社内行事というのも何を指しているのかが不明ですが、もちろん、人間関係やコミュニケーションの改善、一体感の醸成などのために、社長講話やレクリエーション行事などにパート労働者(に限らず非典型雇用全般)を参加させることは、人事管理上好ましいことであることに違いありませんし、調査結果もそれを示しています。いっぽうで、たとえば定期入社の入社式に有期契約のパートタイマーを参加させるというのも不自然な話ですし、正社員だけを組織している労働組合や共済会などの行事に非構成員であるパート労働者を参加させるのも筋が違うでしょう。その分、調査結果にも多少の差が出ているのではないでしょうか。慶弔見舞金についても、多くの場合はパートにも適用されているようですが、その金額は雇用形態等に応じておのずと異なるものにならざるを得ないのではないでしょうか。近所で弔事があったときに、週末のセカンドハウスで使われている家の香典は毎日近所付き合いしている家の7分の2にしなさい、などというのはおよそナンセンスです。行事や慶弔見舞などは、感覚的に「仲間外れ感」が強いので、人事管理上は十分な配慮が必要でしょうが、法的概念として「均衡」を考える際には、そうした「情」にはあまり流されないほうがいいのではないかと思います。

 指針においては、所定労働時間が通常の労働者とほとんど同じ短時間労働者で同様の就業の実態にある場合については、通常の労働者としてふさわしい処遇をするよう努めるものとしていることについて、どのように考えるか。

これも法で努力義務化しようということでしょうか。「同様の就業の実態」の意味は現行指針のパンフレットなどを見てもよくわからないのですが、これは、「職務と人材活用の仕組み等が通常の労働者と実質的に異ならない状態にある短時間労働者」であって、かつ「所定労働時間が通常の労働者とほとんど同じ短時間労働者」については、その「通常の労働者」としてふさわしい処遇をしなさい(うーん、よくわかりません)、ということでしょうか。「ふさわしい処遇」というのは、現行指針では「労働条件その他の処遇について通常の労働者と区別して取り扱われているものについては」通常の労働者としてふさわしい処遇をしろ、と書いてありますから、要するに同一の取り扱いをしなさい、ということなのでしょうか。どういう人がこれに該当するのかなかなか想像がつきませんが、たとえば正社員が育児時間を利用したときに「あなたは短時間労働者になったのだから人事制度は別扱いにします」というようなケースでしょうか(これは育児休業法の不利益取り扱い禁止で救済できると思いますが)。あるいは、リストラで一方的に「あなたは明日から所定労働時間を7時間30分にしますので、賃金は時間給に変更します」というようなケースでしょうか。