パート労働法 その2

きのうの続きで、問題の「均衡処遇」についてです。「均衡」というのは「均等」とは異なり、一定の格差を容認することが前提になっていますので、あとは「均衡」をはかる相手をどう考えるか、というところだろうと思います。基本は言うまでもなく「同じものと均衡させる」ということでしょうが、まったく同じ人間はいるわけがないわけで、労働条件の種類に応じて、均衡の対象となる「同じもの」を適切に判断していくことが必要でしょう。原則はやはり「職務と人材活用の仕組み等」だろうと思います。
この問題については、フルタイムとパートタイムの格差という問題に、正規と非正規の格差という問題が混入してくるので、どうしても混乱しがちなように思います。

2 均衡処遇の確保
 均衡処遇の確保のあり方を検討する際には、指針で示されている短時間労働者の態様を基本に検討してはどうか。
<賃金>
 賃金として支給されるものには基本給、賞与、諸手当、退職金があり、それぞれ性格が異なるが、それらの性格に応じた均衡処遇のあり方を検討すべきではないか。
 指針においては、短時間労働者の賃金について、その就業の実態、通常の労働者との均衡等を考慮しつつ、短時間労働者の職務の内容、意欲、能力、経験、成果等に応じた処遇に係る措置を講ずるよう努めるものとしているところであり、現状としては以下のような実施状況にある。これらを踏まえ、賃金については均衡処遇のあり方をどのように考えるか。
 ※ パートの賃金の昇給決定要素(上位3項目)(多様化する就業形態の下での人事戦略と労働者の意識に関する調査(平成17年(独)労働政策研究・研修機構))
 個人の職業能力の向上 72.7%
 個人のこれまでの業績 51.6%
 個人の努力 42.2%

「均衡処遇の確保」というわけですが、企業にしてみればそれぞれの従業員の仕事や役割、能力や知識・経験、意欲、成果や貢献度などなどに適切に応じた処遇を行い、その能力の向上・発揮をはかりたいと考えているわけで、成果主義だとかコンピテンシーだとかいうのもそのための努力だったわけです。要するに、企業はそういう意味での「均衡処遇の確保」は一生懸命やっているわけで、至らぬところや改善の余地はたしかに多々あるでしょうが、それを外からみてあれこれと批判するのは基本的にはおかしな話ではないでしょうか。何をもって均衡とするかは、最終的には使用者しか判断できないはずです。
ですから、「職務の内容、意欲、能力、経験、成果等に応じた処遇」というのも当たり前のことですが、当然ながらそのすべてを考慮に入れるというわけではありません。たとえば、繁忙期の短期間、定型的・補助的な単純業務を手伝ってもらいたい、というパート労働者については、わざわざ手間ひまかけて「意欲、能力、経験、成果等に応じた処遇」を行うことはせずに、マーケットプライスで一律に処遇したいというケースも多いでしょう。こうしたケースも、「職務の内容」に応じた処遇であることには間違いないわけですから、能力や業績や努力が考慮されていなくても問題はない、ということでなければ、実務的には不要な手間とコストを強いられることになります。

 指針においては、職務と人材活用の仕組み等が通常の労働者と実質的に異ならない状態にある短時間労働者については、当該短時間労働者と通常の労働者との間の処遇の決定の方法を合わせる等の措置を講じた上で、当該短時間労働者の意欲、能力、経験、成果等に応じて処遇することにより、通常の労働者との均衡の確保を図るよう努めるものとしているところである。これについては、例えば通常の労働者と同じ体系の賃金表を適用する、支給基準、査定や考課の基準等を合わせるといった措置を講じることとしており、現状としては以下のような実施状況にある。
 これらを踏まえ、こうした者についての均衡処遇のあり方をどのように考えるか。
 ※ 職務と人材活用の仕組み等が正社員とほとんど同じパートの基本給の決定方法の正社員との違い(事業所ごと・平成17年パートタイム労働者実態調査((財)21世紀職業財団))
 決定方法が同じ 14.4%
 一部のパートは正社員と異なる 13.2%
 ほとんどのパートは正社員と異なる 23.2%
 正社員と同じパートはいない 49.3%
 ※ 職務と人材活用の仕組み等が正社員とほとんど同じパートの賃金水準についての正社員との比較(事業所ごと・平成17年パートタイム労働者実態調査((財)21世紀職業財団))
 8割程度以上 64.5%

これについては「同じ(実質的に異ならない)」と「ほとんど同じ」をきちんと区別する必要があるでしょう。たとえば、正社員が育児時間を利用している場合がパート労働法上の短時間労働者に該当するかどうかよくわからないのですが、仮にこれが該当するとすれば、まさに「職務と人材活用の仕組み等が正社員とほとんど同じ」の典型例となるでしょう。しかし、この場合は原則として残業はしないわけですし、出張などに対する配慮も当然あるでしょうから、「同じ(実質的に異ならない)」とまではいえません。
また、「均衡」の比較対象となる「通常の(フルタイム)労働者」とは誰か、という問題もあります。もちろん、あまり細分化しすぎると「職務と人材活用の仕組み等が通常の労働者と実質的に異ならない」などということはありえなくなってしまうので、適切に括る必要はあるでしょうが、ドンブリ勘定ではなく、比較対象として妥当な範囲で規定する必要があるでしょう。
結局のところ、職務への配置や人材活用の仕組み等の適用を決めるのは使用者である以上、こうしたことを判断できるのは使用者しかいないのではないでしょうか。もちろん、法の建前としては紛争になれば裁判所が判断するということでしょうが、判断しなければならない判事さんも気の毒な感じがします。実際、大手スーパーなどではフルタイムとパートタイムの人事制度や賃金制度を一本化する例が多くみられますし、こうした取り組みが適切に行われた結果が現状となって現れているのではないでしょうか。
現状が指針なので、法において努力義務化したいということかもしれませんが、こう考えれば、指針のままで十分と思われます。どうしても努力義務化するというのであれば、現場の混乱を招かないよう重々慎重に配慮してもらいたいものです。