飲酒運転に厳罰

福岡市職員の飲酒運転死亡事故をうけて、全国の自治体で事故の有無にかかわらず飲酒運転を原則懲戒免職処分とするという厳罰化が進められています。なかには、同乗者も同罪として懲戒免職するという自治体も現れています。

長崎県金子原二郎知事は26日の県議会で、飲酒運転の車に同乗した職員について、原則として懲戒免職とする方針を明らかにした。運転する人に酒を勧めたり、飲酒した人に車を貸したりした場合も同様の対応を取る。
(平成18年9月26日付読売新聞朝刊から)

このほか、埼玉県や北海道は酒気帯び運転でも懲戒免職にするということですし、市町村レベルまで見ると厳罰化は相当数にのぼりそうです。
これに対して、兵庫県の井戸知事が「厳しすぎる」との見解を示して、批判が集っているようです。

 兵庫県井戸敏三知事は26日の記者会見で、福岡市職員の飲酒運転による3児死亡事故の後、全国の自治体で職員の飲酒運転を原則免職とする動きが広がっていることについて、「飲酒運転はいけないが、一律免職にするのはいきすぎている」と述べ、厳罰化を疑問視する考えを示した。
 井戸知事は「自損や物損事故まで免職では、ほかの懲戒処分とのバランスを欠く」と説明。今後、基準を見直した場合でも、「事故の状況に応じた基準を検討している」と語った。
 これに対し、交通死者の遺族らでつくる「交通死被害者の会」(大阪市)は「社会の目が厳しくなる中で、危機感に欠けた発言だ」と批判している。
(平成18年9月27日付読売新聞朝刊から)

飲酒運転は道路交通法に罰則のある犯罪ですし、基本的に自覚的(飲んだ翌朝に思いのほか酒が残っていた、というようなケースもありえますが)なので、かなり悪質な行為であることは間違いありません。とはいえ、懲戒免職というのもきわめて重い罰則ですから、やはりそこには一種の均衡が必要でしょう。


井戸知事は「自損や物損まで」と言っていますが、実態としては事故を起こさなくても、飲酒運転さらには酒気帯び運転で検挙され、それが発覚した場合には懲戒免職というところまで行っているわけです。
まあ、現状をみれば、それも致し方ない部分もあろうとは思います。実際、福岡市職員の事故の場合は、結果が非常に重大かつ悲惨であっただけではなく、不祥事が社会的に追及されやすい公務員であることや、逃走をはかったり飲酒を隠蔽しようとするなど事故後の対応きわめて悪質なものであったことなどから、世間の批判が大きく高まっています。こんな中で同じような事故を起こしたら、今度はそれこそ批判の集中砲火を浴び、「首長の首を差し出せ」ということになりかねません(福岡市長の処分は減給10分の2、1か月でしたが)。そう考えれば、各自治体がとにかくリスクを回避するために厳罰化に走るのもうなずけるものがあります(JR西日本の事故のあとで東武鉄道が運転士の規則違反を厳罰にしたのと同じことです)。逆にいえば、こんな状況下で、うっかり事故を起こせば大騒動になることを承知のうえで、なおかつ飲酒運転をするような奴は、懲戒免職になっても仕方ないだろうといえると思います。朝日の記者のように、自分で飲酒運転批判を全国紙に書いているのに、その自分が飲酒運転で事故を起こせばどうなるのか、ということも考えずに飲酒運転をするような奴も同様です。
ただ、これはやはり「現在の状況下で」という但し書きはつくように思います。飲酒運転といっても今回の福岡市職員のような極悪なものばかりではなく、軽く飲んだあとに2時間仮眠して運転して検問でつかまったというようなケースもあるわけで、情状には多様なものがあるでしょう。また、相当の時間が経過して、今回の事故の記憶が薄れてきたときに、本当に飲酒運転でつかまっただけでクビを飛ばさなければならないのか、というのも冷静に考えてみる必要があるように思います。事故が起きる可能性がある(高まる)ということと、現実に事故が起きたということとは、やはり違うと考える必要があるでしょう(殺す気のないけんかでも人を殺せばそれなりの厳罰になるでしょうが、実際にはかすり傷にもならなかったという程度でも「当たり所が悪ければ死ぬ可能性はあった」ということで厳罰にするということはないでしょう)。あるいは、酒気帯び運転は道交法で禁止されていますが罰則はなく、犯罪ではないわけですから、やはり飲酒運転と処分の違いはあってしかるべきだろうと思います。
世間のブログなどをみてみると、懲戒免職をかなり軽くみている人が多い印象があります(まあ、今回の事故の印象が悪すぎるので、致し方ないところはあるでしょうが…)。しかし、現実には懲戒免職というのはたいへんな厳罰です。現在の社会状況では相当の厳罰化も致し方ないものとは思いますが、いつまでも硬直的な運用をするのはやはりおかしなことになるでしょう。どのタイミングでどう見直すかは難しいところでしょうが…。