豊洲市場関係者の懲戒処分

豊洲市場の問題については正直あまり関心を持っていなかったのですが、関係者の処分について一部で過酷ではないかという話があるとのことで、具体的には以下の記事について見解をたずねられました。
http://agora-web.jp/archives/2022426.html
この宮寺さんというブロガーの方はフリーランスのエンジニアということですが、エントリをいくつか読んだ限りではまあほぼネタであり、城繁幸氏のエピゴーネンと言ったら城氏が怒り出すかも知らん(笑)。まあいつも書いていることですがこういうものでも需要があるならそれに応えるのは立派な経済活動であり、面白いものを教えていただいてありがとうございますということでコメントしたいと思います。welqとかに較べりゃ害はないよな。
ただまあ私には事実関係がほぼ不明であり、調べて書くほどの時間もないので、表面的なコメントになることはご容赦ください。事実が違うなどのご指摘があればお寄せいただければ幸甚です。
とはいえ基本的な資料として都の「懲戒処分の指針」は公開されており(http://www.soumu.metro.tokyo.jp/03jinji/pdf/fukumu/cyoukaisisin.pdf)、当該懲戒処分についても公表されていて(http://www.soumu.metro.tokyo.jp/03jinji/pdf/fukumu/choukai281125.pdf)いずれも都のウェブサイトから読むことができます。
それによれば、処分にあたるとされた事故の概要は、

 平成21年2月6日に技術会議報告書をもとに、「豊洲新市場整備方針」として「敷地全面に盛土を行う」ことを知事が決定したが、その後、適切な手続を経ることなく、知事が決定した方針に反する整備事業を行った。
 また、都議会における答弁等、事実と異なる説明を行うとともに、環境影響評価の変更手続に違反した。
http://www.soumu.metro.tokyo.jp/03jinji/pdf/fukumu/choukai281125.pdf

となっています。
まず前段については、知事が決定した方針を変更する際に適切な手続を行っていなかったということで、まあ地方自治体ですから案件に応じた決裁や権限が定められているはずであり、それに従った手続が行われていなかったということなのでしょう。ざっと見るかぎりこれは当事者も自認しているようです。
そこで指針をみると

(7) 不適切な事務処理
 故意又は重大な過失により適切な事務処理を怠り、又は虚偽の事務処理を行い、公務の運営に重大な支障を生じさせた職員は、停職又は減給とする。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/pickup/p_gakko/p_hukumu/sisin.pdf

との記載があり、根拠はありますし処分もルールどおりということに一応はなります。「一応」というのは、実はこれに限らず他の案件でも規定通りにやらずに権限のない人がバリバリと決裁していてそれが常態になってましたとかいう事情があればいやありそうで怖いわけだがこらこらこら、そうした特別の事情があれば懲戒できないとか処分が重すぎるという疑義は発生しうるからです。
ということで一応は違法を疑うことは可能ですが、しかし宮寺氏の述べるような理由ではないということになりましょうか。つか宮寺氏は「豊洲関係者は「整備方針」を「都民のために、より安全で、より低コストな豊洲市場を」と解釈し、誰よりも真剣に考え、実現しようと努力してきたのだ」から懲戒処分の条件を満たさないと力説しているわけですが、いやこれ目的や結論の善良さではなく手続の問題ですから。つかこの言い分は「祖国への愛という目的が善良だからイトーヨーカドーに投石放火しても無罪だ」という主張とたいして違わないんじゃないかという気がするんですけどいいのかしら。
さて後段に関してはもう少し疑わしいところがなくはなく、「環境影響調査の変更手続に違反」はまあ前段と類似した話だろうと思うのですが、「事実と異なる説明」については本人たちも「意図的に事実と異なる答弁をしたのではない」という趣旨の主張をしているようです。ということはここで問われている非違は「事実と異なる説明」そのものではなく、議会答弁のような重要な場面で正確な説明ができるような準備確認をしなかったという問題で、まあやはり上述の「不適切な事務処理」ということになりましょうか。これについては準備確認ができなかったことにどれほどの理由や事情があるかによっては懲戒は酷ではないかという議論はありえます。一般論としては、部下が勝手にやったことを上司に報告せず、上司が質問しても回答しなかったとかいう事情があれば、上司が間違った説明をしたからといって懲戒までしますかというような話ですね。
ということでここでも疑うことは可能ですが、やはり宮寺氏の言うような理屈ではないということになりそうです。宮寺氏は「「盛り土をしないことで利益を得る人は存在しない」ので、虚偽の答弁を行うメリットは無い。この答弁ミスは関係者の悪意によるものでは無く、情報の行き違いに過ぎない。」と主張しているわけですが、「情報の行き違いだから仕方ない」ではすまされないくらいの問題が起きているという話なんですから。
あとは、それにしても重すぎるじゃないかという議論は別途あり、「指針」にも諸般の事情や情状を総合的に勘案して決定するという趣旨の記載があります。これについては事実関係がわからないのでなんとも言えないところではありますが、一般的には上位者ほど処分が重くなりやすいという傾向はあり、今回の処分にも当てはまるように思われます。
なお宮寺氏は「OBを懲戒処分している」と憤っておられますが、都の発表をみると「退職後は地方公務員法が適用されないため、処分を行わない」と明記されておりますな。処分を行わないが、「減給相当額の自主返納を求めていく」ということです。これは「自主」返納ですから返納を強要されるものではなく、直接的に強要する手段もありません。ということで、「OBへの懲戒処分は違法」との宮寺氏の主張はそのとおりですが、それを理由に今回の都の対応を違法と主張するのは端的に失当だと思います。
ということでネタにマジレス感がひしひしと漂うわけではありますが、まあご要望もありましたので書いてみました。やれやれ。