自民党のマニフェスト

きのうに続いて、きょうは自民党マニフェストをみてみたいと思います。民主党が「政策10本柱 重点政策50」だったのに対し、自民党は「155の重点政策」となっており、かなり詳細、幅広で羅列的になっています。与党としての実績を訴える記述も多く、民主党に較べてボリュームも大きくなっています。
労働政策は、「再チャレンジと努力する人が報われる社会をつくるために」という節に集中的に出てきますので、その全文と、あと少子化対策のところにもいくつか出てきますので、その抜き書きをまず転載します。

〈再チャレンジと努力する人が報われる社会をつくるために〉
075. 「チャンスにあふれ、何度でもチャレンジが可能な社会」の構築
 様々な事情や困難を抱える人たちも含め、挑戦する意欲を持つ人が、就職や学習に積極的にチャレンジできるよう、「再チャレンジ支援総合プラン」を推進する。
076. 若者の雇用機会の確保
 就職氷河期に遭遇し、年長フリーターとなった若者の正社員化に向けて、キャリアコンサルティング機会の提供、求人ニーズが高い分野の職業訓練、トライアル雇用の活用、職業能力評価制度の整備等の対策を講じ、人手不足感の高まっている中小企業とのマッチングを進める。
077. 団塊世代を活用した「新現役チャレンジプラン」の創設
 中小企業の新事業展開を支援するため、団塊世代をはじめとするシニア人材(新現役)が有する技術・ノウハウ等が中小企業や地域で活用されるよう、「新現役チャレンジプラン(仮称)」を創設し、(1)大企業から中小企業へ、(2)大都市から地方へ、(3)海外から国内へ3つの潮流を作り出す。また、中小企業大学校等を活用し、地域の経営力の強化を図る。
078. 団塊世代の意欲や活力を活かし、その技能・技術を次世代に継承できる仕組みづくり
 大都市部で定年等を迎え、ふるさとで再就職を希望する方を支援するとともに、起業に挑戦する団塊の世代を資金面でサポートする。さらに、団塊の世代が活躍できる新たな職場の開発を進め、仕事を通じ意欲と能力を活かせるようにする。また、ものづくりの現場を支えてきた団塊の世代の熟練した技能・技術を、次世代を担う若者等に円滑に継承する取組みについて、行政機関、産業界、教育界など関係者一体となって進める。
079. 高齢者の活躍の場の一層の拡大
 高齢者が一層活躍できるよう、募集・採用に際しての年齢制限を禁止し、年齢にかかわりなく仕事に挑戦できる社会を目指す。特に「70歳まで働ける企業づくり」を目指す事業主をモデル事業で後押しする。また、高齢者が生きがいを持って働いていけるよう、シルバー人材センターの一層の活用や農林漁業への就業を支援する。
080. 障害者の就労支援の抜本的強化
 障害者が活き活きと働くことができる社会を目指し、企業や官公庁における障害者雇用に関する理解の促進や働く環境の整備、障害者向けの会社(特例子会社)の設立等を進める。また、就業面と生活面の一体的な支援を行う「障害者就業・生活支援センター」をすべての障害保健福祉圏域に設置するとともに、ハローワークを中心とした「チーム支援」の体制・機能を強化する。官公庁において、障害者が一般雇用に向けて経験を積む「チャレンジ雇用」を拡大する。こうした取組みを通じて障害者も健常者もともに働き、暮らす共生社会を形成するための支援ネットワークを構築する。
081. 働く人の公正な処遇に向けた取組みとパート労働者の待遇改善
□ 労働者派遣及び請負の不正に対する監督の強化、雇用対策法の改正による外国人の雇用状況に関するハローワークへの報告の義務化、研修・技能実習制度の適切な運用の徹底など働く人の労働条件の確保を図るとともに、改正パート労働法の着実な施行を通じ、均衡待遇の確保や正社員への転換を進める。
□ パート労働者をはじめとする勤労者の賃金を「底上げ」するため、39年ぶりに最低賃金法を改正し、適切な引上げを早急に実現する。あわせて、中小企業における賃金引上げや自営業者の活性化に向けた環境を整えるため、下請取引の適正化、生産性向上を支える人材の確保・育成等を強力に進める。
□ 働き方が多様化する中で、「一般雇用」と「パート雇用」・「有期契約雇用」・「派遣雇用」・「高齢者再雇用」等の雇用形態に適切に対応した政策を展開し、一人ひとりの働き方に応じた公正な処遇を実現する。その上で、個々の働き方の実態を正確に表す呼称が定着するよう進める。
082. 地域雇用対策の推進
 「地域雇用開発促進法」の改正により、雇用情勢が特に厳しい地域での雇用機会の創出を支援するとともに、地域自らが行う魅力的な雇用の場の創出のための取組みを支援するなど、地域雇用対策を積極的に推進する。
083. 中小企業金融の拡充・強化
 相対的にリスクが高い中小企業に対する金融支援の枠組みを強化する「流動資産担保保証制度」など無担保や無保証で融資を行う制度の強化、新たな挑戦を行う者の事業開始段階の返済負担を軽減する融資制度の推進、資金需要が発生した時に迅速な信用供与・資金提供を受けられる仕組等を実現する。また、「再チャレンジ支援融資」などを活用して、事業者を積極的に応援する。


067. 待機児童ゼロ作戦の推進と延長保育など多様な保育サービスの拡充
 「待機児童ゼロ作戦」を推進した結果、保育所の受け入れ児童数を平成16年度までに15.6万人増加させることができたが、引き続き、待機児童の解消に向けて取り組む。また、延長保育、休日保育、一時保育や家庭的保育(保育ママ)等の多様な需要に対応した保育サービスを拡充する。
068. 障害児、病児・病後児保育の拡充
 障害児保育や、病児・病後児の保育のニーズの高まりに対応するため、障害児の受け入れに当たっての職員の重点配置など地域の実状に応じた地方自治体の取組みや、個々の保育所における病児・病後児保育の実施など保健環境向上の取組みに対する支援を充実する。
069. 子育てと仕事の両立のための環境づくり
 先般の雇用保険法の改正により育児休業給付を休業前の賃金の4割から5割に引き上げるとともに、育児休業取得者等に対して企業独自の給付を行った事業主に対する助成制度を創設した。これに加えて、育児休業や子育て期の短時間勤務など子育てと仕事の両立を支援する制度を利用しやすい職場環境づくりや事業所内託児所への支援を推進する。
072. ワーク・ライフ・バランスのとれた生き方の実現
 働く人が子育てとの両立など仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)のとれた生き方を選択できるよう、長時間労働の是正やテレワークの推進など働き方の改革を進める。また、働く人の健康や生活にも影響を与えている深夜営業等のあり方についても検討する。
073. 女性の意欲・能力を活かせる環境づくり
 出産・育児期を通じてキャリアの継続に向けての支援を強化するとともに、子育てしながら再就職を希望する方からの相談に応じる「マザーズハローワーク」を全国展開する。また、母子家庭等の自立を促進するため、子育て・生活支援、就労支援、養育費の確保、経済的な支援等の総合的な母子家庭対策を推進する。

機種依存文字を別の表記に変更したところがあります)

まあ、実際に行われていたり検討されていたりする内容が多いので、比較的まっとうな、無難な内容も多いのですが、気になる点もちらほらと。
まず若年雇用については、民主党とそれほど大きくは違っておらず、まあこんなところかなという感じです。高齢者・団塊世代については、大企業から中小企業へ、大都市から地方へといってもそう簡単に行くかどうか。もちろん人によって能力や意識の個人差は大きいわけですが、前者はまだしも再訓練などである程度は対応できるとしても、後者は思った以上に困難なような気がします。もちろん、定年後を出身地をふくむ地方でと考えている人も多いでしょうが、どれほど多数かどうかというと、少なくともいろいろなアンケート調査などで出てくるほどにはいないのではないかと思います。また、高齢者の起業についても、高齢者は一般的にリスク負担力は低いはずなので、あまり安易に期待するのはいかがなものかと思います。障害者雇用の促進については、民主党の給付拡大(復活)、保護強化よりははるかに筋がいいと思います。個別にはいろいろと厳しい事情はあるでしょうが、やはりこの問題はノーマライゼーションの観点からも保護強化よりは就労支援、ワークフェアでいくべきではないかと思います。
次に、最賃法改正に意欲的なのはいいのですが、中小企業への配慮として「下請取引の適正化」というのはそれほど簡単ではないのでは。たしかに、中小企業団体などからは「買い叩き」という声も大きいのでしょうが、とはいえ無理に単価を上げさせようとしてもかえって輸入品に代替されてしまう危険性が高いことも否定できないでしょう。では保護主義でいくのかといえば、このマニフェストではWTOやFTA、EPAへの対応もうたわれていて、農業保護には非常に熱心ですが、工業製品については保護主義的な対応はとらない方針のようですが…。
それから、「雇用形態に適切に対応した政策を展開し、一人ひとりの働き方に応じた公正な処遇を実現する。その上で、個々の働き方の実態を正確に表す呼称が定着するよう進める。」については、結局のところなにをもって「公正な処遇」とするかが問題ですが、現状では処遇は労働市場の需給や団体交渉によって決まっているわけで、これ以上に「公正な」処遇があるのか、誰がどうやって決定し判断するのか、神ならぬ人間にはずいぶん荷が重い話ではないかと思うのですが…。それから、「個々の働き方の実態を正確に表す呼称が定着するよう進める。」というのはなかなか面白い。まあ、マニフェストに入れるような話なのかという気はしますが、たしかにフルタイム働いている人がパートと呼ばれるのはおかしいですし、正社員というとそれ以外は不正を働いているようだという批判もあるようですし、まあ比較的カネをかけずに票になるかもしれない取り組みということでしょうか。
少子化対策のほうはというと、待機児童ゼロ作戦を自画自賛しているのはいかにも物足りません。潜在的な待機児童は顕在化しているそれよりはるかに多い、おそらくは10倍とか20倍とかいうオーダーで存在しているでしょうから、ここの部分を抜本的に強化する必要があるように思います。いっぽう、フルタイム就労でキャリア継続する女性が増えている(また、増やしていくべき)状況において、病児保育への取り組みを示したのは好ましいと思います。やり方についてはいろいろあるでしょうが、こうしたニーズを持つ人は支払能力も高い傾向があると推測できますので、利用者にもそれなりの負担を求めればいいのだと思います。ワーク・ライフ・バランスに関連して「深夜営業等のあり方」の検討を織り込んだのも注目されるところです。
まあ、いずれにしてもすでに成立した、あるいはこれから成立させようとしている法改正の内容が中心で、しかもそれほど踏み込んだ具体的記述がされているわけでもなく、お説ゴモットモという範囲の記述にとどまっているところが多いので、労働政策に関してはひととおりは無難な印象です。