拡大する正社員登用

今朝の日経新聞に、非正規雇用の正社員登用が拡大しているという記事が掲載されていました。

 企業が派遣やパートなどの「非正規雇用」社員を長期的な戦力に取り込み始めた。流通業界などを中心にパート社員を正社員に登用する動きが拡大。パート社員を継続確保するために賃金などの待遇を引き上げる動きも目立つ。景気回復などを背景に人手不足感が強まる中、優秀なパート社員を囲い込み、競争力を高める狙い。こうした流れが加速すれば、雇用者の賃金格差も縮小していく可能性がある。…
 総務省労働力調査によると、派遣・パートから正社員に転職した女性は2005年に約16%増の22万人と、正社員から派遣・パートへの転職(21万人)を02年の調査開始以来初めて上回った。…
 こうした流れを支えるのが企業によるパート社員などの正社員化の動き。NTT西日本はコールセンターなどで働く約25,000人(グループ含む)のパート社員のうち、約6,000人を正社員にする方針を打ち出した。西日本旅客鉄道JR西日本)は3年以上勤務した32歳以下の契約社員を対象に、正社員への登用を認める制度を06年度から導入、第一弾として5月1日に数人を選ぶ。
 西友は5人のパート社員を正社員に初めて登用し、16日から文具などの売り場責任者として都内の店舗などに配置する。りそなグループのりそな銀行埼玉りそな銀行はパート社員を正社員にする制度を昨年導入、これまで約90人を正社員にした。
 バブル崩壊後、過剰雇用の解消を迫られた日本企業は正社員雇用を縮小、景気変動に合わせて調節しやすいパートなどの活用を増やしてきた。しかし、ここへきての景気回復や団塊の世代の大量退職を控えて人手不足感が強まり、労働力の安定確保が大きな課題に浮上。長期的な人材育成のうえでもこれ以上の雇用流動化には限界があるとの見方が強まってきた。
(平成18年4月5日付日本経済新聞朝刊から)

 全国で千数百万人の非正規雇用に較べると個別の数字は小さいものですが、こうした動きが広がれば非正規比率の拡大は止まるのではないでしょうか。一部人材ビジネス業者などはいまだに「将来は非正規雇用が8割、9割になる」といった予測を流しているようですが、さすがにそんなことはなさそうです。


この記事は非常に正しく指摘していますが、非正規雇用が増加したのは基本的に「日本企業は正社員雇用を縮小、景気変動に合わせて調節しやすいパートなどの活用を増やしてきた」のであり、世間でよく言われるように「コストダウン」が主目的ではありません(まあ、「調節しやすい」ことも結局はコストダウンにつながるわけではありますが、これはこれに限ったことではありませんが…)。もちろん、現実には長期にわたる経済不振、業績低迷の中で、直接的なコストダウンを目的に、本来の目的である調節機能の必要を超えて非正規雇用を増やした実態があることも事実ですが、それは経済が回復すればおのずと調整されるわけで、記事にあるような正社員登用もその調整過程の一つと見ることができるかもしれません。
記事にもあるように、「長期的な人材育成のうえでもこれ以上の雇用流動化には限界がある」のであり、企業が長期的な企業内人材育成で育てた人材を競争力の源泉とするという人材戦略を継続する以上、非典型雇用が8割にもなることは考えられないと思います。
また、労働市場の需給が逼迫してきて、非正規雇用の採用条件が上がってくれば、正規雇用で採用したほうが企業にとっても有利、という場面も出てくるでしょう。
正規雇用で登用・採用した以上は、長期的な人材育成をはかっていく必要があることは云うまでもなく、これからは、日本企業が長期にわたった経済不振の間に人材育成力をどれだけ維持できていたかが問われる場面かもしれません。