格差をめぐるデータと意識

日曜日(5日)の朝日新聞に、「格差」についての独自世論調査の結果が掲載されていました。小泉首相も最近たびたび発言しているように、データからはとりたてて問題視しなければならないような所得格差の拡大があるとはいえないわけですが、どうも多くの人の生活実感に合わないという指摘も強く、そのあたりの事情がうかがわれる結果になっています。

 「格差社会」をめぐっては、小泉改革との関連で国会でも論争が続いている。「所得の格差が広がってきていると思うか」との問いに「広がってきている」と答えた人は74%、「そうは思わない」が18%だった。拡大しているとみる74%の人に「広がっていることをどう思うか」と聞いたところ、69%が「問題がある」と答えた。この結果、全体の51%の人が「所得格差が広がってきており、問題がある」と認識していることが明らかになった。
 格差が広がっているとみる人は男性が77%で、女性の71%を上回った。40、50代の男性が共に83%で最多。世帯収入に満足していない人ほど格差拡大を強く感じている。
 格差の拡大が問題だとする人では、格差が「個人の能力や努力以外で決まる面が多い」とみる人が54%だった。一方、格差拡大は問題ないとする人では、「個人の能力や努力で決まる」とみる人が72%と多かった。
 お金に関して自分が「勝ち組」だという意識を持つ人は3%、「負け組」が21%で、72%の人は「どちらでもない」と答えた。こうした二分法に「抵抗を感じる」と答えた人が58%で、「感じない」は35%だった。
 「競争」について「社会の活力を高めると思うか」と聞いたところ、59%の人が「高める」と答えた。「いまの日本は、一度おくれをとると、挽回できない社会だと思うか」との問いには「そうは思わない」が60%だった。
(平成18年2月5日付朝日新聞朝刊から)

朝日の調査ですからそれなりの(笑)バイアスがあるとみるべきでしょうから、それも考え合わせるとますます興味深い結果です。


格差をめぐるデータと実感の不一致は、まずは定説となっているように「高齢化にともなう部分が実感されている」ということが当然あるでしょう。

 格差が広がっているとみる人は男性が77%で、女性の71%を上回った。40、50代の男性が共に83%で最多。世帯収入に満足していない人ほど格差拡大を強く感じている。

これはまさにその反映で、高齢層ほど「勝負がついて」格差が大きくなっている、高齢化でその比率が高まっていることが見かけ上の格差拡大を招いている、という理屈によく合っているように思います。
また、格差をめぐるデータと実感の不一致については、「これまでもあった格差が可視的になったことで意識されるようになったのではないか」という有力な意見があり、私もこれにかなり同意見です。これまでだって投機で大儲けする人もいれば山間部の土木工事現場の「タコ部屋」で働いている人もいたわけですが、前者は多くの場合口をとざして黙っていましたし、後者はそれこそ山間部や山谷、釜ヶ崎などの「目につきにくい」ところに暮らしていたわけです。ところが、最近の世間の風潮の変化で、それこそホリエモンのような「若くして一山当てた大金持ち」(ホリエモンが厳密にそうかは知りませんが)が堂々と?金持ちぶりを自己主張するようになり、いっぽうで公共事業が減少するなどして「タコ部屋」に暮らせなくなった人たちがホームレスとしてビジブルになってきたことで、もともと存在した「格差」が強く意識されるようになったのではないか、と思うわけです。それに加えて、長期の経済低迷や、少子高齢化にともなう不可避的な社会保障の切り下げなどがあいまって、多くの人たちが自分自身の問題として生活不安を強く感じるようになったことが、「格差が拡大」「格差は問題」という意識を高めているのではないでしょうか。
そういう意味では、佐藤俊樹氏などが繰り返し指摘してきた

 格差の拡大が問題だとする人では、格差が「個人の能力や努力以外で決まる面が多い」とみる人が54%だった。一方、格差拡大は問題ないとする人では、「個人の能力や努力で決まる」とみる人が72%と多かった。

こういう意識も、佐藤氏などは階層化との関連で論じることが多いわけですが、案外「がんばってこつこつ働いても、勤務先の倒産などで生活難に陥る危険性がある」一方で「幸運にも一山あてた人はたいした苦労もせずに安楽に暮らせる」のは理不尽だ、という感情をむしろ反映しているのかもしれません(まあ、親が金持ちの人のほうが生活難の危険は低く、一山あてる機会は多いという関係はあるでしょうが)。
格差拡大と「意識」の関係は、ここにも見てとれます。

 お金に関して自分が「勝ち組」だという意識を持つ人は3%、「負け組」が21%で、72%の人は「どちらでもない」と答えた。こうした二分法に「抵抗を感じる」と答えた人が58%で、「感じない」は35%だった。

格差は拡大している、と感じつつも、自分自身は「勝ち組」でも「負け組」でもないと思っている人が大半だ、ということは、少なくとも今現在は自分自身の問題としては格差拡大をそれほど意識していない、ということでしょう。であれば、「二分法」に抵抗を感じる(というのがどういう意味なのかがよくわからないのですが、違和感を覚えるというくらいの意味であれば)人が多いのも当然のことです。むしろ「感じない」が35%もいるというのが意外ですが、これも「将来はそういう二分化した社会になるだろう」という不安感の反映なのかもしれません。
いずれにしても、このところ政治的に話題になっている「構造改革と格差拡大」の問題に関していえば、

 「競争」について「社会の活力を高めると思うか」と聞いたところ、59%の人が「高める」と答えた。「いまの日本は、一度おくれをとると、挽回できない社会だと思うか」との問いには「そうは思わない」が60%だった。

ここのところが大切なわけで、朝日の調査にしては予想外に?競争に対して前向きですし、キャッチアップの可能性についても肯定的な意識です。実態が本当にそうかどうかにはいろいろな意見がある(現政権に批判的な人は「国民は本当のことがわかっていない」と主張することが多いようですし)でしょうが、いずれにしても活力につながる競争、階層が固定化せずに移動のチャンスのある社会というのは引き続き重要な観点なのだろうと思います。