さらに、あれこれ

一昨日のエントリの関連なんですが、hamachan先生のブログを見ていてそういえばはてぶというものもあったなあと思い出しました。いやまったく忘れていたというわけではなくて、実は見方がよくわからなくなってなんとなく見ることもなくなっていたわけなんですが。hamachan先生のブログにはてぶへのリンクがあったのでそこをたどってしばらくぶりに見てみました。
で、いろんな人がいろんな感想を持っているのだなあと興味深かったわけですが、特に目を引いたのが体育会の不人気ぶり、というか一部の人の拒絶反応がものすごいというか。

ジェイプロジェクト

にもかかわらず体育会ネタで申し訳ありません、いやしかし案外これなら体育会嫌いの方にもそれほど抵抗ないかもなどとろくでもない考えも持ったりしてしまうのではありますが、一昨日の日経朝刊から。

 居酒屋「芋蔵」など飲食店を運営するジェイプロジェクトは、新卒採用の内定者を社内イベントに参加させ、仕事を疑似体験させる研修プログラムを始める。会社の事業内容を学び、社風になじんでもらう。…
…新人の大半は入社後、店舗に配属されるため、メニューの決定や食材の調達方法などについて先輩社員からアドバイスを受け、仕事に必要なスキルを身につける。
 09年4月に入社した同社の新入社員は53人。10年4月には60人の採用を目標にしている。
(平成21年11月2日付日本経済新聞朝刊から)

これのどこが体育会ネタなんだ、と思われるでしょうが、実は09年の新入社員53人中少なくとも23人は体育会なんですね。ジェイプロジェクトは今年硬式野球部を発足させ、選手23人はすべて新入社員、しかも20人は大学新卒者なのです。
http://www.jproject-bbc.jp/
このサイトには選手の職場も記載されていますが、端的に言ってしまえば居酒屋の兄ちゃんやりながら社会人野球を続けているということで、野球部をつくったのも人材確保のためということでしょう。ちなみになかなか強く、今年の日本選手権東海地区予選で本格参戦して以来、歴史のある企業チームを相手に一泡も二泡も吹かせています。
社会人野球チームはだいたい1チーム30人前後、平均5〜6年プレーするとして年5〜6人の採用ということになります。失礼ながらジェイプロジェクトも人材確保に苦心のない企業ということでもないでしょうから、野球を続けられるから入社してください、そして引退後はしっかり現場を支えてね、ということで損のない投資なのかもしれません。

失業者雇い森林整備を

続けて一昨日の日経朝刊からのネタをいくつか。連載インタビュー記事「領空侵犯」今回はさわかみ投信の沢上篤人氏が登場して雇用問題を語っておられます。

「特に若年層の失業は対応が急務です。そこで間伐や植林などの森林整備に取り組む『国土保全隊』とでもいうべき組織をつくり、職のない若者を雇ったらどうでしょうか。…」

−−−今の若い人が山林での厳しい作業に興味を持つでしょうか。
「力仕事で大変でしょうが、1人あたり400万円くらいの年収を約束して、若者を募るのです。…」
(平成21年11月2日付日本経済新聞朝刊から)

この手の陳腐な議論は相変わらず多いですねぇ。
沢上氏も聞き手も根本的なところでずれているな、と思うのですが、こと若年層に対しては「厳しい作業」「400万円」という目先の帳尻ではなく、もっと足の長いキャリアを考える必要があるのではないでしょうか。森林保全の仕事がそれなりにキャリアの奥行きがあって、腕前を上げれば付加価値が高まり、労働条件も向上するといった仕事であるならば(実際にそうかどうかは私は知らないのですが)、あるいはその経験が転職市場で高く評価されて有利だ、というのであれば、厳しい作業、かつ足元は400万円以下の年収でも、意欲を持って取り組む若年はいるかもしれません。まあ、現実問題としてはそれで結婚できるか、とかいったさまざまな条件が関係してくるので、森林整備も人生キャリアを考える上で魅力的な仕事にするというのはそれほど簡単ではないのでしょうが…。
400万円で森林整備、という発想は、むしろ職業キャリアも後半に入り、先々のことよりは当面の生計費を稼得することを重視するような中高年に対してのほうが有効ではないかと思います。しかし、本当にやろうということになると、若年層の失業対策、という名目がないと予算は組みにくいかも知れませんね…。

雇用 今後の見通しは

もうひとつ一昨日の日経新聞のインタビュー記事から。「月曜経済観測」のコーナーに王子製紙会長・経団連雇用委員長の鈴木正一郎氏が登場しておられます。

−−−完全失業率は今後どう推移するでしょう。
「経営者は設備投資をして雇用を増やしていこう、という気にまだなっていないと思う。失業率はしばらく高い水準が続き、場合によっては6%に届くかもしれない」
−−−雇用調整が正社員に広がるという見方も出ています。
「経営者は投資に慎重な一方で、景気が回復したときに勢いよく飛び出せるよう、準備しておきたいという気持ちもある。正社員の雇用はできるだけ守りたいと考えているはずだ」
バブル崩壊後、日本の企業は全体で400万人もの過剰雇用を抱えたといわれたが、採用の抑制で10年がかりでなだらかに調整した。米国などに比べ、経営者は雇用を守ることへの意識が強い。企業を正社員の雇用調整に踏み込ませないことが、政府の経済運営の重要な課題だ」
(平成21年11月2日付日本経済新聞朝刊から)

うーん、これはなかなか率直な発言ではありますが、しかしその「採用の抑制で10年がかりでなだらかに調整した」ことに対しては大いに言いたいことがある人たちも多数いるだろうと思うんですけどね。
ただ、結局既存の正社員の雇用を守る理由は「景気が回復したときに勢いよく飛び出せるよう、準備しておきたい」という、いたって実利重視のものだということもはっきり言っているわけです。なにも既得権を守るとか、文化とか伝統とか(笑)いったものではない、基本的に技術・技能・能力の問題だということも明言されているわけです(まあ、賃金水準との関係はありますが、これは賞与の減額とか「成果主義」とかでそれなりに対応できるわけで)。
そうなると、結局は経済の回復がもっと速く、「10年がかりで」なんて長期間かけずに済めば「ロスト・ジェネレーション」の問題も大きくはならなかっただろう、という部分が重要になってくるわけで、やはり経済の活性化が最大の雇用対策ということになります。つまり「企業を正社員の雇用調整に踏み込ませないこと」というのは、そうならないように経済運営をしっかりやるべきだ、という意味であって、現状以上にさらに正社員の雇用調整を強く規制すべきだという意味ではなかろうと思われます。

賃金より雇用

ということでこうなるわけです。これはきのうの日経朝刊から。

 主要国の中で日本の賃金下落が際立っている。厚生労働省が2日発表した毎月勤労統計調査(速報)によると、従業員1人あたりの現金給与総額は9月まで16カ月連続で減少した。これに対し、米国や英国、ドイツでは賃金の上昇傾向が続く。日本企業は人員の削減を抑える代わりに、給与や賞与の削減で景気悪化に対応してきた。賃下げよりも人員整理に動きやすい米欧企業との違いが鮮明になっている。

 日本の現金給与総額は昨年6月から下落に転じた。…今年6月には7.0%減少し、過去最大の落ち込みを記録した。7月以降は減少幅が縮小したが、9月も1.6%減っている。
 一方、米国の時給は金融危機後も2.3から4.3%のペースで増えてきた。労働時間をかけて従業員1人あたりの賃金を試算すると、9月は0.2%増になる。今年6月を除けば、上昇傾向を維持している形だ。
 英国とドイツの賃金は8月時点でそれぞれ1.3%増、0.8%増。…
 背景にあるのは、雇用慣行の違いだ。日本の労使は…賃金より雇用の維持を優先させる方針で一致。…
 これに対し「米国には雇用調整に踏み切りやすい法制度があり、賃下げよりも人員削減で景気悪化に対応するケースが多い。程度の差はあるが、欧州も同じような傾向がある」(リクルートワークス研究所大久保幸夫所長)…

みずほ総合研究所の中島厚志氏は「賃下げで消費低迷が長引き、企業収益が悪化して賃金がさらに減るとぴう悪循環に陥りかねない」と分析している。
(平成21年11月3日付日本経済新聞朝刊)

この手の話はどうしても「人員削減のしやすさ」ばかりに目が行ってしまいがちなのですが、実は「賃金の下げやすさ」も重要なポイントではないかと思われます。「日本の現金給与総額は…今年6月には7.0%減少し、過去最大の落ち込みを記録した」ということですが、これは賞与が大幅減額となったことが最大の要因だろうと思います。日本ではいわゆる正社員のほとんどにかなり高額の賞与が支払われており、しかもそれは利益配分的な性格を持つということも広く認識されていますから、企業業績が悪化した際にかなりの幅で賞与を減額することが可能です。それだけ賃金には柔軟性があるわけで、ウェイジ・ワーカーには賞与があまり支払われない米欧とは「賃金の下げやすさ」は格段に違うと申せましょう。逆に言えば、日本の場合は業績が上がれば賞与を元に戻すことも比較的容易ですが、米欧では賃金をいったん下げてしまうとまた上げるのも容易ではないという事情もあるかもしれません。
結局のところ、要はやりやすい方法で雇用調整しているという単純な見方もできないわけではありません。実際、米国のように人員整理が容易であれば、わざわざ労使で交渉し、さらに労組は組織内の意思決定をはかるといったテマヒマをかける気には労使ともにならないでしょう。
よしあしの評価は難しいところで、人員整理が容易にできれば人員スリム化・人件費抑制も比較的迅速にでき、業績の回復が速いかもしれませんし、いっぽうで賃金で調整して人員を確保しておけば、王子製紙の鈴木氏のいうように「景気が回復したときに勢いよく飛び出せる」ということが期待できるでしょう。
なお、みずほ総研の中島氏は賃下げによる消費低迷を心配しておられますが、それ自体はもっともとしても、人員削減との比較という意味では、賃下げも失業増も同じようなものではないでしょうか。現に失業が増えていて、自分自身の失業リスクの高まりを感じざるを得ない状況では、賃金が減少していなくても消費は低迷するような気がします。マクロでみても、失業者には失業給付が支払われますが、日本の場合は雇用調整助成金が支払われるので、政府の支出も同等程度にはあると考えてよいのではないでしょうか。雇用調整の手法によって消費はじめマクロ経済への影響の違いはあるでしょうが、賃下げと人員削減のどちらがいいのかは国にもよるでしょうし、一概にはいえないような気はします。

フォードの労働条件見直し要求、労組が否決 反対7割に

米国はというと、やはり賃下げは難しいようです。これもきのうの日経新聞から。

【ニューヨーク=小高航】全米自動車労組(UAW)は2日、労働条件の見直しを求めていたフォード・モーターの要求を、組合員による投票で否決したと正式に発表した。フォードは「競争力を高めるための方策をUAWと協議する」としているが、米ゼネラル・モーターズ(GM)やクライスラーに比べ生産コストが高止まりする可能性がある。
 UAWは投票で7割超が反対したことを明らかにした。フォード側は新規従業員の賃金抑制や、賃金交渉を巡るストライキ権の凍結などを求めていたが、フォードの業績が改善しつつあることから、多くの組合員が譲歩に反発したとみられる。フォードの要求内容は、GMやクライスラーの組合ではすでに承認されている。
(平成21年11月2日付日本経済新聞朝刊から)

米国は職務給だ、同一労働同一賃金だ、という人もいるわけですが、現実にはけっこうローカルで異なってくるという一例でもあるのでしょうか。今回は業績が悪くないのに労働条件を切り下げられるのはかなわん、という労組の主張ですが、経営側としてもやはり業績によってそれなりに賃金水準が違ってこなければ経営できないということもあるはずですし。