八代尚宏『働き方改革の経済学』

八代尚宏先生から、最近著『働き方改革の経済学−少子高齢化社会の人事管理』をご恵投いただきました。ありがとうございます。

働き方改革の経済学

働き方改革の経済学

わが国の労働市場や人事管理の実情を正しくふまえ、「働き方改革」の課題とされているものの基本はわが国の「正規労働問題」であること、そしてそれを相当程度温存したままでの「働き方改革」には限界があることを経済学的な考え方のもとに的確に論じ、さらに求められる改革の方向性を提示した本です。
例によって時折極論に振れる部分もあり、ついていけない議論や余計なお世話という感想もあるのですが(しかし最近の何冊かに較べると少ない)、それも含めて八代先生らしい好著といえるのではないでしょうか。
個人的には、結局のところことの大半は終章「人事制度改革の方向」にある「専門職のままで結構」という社員を増やす、ということに尽きるようには感じました。とはいえもちろんこれは本書も説くとおりそれほど高くない賃金、相対的に弱い雇用保障とセットであり、はたして企業の人事管理だけでそちらに誘導できるのかと言うと、なかなか難しいようにも思うわけです。多くの人が「管理職になりたい、高い賃金と強い雇用保障がほしい」と望む中では、実現可能性は軽視して従来型の雇用を提示する企業が採用上有利になることは目に見えているわけで、となると政策的な介入も必要かもしれません。一方で、本書でも論じられている5年無期転換や同一労働同一賃金といった動きは案外それを誘導する効果もあるのかもしれないとも感じたところで、このあたりはまだまだ議論が必要なのでしょう。