勤務時間インターバル制度に助成金

一億総活躍社会に向けた施策のひとつとして、厚生労働省長時間労働の抑制につなげるべく勤務時間インターバル制度を導入した企業に助成金を支給する方針とのことです。5月4日の日経新聞から。

 厚生労働省は従業員がオフィスを退社してから翌日に出社するまで一定時間を空ける制度を導入した企業に助成金を出す方針だ。就業規則への明記を条件に、早ければ2017年度から最大100万円を支給する。深夜残業や早朝出勤を減らすことで、長時間労働の解消につなげる。
 退社から翌日の出社まで一定時間の間隔をとる仕組みは「勤務間インターバル制度」と呼ばれる。欧州連合EU)は1993年に法律を制定し、この制度を導入した。EU加盟国の企業に対して労働者の休息時間として退社から出社まで11時間を確保したうえで、4カ月平均で1週間に48時間以上は働かせてはならないと義務づけている。
 政府が5月にまとめるニッポン一億総活躍プランに、この制度の普及を目指すと盛り込む。厚労省は現段階で義務化を考えておらず、助成金で導入を促す。
 支給先は中小企業を想定しているが、対象を広げる可能性もある。間隔を何時間空ければ助成金を出すかは今後詰める。
 具体的には長時間労働の削減や有給休暇の取得促進に取り組む中小企業を対象とする「職場意識改善助成金」に、勤務間インターバル制度の導入も対象に加える。制度導入に必要な労務管理用のソフトウエアの購入費、生産性を高めるための設備や機器の導入費用などを支援する。
 職場意識改善助成金は数十万円から100万円で、これを参考にする。企業側に目標の数値を盛り込んだ計画を提出させたうえで、達成度合いに応じて金額に差をつける予定だ。
 勤務間インターバルは大手企業の一部が自主的に導入している。KDDIは退社から出社まで8時間空けることを就業規則に明記。15年の7月から実施している。努力目標として11時間の休息時間も規定している。JTBグループのJTB首都圏も15年4月、9時間の間隔を空ける制度を導入した。
 厚労省は企業が退社から出社までどれくらい間隔を取っているか実態調査にも乗り出す。現状ではそうした統計がないためだ。
 長時間労働の解消は安倍政権が掲げる一億総活躍社会の重要テーマの一つだ。達成に向けては、労働基準監督署が立ち入り調査する目安を残業が月100時間から80時間に引き下げるなど、対策を打ち出している。
平成28年5月4日付日本経済新聞から)

勤務間インターバル規制については以前からも書いていますが決して全否定するわけではなく、むしろ対象者によっては積極的に導入を進めるべきものだろうと思います。実際、すでにトラック・バス・タクシー運転手については事実上8時間のインターバル規制があるわけですし、交替制勤務など休息確保に配慮の必要な変則的な勤務についてもおおいに導入を検討すべきだろうと思っています。記事であげられているKDDIについても、やはり保守点検やトラブル対応などで変則的な勤務が多くなることは容易に想像されるわけで、そうした職場でインターバル規制を導入をはかるのはまことに理にかなった話だと思います。
逆に言えば必要のない仕事・職場にまで規制をかけてしまうと単に柔軟性を欠くことになって労使ともに得をしない話でもあるわけで、たとえばホワイトカラーの中でも業務の時間配分やペース配分などの自由度の高い人たちや、新商品・新技術の開発に取り組むエンジニアといった人たちにとっては、こうした規制は余計なお世話であるばかりではなく、往々にして創造的な成果の達成を阻害するものに映るのではないかと思います。要するに適切な範囲で適切な内容の規制を講じるという考え方が重要でしょう。

  • そういう意味でKDDIのインターバル規制の対象者がどのような範囲になっているのかが興味深いのですが、少し調べた限りでははっきりしませんでした。報道などを見るかぎりでは管理職を含む全社員について「インターバル11時間が確保できなかった日が月間11日以上に上った人については産業医の面談指導等実施」というのに加えて、「就業規則に定めた組合員について1回8時間のインターバル」という制度になっているようなのですが、この「就業規則に定めた組合員」の範囲がわかりません。ただ、情報労連のサイトにある「働く人たちのための情報労連リポート」というコーナーでKDDIのこの取り組みが紹介されている記事(http://ictj-report.joho.or.jp/1603/sp06.html)を見ると「会社側は、制度の適用対象者の少なさを理由に、懐疑的な意見を示した」(強調引用者)と記載されていますので、相当の少数にとどまっているものと推測されます。報道の中には対象者数を1万人とするものが散見されるのですが、連結従業員数が3万人に満たないKDDIで1万人といえば「適用対象者の少なさ」が問題になる規模ではなく、これは誤報である可能性が高いように思われます。このあたり情報がありましたらご教示いただければ幸甚です。

そう考えるとやはり現場の実情をよく知る個別労使や産別労使による自主的な取り組みを先行させることが望ましく、KDDIや(記事にはありませんが)通建連合、情報労連、さらに先行した三菱重工などの取り組みも多とすべきものだと思います。
ということで今回も行政が「現段階で義務化を考えておらず、助成金で導入を促す」こととしているのは適切だろうと思います。ただここでも同様に適切な範囲で適切な助成というのが難しいだろうと思うところもあり、たとえば「一定時間の間隔」の「一定時間」がどの程度かという問題があり記事でも「今後詰める」となってるわけですが、これがたとえば三菱重工並の7時間でよいとするのであれば、現状のままで支障のない企業もかなり多いものと思われ、単に就業規則にその旨記載すれば助成の対象となることになります。記事によれば現行の職場意識改善助成金制度の中に勤務時間インターバルを加えるということですが、この助成金の予算規模は平成27年度で約14億円なので平均50万円を助成するとしても2,800件分しかありません。まあ対象は中小企業限定でさらに達成度合いで支給額を傾斜配分するということですから間に合うのかもしれませんが、しかしわが国中小企業は一声400万社といわれているわけですから大丈夫なのかと思わなくもない。「早ければ2017年度から」ということなのであるいは予算の増額を視野に入れているのかもしれませんが。いっぽうでたとえば最低11時間で例外は認めないとかあまりハードルを上げると数十万円の助成金があるからといってそんな面倒なことはやる気にならないという話にもなりかねないわけで、まあ「今後詰める」制度詳細のさじ加減が難しい話だろうなあとは思うところです。限られた予算の中で必要なところに必要な助成ということを考えると、やはり交替制勤務を採用している企業とか、ターゲットを絞った方がいいような気がするのですが、実際には難しいのかなあ。