セーフティネット(3)

「キャリアデザインマガジン」第100号に掲載したエッセイを転載します。


 2008年、サブプライム問題や原油価格の高騰などを受けて日本経済の原則が鮮明となった。9月にはリーマン・ショックもあり、雇用失業情勢も急速に悪化した。年初に3%台だった完全失業率は年末には5%台半ばに達し、1倍近かった有効求人倍率も0.7倍に急落した。
 これを受けて、当時の自公連立政権は8月に「安心実現のための緊急総合対策」、10月には「生活対策」、さらに12月には「生活防衛のための緊急対策」、そして翌2009年4月には「経済危機対策」と矢継ぎ早に4次にわたる総合経済対策を打ち出したが、雇用対策、さらには雇用のセーフティネットは、はその重要な項目として注目された。
 「安心実現のための緊急総合対策」で注目されるのは、訓練期間中の生活保障給付制度の導入だろう。これは、失業給付が終了してなお再就職できない、あるいはそもそも失業給付が受けられない失業者が、生活保護の対象とならなければ収入が途絶してしまうという問題に対応するものだ。また、収入を確保するために低技能・低賃金の仕事を掛け持ちし、求職活動や職業訓練にあてる時間が確保できないという問題にも対応している。これは、失業者に対する第一のセーフティネットである雇用保険に続くものという意味で「第二セーフティネット」と称された。当初、「安心実現のための緊急総合対策」には直接的な言及はなく、そこでうたわれた「ジョブ・カード制度の整備・充実」の一環として技能者育成資金制度を拡充するという変則的な方法で導入されたが、その後政権交代の前後を通じて拡充がはかられ、現在ではこれを「求職者支援制度」として恒久化することが検討されている。
 続く「生活対策」では「雇用のセーフティネット強化対策」が一項目として掲げられた。その記述をみると「景気後退による雇用の影響が最も出やすい非正規労働者、中小企業や地方企業を中心にセーフティネットを強化し、60万人分の雇用下支え強化を行う」とされており、具体的には年長フリーター等(25〜39歳)を正社員雇用する事業者に対する特別奨励金の創設や「非正規労働者就労支援センター」の増設、ジョブ・カード制度の拡充(ここでは雇用型訓練に対する助成の拡充とあわせて「訓練期間中の生活保障給付の返還免除対象者の拡大」も明記されている)などが実施に移された。さらに、雇用調整助成金の要件緩和・助成率引上げや、中小企業を対象に雇用維持をさらに手厚く支援する中小企業緊急雇用安定助成金の拡充も掲げられた。さらには、「ふるさと雇用再生特別交付金」の創設とそれを活用した雇用機会の創出といったものも含まれている。
 しかし、リーマン・ショック後の雇用調整は従来になく急速なものとなり、雇用失業情勢も一段の悪化が余儀なかった。雇用不安が拡大し、年末の「生活防衛のための緊急対策」では雇用対策を具体的施策の最初に掲げるに至ることとなる。