振り上げたこぶしは上手に下ろしましょう。

振り上げたからって絶対殴らなくちゃいけないってわけでもねえんだからな。いや同一労働同一賃金の話なんですが。
というのも、きのう例の「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」の議事録が厚生労働省のサイトにアップされているのを発見して、まあいろいろと大変だなあと思ったわけです。
まず、初回ということで塩崎厚労相、加藤一億相も出席されて最初にあいさつされたわけですが、塩崎大臣の発言の中にこんな一節を発見して驚きました。

 全ての方々に働く意欲と、そして能力をそれぞれに発揮をしていただく。それによって我が国全体の活力や、あるいは生産性を高めて成長を実現し、経済社会の発展を促していく中で、アベノミクスの成果を国民の皆様方のものとしていただくということが、視点として重要なのではないかと思っております。安倍内閣として働き方改革の大きな柱の一つでございます、この同一労働同一賃金。この導入に本腰を入れて取り組んで、非正規雇用で働く方の待遇を改善してまいりたいと思っております。
 そのためには、一人一人の職務能力を公正に、客観的に評価するということが極めて大事な、重要な考え方であると思っております。このため、お手元の開催要綱にございますとおり、2月23日の一億総活躍国民会議における総理指示に基づいて、本日、この検討会をスタートさせていただくことになりました。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000120638.html、以下同じ

うんこれは職能給だな。大臣の発言ですから内閣の方針と考えていいでしょうが、そこでここまで明確に「この同一労働同一賃金。この導入に本腰を入れて…そのためには、一人一人の職務能力を公正に、客観的に評価するということが極めて大事な、重要な考え方」と述べたということは、要するに大陸欧州型の職務給を導入する気なんか全然ないということでしょう。
とはいえそれがいいかとかマシかとかいうと必ずしもそうでもなく、普通に読めばこれは非正規雇用労働者についても「一人ひとりの職務能力を公正に、客観的に評価する」ことが重要だということでしょうから、非正規にも職能給を導入せよということを言っているわけです。現状では基本的に非正規は市場価格の職務給であることが大半ですから(流通大手のように職能給的な管理を取り入れている先進例もありますが)、これはこれでかなり抜本的な変化ということになります。
ただまあここで大臣に「一人ひとりの職務能力を公正に、客観的に評価」とか言われるのもなにをいまさらという話ではあり、言うまでもなく従業員一人ひとりの能力をいかに正確に把握してそれに見合った公正な処遇をしていくかというのは、企業の成長発見に不可欠な課題として各企業労使が長年にわたって真剣に取り組んできたことであり、もちろんおよそ完璧なものにはなっていない、むしろ外から見れば(内から見てもだが)矛盾や不合理はあるものの、とはいえ現時点では(もちろん全員が満足するなんてことはあり得ないわけですが)これがお互いいちばん納得いくよねえというものにはなっているわけです。むしろ、現状では能力の高い人が多すぎて、その能力が十分に発揮できるような(そして望むべくは現有の能力より少しストレッチしていて能力向上が期待できるような)仕事に配置しきれないという悩みを抱える企業も多いのではないかと思います。
もっともこれが正規に限られた話だろうと言われればそれはそのとおりという部分もあるわけですが、とはいえ非正規についても職務給で市場価格というのもそれなりに合理的な考え方ではあるでしょう。もちろん市場が失敗して賃金が低きに失してしまうリスクは常にあるわけですが、そこは最低賃金などでカバーしているわけですし。つまるところ正規の職能給というのは長期雇用慣行、長期的な動機づけと一体不可分のものであって、逆にいえば長期雇用慣行のもとで長期的に動機づけされているような短時間労働者については短時間であることを理由とした差別的取扱いがすでに禁止されているわけです。実際、上でもあげた流通大手のように、非正規であっても能力評価して意欲を高めたいという企業はそれに応じたしかるべき人事管理をしているわけですね。
ということで話が想定からいきなり逆転していて驚きましたが、まあ非正規に職能給といってもなかなか難しかろうとは思います。ただ、実態としてわが国の非正規の最大の問題点はキャリアと能力の形成であることを考えれば、職能に着目してそれを高めることで処遇も高めるという考え方に立つことは望ましいと思います。
さてその後は1時間という短時間でもあり事務局から現状について資料の説明があったあとは一人ひとことずつ発言して終わりという感じだったようですが目についたところをひろっていくと、まず一橋の川口大司先生が所用があるということで資料説明の前に発言されて退席されたようです。

 同一労働同一賃金ということで、恐らく誰も反対する人がいない概念だと思うのですけれども、…職務が日本に比べれば比較的明確に定義されていて、中央集権的に賃金が交渉されるような形で決まっている国々だと、同一労働をしているということが比較的明確に定義できるのではないかと思うのですけれども、日本型の労働市場というものを考えると、極めて分権的に賃金決定がされている。そういう労働市場において同一労働というものをどのように定義するのかというのは、かなり真剣に自分たちの問題として考えないと、実効性のある制度をつくることは難しいのかなと思っています。
 そのような同一労働をこちらの会議でいかに定義するのか。実際に操作可能な概念をつくり上げることができればいいのではないかと思っております。

まったくそのとおりであり、要するに日本の労働市場、労使関係、雇用慣行に合った形での「同一労働」をどのように定義するかという話ですね。
次に立教の神吉知郁子先生で、最賃規制の専門家という期待なのでしょうか。

同一労働同一賃金原則は事務局からの御説明にあったとおり、本来は男女平等などに用いられてきた原則です。これを正規・非正規間の格差是正に応用する際には、格差の持つ性質の違いに留意する必要があると思います。
 まず性別という変えることのできない属性、かつ仕事と無関係な基準で賃金を決めてはならないという原則は、人権保障のための差別禁止です。…これに対して正規・非正規という違いは生来の属性でもなく、提供する労働自体に着目した区別になります。そのため、差別禁止原則は本来なじみません。実際に今、正規・非正規間に同一賃金原則を適用すべきとの主張の多くは、正規と非正規が全く同じ賃金となることまでを求めるものではありません。…これは本来的な同一賃金原則とは異なる幅をもつ概念ですので、今後の検討で注意を要するポイントだと考えます。
…正規・非正規間の格差是正には、合理的かどうかという、ある程度の幅を持った判断が必要になってきます。…戦後の日本では、職務給とは全く逆の発想で、家族を養える賃金というものを主に労働側が求めて、各企業の中で生活給の体系が確立されてきた経緯があります。賃金決定だけではなく、労働組合も多くは企業別組合です。そのため合理性の判断は、企業ごとに判断せざるを得ず、個別性の高いものとならざるを得ません。…非正規労働者が4割を占める中で、従来の賃金体系の合理性を問い直す契機が必要とされています。…企業が賃金のあり方について積極的に情報開示して透明性を高めること、これが不可欠なのではないかと思います。
…諸外国の格差是正の取り組みを見ると、多大な労力をかけて関与する労使の存在が不可欠となっています。日本でもそのような取り組みを後押しする法制度が求められていると、私は思います。

これも非常に重要な指摘で(省略部分にも重要な話がありますのでぜひ議事録におあたりください)、前段は要するに正規と非正規は違うのだから全く同じにはならないということでしょう。後段はこれは後のほうでも議論になりましたがやはり社会横断的な比較というのは難しく、企業内にとどまらざるを得ないということと思われます。最後は労使の主体的な取り組みが必要であり、法制度はそれを支援する立場にとどまるべきとの指摘と考えられ、きわめて妥当な意見と思われます。
続いてリクルートの中村天江さんですが、

…賃金を決定する大きなものに入職タイミングがありますが、入職時の市場価格の反映という論点が、現時点では見受けられません。…市場価格というものをこの議論の中でどのように捉えていくのか…。
…入職時、契約の更新時、そして昇給という3つの賃金決定タイミングにどのような対応がとり得るのか…契約更新時など、都度での昇給がないことが待遇差を生み出しています…。
同一労働同一賃金が社会から広く期待されている中で、そのことの現実性をどのように担保していくのか…法改正もしくはガイドラインの策定と…あわせて、個人の認知を…使用者の規範をどのように広げていくのか…

なるほどさすがリクルートと言っていいのかどうか。循環要因が重要であってどう取り込んでいくのか、というのは、往々にしてこの手の議論が制度面など構造要因に偏りがちな中で、非常に重要な指摘と思います。次は要するに期間比例原則の話で、大臣が職務給を持ち出したあたりをみても、このあたりが具体的な落としどころになりそうではあります。最後はあえてひねった言い方をすればいちいち裁判所に行かないと白黒つかないんじゃ商売にならないんだよということでしょうか。ちと意地悪な見方でしょうかね。
ニッセイ基礎研の松浦民恵先生はこう発言されました。

…この同一労働同一賃金の実現に向けた検討会は、先ほど両大臣からもお話がありましたように、非正規雇用で働く方々の処遇の改善が第一義的な目的であるということを、まず確認をしておきたいところです。
 といいますのも、…日本における同一労働同一賃金の議論は難しい…がゆえに意思決定に迷う局面が必ず出てくる…そういう時に立ち戻れるように、…目的を…最初の段階である程度議論しておきたい…。
ガイドラインを出したとしても、民事法である労働契約法のもとでは、結局、裁判にならないとわからないということでは十分ではない…法律との関係においてガイドラインをどう位置づけるか…。
…日本では、雇用形態の格差はもちろん…、企業規模間の格差も非常に大きく…同じ雇用主の中での同一労働同一賃金のあり方とするのか…最初の段階である程度固めたい…。
正規雇用非正規雇用かに限らず、賃金の差に対して納得できない…人たちの納得性を高めるために試行錯誤しながらつくられてきた…賃金制度が、残念なことに現状においては、それぞれの納得性を十分高められていないということが非常に大きな問題…。

どれももっともなご指摘で、最初のご指摘は議論の目的が非正規の処遇改善であるなら同一労働同一賃金の哲学的な議論はやめたほうがいいですよということでしょう。なにせ同一労働同一賃金の検討会なのでそうはあからさまに言えないというのは理解できるところですが、現実にはそのとおりだと思います。次は中村先生と同様で裁判所に行かなくてもいいようにしてほしいということで、まあたしかに労働者保護の観点からはそうだろうと思います。ただまあどこまで行っても労使ともにお互い納得できない部分というのは出てこざるを得ないようにも思われ、となると最終的には裁判所に行くしかないのではないかという気もします。もちろん紛争は少ないに越したことはないわけなのでなるべく明確なガイドラインにしてほしいとは思いますが、しかし結局は裁判所が相場をつくっていくことにはなるだろうなとも思います。このあたり、法改正されたら一仕事するぞと手ぐすね引いている弁護士先生というのがいらっしゃるのではないかと思うのですが、ちょっと旗色が悪いようですね(笑)。
次も神吉先生と同様のご意見でまあ同一企業内までしか射程は届かないということで一致しているようです。最後のところもまさにおっしゃるとおりで、まあ全員が納得するのは無理としても、なるべく多くの人の納得が得られることは企業の人事管理として非常に重要なところです。ただまあ元実務家としては制度論よりまず非正規雇用労働者とのコミュニケーションが先決だよなと思うところはあり、非正規雇用の代表を選ぶといったところから始めるのかなと言う印象です。
次が水町勇一郎先生の番で、なんとフランスからのウェブ会議でのご参加ということで、なるほどそれもあって夕方の妙な時間帯の開催になったのだな。そこでいわく、

 一番大きく申し上げたいことは、これまでの議論の中でもありましたように、ステレオタイプな議論をしないでもう少し丁寧な議論をしたほうがいいのではないかと思います。…均等ではなくて均衡の話なのかというステレオタイプではなくて、…同一労働同一賃金という問題については、ここで言う均等と均衡の両方にまたがる問題であって、こういう場合には同一労働同一賃金は均等の問題になるし、こういう場合には均衡の問題になるというような議論をこれからしていくべきだと思います。
…諸外国と日本との関係ですが、…性差別の問題と雇用形態による待遇の違いでは、…議論もやや違うという話がありましたし、…賃金制度、社会背景が大きく違うので、日本で同一労働同一賃金を議論するときには注意が必要だというような話がありましたが、これもちょっとステレオタイプで…今のヨーロッパの最先端の議論でいけば、性差別の中で使われていた同一労働同一賃金の議論が雇用形態の待遇の違いにどのように及ぼされてどのような運用・解釈がなされるかという議論がなされていますし…賃金制度についても最近、キャリア形成をどう考慮するかとか勤続をどのように評価するかという…議論がいろいろな形で発展しております。…

だからなんだというか、日本の実情を踏まえた議論をステレオタイプと一律に切り捨てて欧州フランス出羽の守という感じでしょうかね。もちろんその分野では水町先生が第一人者なので議論はすればいいと思います(聞いてみたい気はします)。他の委員のみなさんが現実的なところに落としてくれるものと期待。
ということで委員の発言がひととおりあったあとで座長の柳川範之先生がまとめに入られて、まずは

…私の理解は単純に非正規の賃金をどこまで上げられるかという議論ではないと理解しております…同一労働とはそもそも何を指すのか…ある程度合理的な幅はあるはず…とか、いわゆる日本的な仕組みの中でどのようなものを入れていけるか。あるいは市場価格のようなものをどこまでこういうものに入れていくのかなど…水町先生のお話のように、少し丁寧な議論をしながら、…専門家の方々に御意見を出していただければいいのではないかと思っています。

とまとめられた上で、ご自身の意見として、

…大きな方向性、働き方改革の大きな方向性に対して逆流するような話になってはいけない…。
…本質的にはもっと全体のパイを大きくしていく話に持っていくべきだと思っている…労働生産を上げていって、みんなができるだけ稼げるようになって、その結果として両方、それぞれの賃金が上がってくるということが…重要なところだと思っています。
…日本的雇用システム、日本的雇用慣行というものを固定的に考えてはいけないだろう…今はAIやロボットなど、…世の中が随分変わりつつある…求められる能力や働き方も当然変わってくる可能性がある…現状の仕組みや慣行を固定化させるような、…前提にして初めて成り立つようなガイドラインのつくり方…はやはり避けないといけないだろうと思っています。

いやしかし現状成り立つものでないと使い物にならんのですが。もちろんお張り切りになるお気持ちはわかりますし働き方改革もAIも大事ですが(特にAIは極めて重要だと私も思いますが)ここはそういう場じゃないでしょう。同一労働同一賃金の議論がどうあれ、それなりに実効性をもって非正規の処遇改善に現実的につながるようなものを作ることが求められているわけで、将来的な改革がどうこういうのは関係ないんじゃないかと思います。いろんなこぶしを振り上げられるのはご自由ですがここで降ろされてもねえ。
ただまあ致し方なのかなと思うところはあり、続けて事務方の岡崎厚労審議官が発言したわけですが、

…両大臣からもありましたように、一億総活躍という中で、…難しいことはわかるけれども、やはり踏み込んでちゃんとやるのだという総理の意向を受けている…ので、…もちろん日本の制度が違うことは違うのですが、違いますよねではなくて、どうやったらできるかということを前向きに検討していただきたい…。

これはもちろんそういうことで、官僚としては政治がこうやれと言った以上はそうするよりない。したがって座長としてもその方向でやるしかないという話はわかります。ただまあそこでうまく現実的な方向におさめていくというのも座長の重要な仕事のはずなんですが、どうなのかなあ。というか、そもそも筋悪な話であることは専門家であれば明らかにわかるわけでほかに座長のなり手がいなかったんじゃねえかこらこらこら、いやこれはまったくの邪推ですが。
というのも、続く事務方の発言は、

…確かに規模感の問題や賃金水準そのものの話、それから納得性など、賃金にかかわっていろいろな話がありますけれども、そこは余り拡散すると結果が出ていかないだろう…当面は日本の賃金の決め方の中で、やはり企業の中で正規・非正規に差があるというところを、ある程度基本に置きながらやっていただくほうがいいかなと。何でもかんでも議論されてまとまらないと非常に困るということもあります…。現実的に正規・非正規を念頭に置きながら、どういう部分がよくてどういう部分が悪いか。まずは考え方をきちんと実態に応じて、専門的な立場から実態に応じた検討をしていただいて…

とまあいたって現実的な要請をしておられるわけです。余計なことまで議論しはじめるとまとまるものもまとまらないと。
続く新原一億室次長の発言も、まあ威勢がよくてらしいなと思うところもあるのですが、基本的には

…目的は格差の是正であるのか…そこだけにフォーカスしているわけではないのですが、…ドイツでは8割ぐらい、フランスでは9割ぐらい。それに対して日本では5割5分ぐらいである。…そこが、この議論が出てきたときの出発点であったのは事実でございます。
…いわゆる均衡の条文というのは…まだ1〜2年しかたっていない…ヨーロッパとは明らかに歴史が違うわけで、…混乱させないためにも…ガイドラインというアイデア国民会議のほうで出てきた…。明らかに不合理な取り扱いの場合、あるいは明らかに望ましい取り扱いの場合、そういうところからは整理ができるのではないかと。…
…大企業と中小企業の格差というのは…別途、経済財政諮問会議を初め幾つか、党の研究会などでも中小企業に対する対応というところは別途議論がされておりまして、ここで議論しようと思っているのは、基本的には同じ雇用主のうちでの格差の議論ということになります。もちろん派遣の場合には派遣先になるわけですけれども、同じ雇用主の中での議論ということになるだろうと思っております。
 …日本的雇用慣行を固定的に考えてはいけないというのはおっしゃるとおりで、終身雇用・年功序列なのでなかなかできない…しかし、我々が国民会議の中で議論をしているときは、4割は非正規労働者ですよねと。一体どれくらいが本当に在来の終身雇用・年功序列なのでしょうかというところは真剣に向き合っていかなければいけないだろうと思っております。

総じて現実的ですね。要点を絞り込めば、やはり目的は非正規の処遇改善であり、実態に即した使えるガイドラインであり、企業間格差のような話をする場ではないということであり、長期雇用慣行を否定するものでもない(ただしそれに当てはまらない人が少なくとも4割近くいる)ということのようです。
ということでまあ初回でもありそれほど詳細な議論には至っていないわけですが具体論で一点だけおやと思ったところはあり、なにかというとここは松浦先生からもツッコミが入っていましたが新原氏の発言にある「もちろん派遣の場合には派遣先になる」というところで、いや法の建前から言っても派遣は職務給でなければおかしいだろう。いやこれは言い過ぎかな、派遣会社が職能給で派遣労働者に賃金を支払うのはいっこうに差し支えないと思いますし、実際技術者派遣なんかではそうなっていることが多いのではないかと思います。問題は派遣料金のほうで、派遣というのは派遣先は人ではなく仕事に対して料金を支払うという建付けになっているわけですから、やはり職務相応の料金でなければおかしいのではないか。これについては岡崎氏もこう発言しておられるのですが、

…要するに同じところで働いている。一般に直接雇用であれば「同じところ」というのは同じ会社の社員であって、パートであれ正社員であれ同じ。ただ、派遣の場合には違うところから派遣されていますが同じところで働いている…同じ職場という意味で同じだと我々は思っていて、…雇い主は違いますけれども働いている場は同じだということで御議論いただくのかなと思っています。

まあこれはこれで非常に理解できるところではあって、特に政治的要請としても、やはり個別の非正規労働者にとって気になるのは身近で働いている正社員だろうということでしょう。それはよくわかるのですが、しかし繰り返しになりますが派遣は人ではなく仕事に対して料金を払うのであり、だから事前の面接なども禁止だということになっているわけで、それが周囲の賃金水準で派遣料金も変化しますというのはやはりおかしいのではないか。もちろん派遣会社が派遣先の賃金水準を考慮して派遣労働者の賃金を決めることはご自由ですが、だから派遣料金も上下しますというのは筋が通らないように思います。
あとは今後の議論ということでしょうが、まあ大臣が職務給を持ち出してきたところをみると、(安藤至大先生が日経経済教室で書かれていたように)「明らかにおかしい」ものをガイドラインで示しつつ、並行して期間比例原則を奨励するあたりが落としどころとして意識されているのでしょうか(だとすると登録型派遣はこれが通用しにくいので難しいことは確かです)。いずれにしても法改正とかいう話になるのであればこの後の労政審で労使が加わって議論するわけで、まあ最終的にはあまり変な話にもならなかろうと思いますし、労使で議論がしにくくなるような報告を出さないでほしいと願います。