同一労働同一賃金推進法が成立の可能性?

なにやら維新が派遣法の審議に協力するのと引き替えに与党が民主・維新が提出している「同一労働同一賃金推進法案」なるものに一部修正のうえ協力するという取引が成立したとのことです。そのわりには派遣法の委員会採決はまだのようですが、それにしても「同一労働同一賃金推進法案」なるものができる可能性が俄然高まってきたわけで、さて大丈夫なのかと押っ取り刀で眺めてみようかと思うわけです。それにしても「一部修正のうえ」って維新が事前に民主にご相談したとはおよそ思えないわけでそれでも維新は与党と勝手に修正を合意してしまったわけで民主はそれでいいのかね。まあ政治というのはそういうものなのかも知らん。
そこで件の「同一労働同一賃金推進法案」ですが実際の名称は「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律案」というもののようです。法律案と要綱はここで読めますね。
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/g18701007.htm
さて法律案を見ていきますとまず目的としては「雇用形態が多様化する中で、雇用形態により労働者の待遇や雇用の安定性について格差が存在し、それが社会における格差の固定化につながることが懸念されている」ことから、「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策に関し、基本理念を定め、国の責務等を明らかに」し、「調査研究等について定め」、「職務に応じた待遇の確保等のための施策を重点的に推進し、もって労働者がその雇用形態にかかわらず充実した職業生活を営むことができる社会の実現に資することを目的とする」となっております(第1条)。次に基本理念として「労働者が、その雇用形態にかかわらずその従事する職務に応じた待遇を受けることができるようにする」「正規労働者以外の労働者が正規労働者となることを含め、労働者がその意欲及び能力に応じて自らの希望する雇用形態により就労する機会が与えられるようにする」「労働者が主体的に職業生活設計を行い、自らの選択に応じ充実した職業生活を営むことができるようにする」とうたわれています(第2条)。その上で国の責務等として、国は「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策を策定し、及び実施する責務を有する」と定め、事業主は国の「施策に協力するよう努める」、労働者は「職業生活設計を行うことの重要性について理解を深めるとともに、主体的にこれを行うよう努める」こととされています(第3条)。この責務を踏まえて政府は「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策を実施するため、必要な法制上、財政上又は税制上の措置その他の措置を講ずるものとする」とされています(第4条)。
具体的にはまず関連する調査研究の実施(第5条)が上げられていて、特に非正規から正規への転換が難しいところの事情について重点的にやれという話になっています(第5条2項)。さらに「職務に応じた待遇の確保」については「事業主が行う正規労働者及び正規労働者以外の労働者の待遇に係る制度の共通化の推進その他の必要な施策を講ずる」となっています(第6条)。派遣労働者については人事制度の共通化というわけにも参らないということか「派遣元事業主及び派遣先に対し派遣労働者の待遇についての規制等の措置を講ずることにより、派遣先に雇用される労働者との間においてその職務に応じた待遇の均等の実現を図るものとし、このために必要となる法制上の措置については、この法律の施行後一年以内に講ずるものとする」となっています(第6条2項)。今回はここの「施行後一年以内」を三年以内に先送りするということで与党と握ったという話ですね。
あとはまあ労働者が希望する雇用形態で就労できるよう採用や昇進昇格を多様化する(第7条)とか、特に非正規から正規への転換を促進する(第7条2項)とか、キャリア教育を推進するとか(第8条)いった国の取り組みが定められています。
ということでごくコンパクトな、プログラム規程中心の法律案と申せましょう。主たる趣旨は非正規雇用労働者の労働条件の改善と雇用の安定であって、その方策として正規雇用への転換が最重視されているところを見ても、正規雇用を否定するものではなく、むしろ積極的に評価するものと考えられます。
となるとまあ「職務に応じた待遇の確保」といってもその職務は相当に幅広い要素を総合的に含む概念になろうと思いますので、基本的には現行の均衡処遇の考え方と大きく異なるものにはなりそうもありません。
実際、具体的な方法論としては短時間労働者の雇用管理においては現状すでに推奨されていて多く実現もしている「正規労働者及び正規労働者以外の労働者の待遇に係る制度の共通化」であって、これをフルタイム有期契約労働者にも拡張しようというところでしょうか。ただ有期の場合は多分に労働条件がマーケットプライスで決まってくるという事情があり、あまり経験年数とかにインデックスして硬直的に「制度の共通化」を行うとかえって労働条件が低下してしまう可能性もあります(というかそういう企業に応募する労働者は少なくなるでしょう)。まあその時々の労働市場の状況に応じて初任格付けを変更するといった運用になるのでしょうか。有期の場合は賃金制度も時給制になっていることがあるわけですがこれもまあ月給でやれないこともないでしょう。
いっぽうで派遣についてはたしかに悩ましいところで、そもそも派遣法の趣旨からして派遣は職務給が建前でしょうし、さらに堅いことを言えば職務が同一なのに派遣先が違うことで賃金が異なるのはおかしいというのが正論でありましょう。もちろん個別の派遣労働者ベンチマークするのは派遣先の同僚でしょうから情においてはわからないでもないのですが、しかし派遣元の正社員である派遣労働者の賃金が派遣先が変わることで増減するというのも妙な話ではあるでしょう。そう考えるとそうそう簡単に「施行後一年以内」で整合性のある具体策を検討できるかといえばそうも思えず、ここのところで修正が必要になったのはよくわかる話です。まあ意地悪く言えばしょせん成立するとは考えずに作られているという感も否めないわけで。
いずれにしても表面的で短期的な職務ベースの同一労働同一賃金などは労使ともに望んでいないわけで、まあ非正規雇用の処遇改善頑張りましょうというものを大きく超えることはなさそうです。派遣法改正に協力するけど派遣の待遇改善も頑張ったからねと、まあ維新としてはそういう話でしょうか。政治的思惑はともかく、現実の運用は労使で賢明に進めてほしいと思います。つか本当に成立するのかなこれ。