厚労省、夜10時以降の職員残業を禁止

これはキャリアを除くという話ではあるまいな東洋経済にかまけていてご紹介が遅れましたが厚生労働省は民間に範を垂れるため10月から職員の夜10時以降の残業を原則禁止するそうです。へええええ

 厚生労働省は27日、職員の夜10時以降の残業を10月から原則禁止することを決めた。国会への対応などで深夜まで働いた場合は翌朝の始業までに10時間空ける。幹部の人事評価にも部下の労働時間の状況を反映する。
 同省は民間の長時間労働を取り締まる立場にありながら、中央官庁のなかで最も残業が多いといわれる。企業に効率的な働き方を促すためにも「まず隗より始めよで範を示す」(塩崎恭久厚労相)という。
 ただ省内には実現を疑う声もある。国会質疑の準備では、国会議員からの質問通告が前日の夜になることも多い。
 未明までかかって答弁をつくって、早朝に大臣に説明する流れを変えられるのか。国会議員の協力がカギを握りそうだ。
平成27年1月28日付日本経済新聞朝刊から)

まあそもそも夜10時というのがかなり譲歩した規制であり、さらに記事によれば「原則禁止」であり「国会への対応などで深夜まで働いた場合」も想定されているので、まあそれなりに現実的な話であって現状から大きく変わることもないのかもしれません。
いずれにしても記事もいうとおり「国会議員の協力がカギ」であることは間違いなく、とりわけ記事にも「未明までかかって答弁をつくって、早朝に大臣に説明する流れを変えられるのか」とあるとおり国会質疑関連業務がポイントになるでしょう。
これについては、霞が関で働く女性職員有志(人事院女性職員管理養成研修第1期生の11人とのこと)が昨年6月にまとめた「持続可能な霞が関に向けて−子育て等と向き合う女性職員の目線から−)という提言の資料にわかりやすい解説があります(http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/files/teigen1.pdf、21ページ以降)。ちなみに提言は10あって国会質疑は最後の10番めではあるのですが、提言に15ページが費やされているうちこの国会質疑が7ページを占めており、いかに切実な問題かがうかがわれます。
それによると、質問通告については、前日夕18:00に通告された場合には、関係部署の担当者が退庁するのが21:00、答弁の決裁が終わるのが0:00(担当ライン管理職および官房は少なくともここまで拘束)、その後資料のセットなどが終わって担当者が退庁するのが3:30、そして7:00には答弁者へのレクということで、まあこれが往々にしてありがちなパターンということでしょう。所要時間は8〜9時間ということで、質問前日の定時までに終わらせるには前々日の夕方には通告してほしいということです。実際仕事を始めるのはその翌日である質問前日の朝らしいのでその日(質問前日)早朝でもいいんじゃないかとも思うわけですが、それだと質問を作る側に深夜労働が発生してしまうという配慮でしょうか。
なお質問通告には単に遅いというほかにも問題があり、たとえばその内容があいまいなものだと関係ありそうな部署が全部待機せざるを得なくなり、結果として巻き込まれる人が増えてしまうとか、質問時間に較べて過大な質問が通告されるため作業量も過大になる(結果として作業の多くが「空振り」となる)という問題もあるようです。なるほど、別に1日で事態が変わるような案件でもないのに前日の夜になってどっさり質問を通告され、多数の関係者と調整しつつ答弁をまとめたところ実際には限られた質問時間をスキャンダルの追及に費やしてしまって準備した答弁はあらかた無駄になりましたとかいうことだとすると同情を禁じえません。
さてこれはさすがに官僚としては言い出せなかったのでしょうがもうひとつ官僚の高負荷の原因として周知されているのが質問主意書であり、両院のウェブサイトをみてみたところ昨年(2014年)は合計で688件の質問主意書が提出されておりました。もちろん質問主意書は法律で保証された国政調査権であって堂々と活用すればよろしいわけですが、しかし多分に「自分はこの問題について真剣に取り組んでいる」というアリバイづくりや「こんなに質問主意書を出した」といった宣伝売名などにも利用されているとの指摘もあるらしく、また内容を見ても時折「なにこれ」というものもあったりして、両院のサイトから質問も回答も全部見られますし時折混じる傑作には思わず読みふけってしまいますのでご関心のむきは時間のあるときに見てみるといいと思います。
さてこの700件弱というのが多いか少ないかということになりますが、これまた周知のとおりこれが大きな問題になったのは2003年に長妻昭代議士がこれを乱発した際であり、衆院予算委員会の会議録(http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/162/0018/16202070018007.pdf、28-29ページ)によれば「平成15年の、1年間の質問主意書は、共産党が36件、237ページ、社民党が50件、426ページ、民主党が152件で4,235ページ、その他の党が41件、312ページなんですが、長妻氏からは、実は77件、3,756ページにわたる質問主意書の回答を出しておるわけです」「ほかの党並みに何とかしていただきたい。たったお一人で全体の大半を占めるような請求はしないでいただきたい」(細田博之官房長官=当時)という話だったわけですが、この答弁の数字の合計が279件なので、まあ無所属が入ってないとか衆議院だけとかいう可能性はありますし内容次第でもありますが、しかし昨年の688件は決して少ないとはいえないでしょう。
なおもちろん内容次第ということもあるわけですがその点でも長妻氏は折り紙つきで、たとえば有名なもので「長妻昭 質問主意書 キャリア官僚のエリート度」とかでぐぐってみるとたくさん引っかかってくるのでやってみると良いと思います(https://www.google.co.jp/search?q=%E9%95%B7%E5%A6%BB%E6%98%AD%E3%80%80%E8%B3%AA%E5%95%8F%E4%B8%BB%E6%84%8F%E6%9B%B8%E3%80%80%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%AA%E3%82%A2%E5%AE%98%E5%83%9A%E3%81%AE%E3%82%A8%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%88%E5%BA%A6&hl=ja&gl=jp&prmd=ivns&ei=yQjLVP6LAcf98QWto4KQDA&start=10&sa=N)。なおWikipediaの記載(「質問主意書http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B3%AA%E5%95%8F%E4%B8%BB%E6%84%8F%E6%9B%B8)によれば「民主党川端達夫国会対策委員長(当時)は「国民の付託を受けてわれわれが要求することに、(官僚が)徹夜してでもしっかりと対応するのは当然だ」と発言」(強調は引用者)したのだそうですがこの人ゼンセン同盟の人ですよねえいいのかしら。
ちなみにその後民主党質問主意書は機関を通したものしか出さないという自主規制ルールを入れたようですが全体の質問主意書はさらに増え、これまた周知のとおり質問主意書のキング」鈴木宗男氏の活躍によるところであって年間1,000件を超えている年もあります。でまあ鈴木宗男氏は失職したので質問主意書も出せなくなってしまったわけですが、昨年の688件のうち百数十件は鈴木貴子先生によるものであるというオチがつきましたorz。まあこれは無所属だからできたことで、貴子氏は昨年末の衆院選では民主党から出馬されましたのでもうそんなこともできなかろうと思いますが…。
さて思わず長くなってしまいましたが記事に戻りまして、「国会への対応などで深夜まで働いた場合」には「翌朝の始業までに10時間空ける」というのは意欲は買いますしまさに「民間に範を垂れる」ということかもしれませんが本当にいいのかなあ。まあ早暁3:30に退庁して、朝の答弁者へのレクは幹部に任せるとしても13:30までは働けないわけですから午前中はまるごと休みになってしまうわけです。まあそれでも公務に支障がなければ問題ないわけですが支障があるとわれわれ国民に影響があるわけでそれも困るなという話です。
また、「幹部の人事評価にも部下の労働時間の状況を反映する」というのも、似たような話は上記女性官僚の提言にもありますし、やはりその意気やよしとするところでもありますが絶対にやめたほうがいいと思います。いやこれは理念ではなく技術的な話で、要するに質問通告の時間とか質問主意書の多寡とかいった本人にも上司にもどうしようもないことに大きく左右されてしまうわけなので、それで人事評価を行うと大きく間違う危険性があると思うからです。いや国会議員の先生方も気に入らない官僚がいたらその職場に集中的に質問主意書を投下するといいかもしれませんよ?とかいう話になってしまうわけでして…。
まあもちろんそのあたりは運用面でカバーするということでまずは範を垂れてみたということかもしれませんが、あまりご無理をされると国民に迷惑がかかりかねませんよという話でもありました。いや残業の削減自体は当然非常に大切な取り組みだと思いますが。