あれこれ

長崎から帰還しました。政治経済とは基本無縁な仕事だったので浦島太郎状態が甚だしいわけですがこの間の出来事についていくつか。

地銀64行「配偶者が転勤→転居先の地銀に再就職」

本日の日経新聞朝刊1面トップを飾りました。

 地方銀行64行は、行員が配偶者の転勤先にある別の地銀で働けるようにする仕組み作りで連携する。主に子育て世代の女性行員が使うことを想定している。全国各地の地銀は業務に通じた優秀な行員確保が共通の課題で、相互の人材受け入れ体制を整えて課題を解消する狙いもある。女性の社会参加は労働力人口の減少に直面する日本社会全体の目標にもなっている。金融界の試みが他産業の刺激になる可能性もある。

 たとえば、配偶者の転勤で水戸市に引っ越すことになった千葉銀行員を、地元の常陽銀行が雇うことなどが想定される。もともと勤めていた銀行を一度退職し、転居先から戻ったら再雇用することも検討する。
…地銀の店舗は本店のある都道府県内がほとんどだ。行員は転居先に拠点がなければ、退職するか、単身赴任を選択せざるを得ないのが実情なので、全国の地銀連携が動き出せば、女性の就労機会の拡大につながる。
 銀行にとっても、金融商品の販売や窓口業務などで一定の経験がある人材は貴重な存在だ。人手不足感が強まっていることもあり、銀行業務の経験者に対する採用意欲は強い。
平成26年10月24日付日本経済新聞朝刊から)
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20141023&ng=DGKDASDF22H0Y_S4A021C1MM8000

たいへん面白いアイデアかつ基本的にほぼ誰も損をしないしくみなので、ぜひうまく実現してほしいと思います。ただまあこのスキームが成り立つのはひとえに同一業種でスキルが共通する一方で市場では競合関係にない千葉銀行常陽銀行はほぼライバル関係にない)からであり、したがって記事がいうほどに「他産業の刺激になる可能性もある」かどうかは微妙なような気もします。それでもどうでしょう、地方紙業界とか、いくつかはあるかもしれません。

首相「年功見直しと賃上げ両立を」

これも本日の日経朝刊から。

 政府は22日、今秋2回目の「経済の好循環実現に向けた政労使会議」を開いた。安倍晋三首相は「経済の好循環を拡大するには、賃金の水準と体系の両方の議論が必要になる」と述べ、年功序列型の賃金を見直して全体の賃上げも実現するよう訴えた。…4月の消費増税後はとりわけ若年層など子育て世帯の負担増が懸念されており、会議で首相は「子育て世代や非正規労働者の処遇改善、労働生産性に見合った賃金体制への移行という大きな方向性は政労使で共通認識を醸成したい」と強調した。
…ホンダの伊東社長は「1992年に役職者、2002年に一般社員に成果型を導入し、すでに年齢によらない賃金評価制度にしている」と語った。日立の中西CEOも今秋から年功的な色彩が残っていた管理職の賃金を、仕事の役割・内容を重視する仕組みに変えた…パナソニックは管理職の年功要素をすでに排除した。育成段階にある非管理職は経験に応じた賃金を残す一方、津賀社長は「賃金配分を見直し子育て層の処遇改善につなげていきたい」と若年層の待遇改善に含みを持たせた。
 日本全体でみると年功型の賃金体系は依然残る。2013年の大卒男性の所定内給与を年齢別にみると、50〜54歳がピークで月額約53万円だ。20〜24歳と比べると2.5倍に達する。同日の会議で樋口美雄慶大教授は「子育て世代へ手厚く賃金を配分するのが少子化の解決や消費拡大につながる」と強調した。
 ただ、連合の古賀会長は会議後、記者団に対し「3社とも非正規については全く触れていないのが残念だ」と指摘した。
平成26年10月24日付日本経済新聞朝刊から)
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20141023&ng=DGKDASFS22H1Y_S4A021C1EA1000

純化すれば企業の「決め方」はすでに年功的要素をかなり薄めているのに対し、マーケット全体の「決まり方」は年功的になっているということでしょう。まあ、結局のところ年齢・勤続にともない知識や経験、ノウハウが蓄積されることで能力が上がり、より難しい仕事・大きな成果に結びつくのだとすれば、それも自然なことなのかもしれません(もちろん依然として年功的な賃金制度を持つ企業もあろうとは思いますが)。
いっぽうで年齢を重ねることで技能が陳腐化するということもありますし、企業組織の拡大が停滞する中では能力はあるけど見合った仕事がなくてねえという話も増えてくるわけなので、したがって年齢が上がるほどさまざまなばらつきが大きくなるということで、そこでは格差が拡大するような制度を各社導入しているというのが趨勢だろうと思います。
それでもなお国際比較をすると日本の賃金カーブは主要国と較べて急勾配なのは事実なので、これをさらに緩やかにする=中高年を下げて子育て世代を上げることができるのではないかと考えるのも無理もなかろうとは思いますが、わが国の長期勤続奨励的/長期精算的な労使関係にあっては急激・大幅な上げ下げは難しいわけで、結局は「年功序列型の賃金を見直して全体の賃上げも実現する」というよりは(津賀社長や樋口先生が言われているのはそういうことだろうと思うのですが)「全体の賃上げ(ベア)を実現して、それを「子育て世代へ手厚く配分する」結果として年功色が薄まる」ということではないかと思います。仮に来年の春闘で定昇2%に加えてベア1%が獲得できたとしたら、全年代一律に1%ベースアップするのではなく、子育て世代は2%(定昇とあわせて4%)、それ以外はゼロ%(定昇2%のみ)、トータルではベア1%といった配分をするわけです。ただこれは相当に漸進的な施策になるので、即座に目に見えて「少子化の解決や消費拡大につながる」とは参らないだろうとは思いますが…。
ということで首相のいう「子育て世代や非正規労働者の処遇改善、労働生産性に見合った賃金体制への移行という大きな方向性は政労使で共通認識を醸成したい」というのは、実は前半と後半がどれほど整合しているかというのが微妙なところなように思われます。世代トータルで子育て世代が子育て後世代に較べて生産性が高いと言えるのかどうかという話で、それと「子育て後世代は世代内のばらつきが大きい」という話を混同するのはまずかろうと思います。
同様に非正規労働者についても非正規労働者トータル(これも個別のばらつきは大きいが別の話)の生産性が正規労働者トータルの生産性と較べてどうかという問題があり、過去何度か書いたように両者の人事管理や労使関係の違いが大きい中では結論を出すのが非常に困難だろうと思います。それやこれやで残念ながら首相の望む共通認識は必ずしも成立しなかったのではないでしょうか。
ということで連合会長としては「非正規については全く触れていないのが残念だ」ということになるのでしょうが、しかし触れられないほうがよかったのかもしれません。

首相、配偶者手当を見直し指示

これは昨日の日経新聞で1面を飾りました。

 安倍晋三首相は21日の経済財政諮問会議で、女性の就労拡大に向けた具体策の検討を急ぐよう関係閣僚に指示した。官公庁や企業が専業主婦世帯などの職員に支給している配偶者手当を巡り、まずは国家公務員を対象に妻の年収に応じた制限の見直しを検討するよう、人事院の一宮なほみ総裁に求めた。国が率先して女性の就労拡大を促す環境を整える狙いだ。
 首相は会議で「女性の就労拡大を抑止する効果をもたらしている仕組みや慣行について国民的議論を進め見直していく」と指示した。人事院総裁には「国家公務員の配偶者手当の検討を行ってほしい」と要請した。
 国家公務員の配偶者手当は月1万3000円で、配偶者の収入が130万円を超えると支給されなくなる。民間も配偶者の収入制限を103万円や130万円に設定している企業が多く、女性の就業が阻害されているとの指摘がある。
平成26年10月24日付日本経済新聞朝刊から)
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20141022&ng=DGKDASFS21H29_R21C14A0MM8000

さすがにここまで来ると民間に直接手を突っ込むということはしないようです。まあ当然ですが。
さてこれはちょっと私も詳しくないというかほとんど知らないので世間的あるいは内部的には「配偶者手当」と言われているのかもしれませんが、話の筋とては国家公務員の手当にあるのは扶養家族を対象とした扶養手当で、したがって年額130万円以上の恒常的な所得があると見込まれる者は対象にならないとされていたと思います(まあ配偶者と子では金額が異なるのではありますが)。
したがってこれは扶養家族でないのに扶養手当を支給するという筋悪な話であって、いいですよねえ公務員は大盤振る舞いでとかいう感想は各所から出てきそうですが、現実には民間では家族手当等を支給する企業の割合は低下傾向にあります(それでも6割程度の企業が支給しているようですが企業内で対象者を絞る(それこそ管理職は対象外とか)動きもあるようなので受給人数はさらに大きく減っていると思われる)。ということで民間企業で現実に起こるのは「女性の就労を促進するために(配偶者への)家族手当は廃止します」ということになるのではないかなあ。というかそちらのほうが筋が通っているように思うのですがどうなんでしょうか。
少子化対策としては、これも例があるように、子どもに対する手当を創設・拡充すればいいわけです。ということで、民間では配偶者対象の手当を縮小・廃止する一方で子どもへの手当を増やすという方向に進むのではないかと思います。