雇用がゆがむ(2)

さてきのうに続いて週刊東洋経済の特集をご紹介したいと思います。Part1に続くPart2は非正社員となっています。
大々的に打ち出された見出しは「法改正で雇い止め 遠い正社員雇用」というもので、まず改正派遣法が取り上げられて、

…雇用安定措置は実際に機能するのだろうか。
「おたくで無期雇用して派遣してもらうわけにはいきませんか」
 法改正が報じられて以来、派遣各社には企業からの問い合わせが相次いでいる。もし派遣会社が労働者を無期雇用していれば、期間制限なしで同じ人を活用できるためだ。
 だがそれは派遣会社にとっては、「従来のフロー型からストック型へと、ビジネスモデルを抜本転換するような話」(大手派遣会社幹部)であり、「対象者は登録スタッフの1割もいない」(別の大手派遣会社幹部)とされる。同様に契約終了後の雇用安定措置としての無期雇用化も、ほとんどの派遣会社ではかなり限定されたものになるだろう。
(前日と同じ、p.61)

そこから改正労契法に発展し、

…改正労契法に基づく無期契約への転換は、127万人の派遣労働者を含む約2000万人のパートタイマーや契約社員などの有期雇用者全体にかかわる問題だ。改正労契法の狙いとは反して、派遣のケースと同様に、有期雇用契約の更新の上限を5年とされる懸念が大きい。
 人事関係者の間では、「通算5年には産休・育休期間も含まれる。直前に権利行使されるリスクを防ぐため、3年半をメドに雇い止めしておいたほうが無難」とまでささやかれている。直接雇用のリスクを企業が感じ始めたことも、派遣の増加見通しを裏付けている。
 正社員の長時間労働が常態化している一部のサービス業を除き、企業は有期雇用といういつでも雇い止めできるオプションを死守したい。…
(同、p.61)

あれこれと具体的な事例なども交えつつ、こう結論付けています。

…全就業者に占める非正社員の比率はすでに4割に迫る。人口減が進む中、人材という希少な、しかも競争力の源泉となる資源の半分近くを、不安定な環境にさらし枯渇させる余裕が、この国にあるのだろうか。
(同、p.62)

そんな余裕ありませんと言えるようにしなければならないということでしょうねえ。そういう意味で、アベノミクスが人手不足状況を作ったことは非常に有意義だったと思います。民主党政権下のように「何重苦」などと言われて、企業が活動する上での悪条件を放置したり、さらには条件を悪化させたりするような政策が行われていたわけで、それでは企業も「もうこの国ではビジネスをやっていけなくなるかもしれない、人材も必要なくなっていくだろう」と考えるのは致し方のないところだったでしょう。この特集では経産省がいたく悪者にされているようですが、しかし現実には(経産省が概ねその方向に向かっている)企業活動を活発化させる政策こそが、結局は雇用の安定や処遇の改善につながっていくということだと思います。
そのうえで改正派遣法についていえば、まあ派遣業者の動きが慎重なのは致し方のないところではありましょう。派遣社員というのは派遣業者にとっては最重要の経営資源なのであり、この人は常用にしても常時十分派遣先が確保できるだろうと思えば常用化するでしょうし、常用化しなければもっと条件のいい派遣会社に行ってしまうだろうと思えば、やはりなんらかの方策を考えるでしょう。常用化というものはそんな形で進んでいくのではないかと思います。技術者の派遣は多くの場合各社とも常用でやっているわけですし。
改正労契法のほうは、もともと想定されていたというか、懸念されていた話で、現実にどうなるかはこれからの推移をみてみないとまだわからないでしょう。ただ、いよいよ5年を超えるというときの経済状況の影響を大きく受けるであろうことは十分に想定されますので、無期化でなければ雇い止めという二者択一ではなく、有期のまま継続就労できるオプションをなにか考えたほうがいいようには思います。このあたり、とにかく無期化をはかることが雇用の安定につながると考えるか、有期でも雇い止めを回避(して次のチャンスを待てるように)する方が雇用の安定につながると考えるかによりそうです。
なお、こんな事例が出てくるのですが、

…今年2月、オリエンタルランドのレギュラーショーやスペシャルイベントに、長年パフォーマーとして出演してきた男性ら8人が労組を結成した。彼らが出演していたアトラクション「マーメイドラグーンシアター」がリニューアルされるとして、所属会社が3月末日での雇い止めを通告してきたためだ。
 30代から40代の男性たちは勤続7年から17年になる。17年働く男性(43)は、「仕事が面白いので続けてきたが、まさかアトラクションのリニューアルを理由に辞めさせられるとは」と憤る。労組の団体交渉の申し入れに対して、オリエンタルランドは「使用者に該当しないので、交渉応諾義務はない」としている。
(同、pp.62-63)

東京ディズニーリゾートのウェブサイトをみるとパフォーマーは1年契約の直接雇用になっているようですが、アトラクションによってはまるごと外部に制作委託しているようなものもあるということでしょうか。
そのあたりがよくわからないのでなんとも言えないのですが、普通に考えればオリエンタルランドに団交を申し入れるというのはさすがに筋違いのように思われ、そこを記事にするのはポイントを外しているなと思います。形ばかり子会社になっているけれど事実上O社の一部門であって法人格を否認できるというなら話は別かもしれませんが、これまた普通に考えて他のエンターテイナーは直接雇用しているのですからここだけ別会社化することはないでしょう。
それでは所属会社はどうかとなりますが、団交は当然応諾しなければならないでしょうが、17年間勤続した人をアトラクションのリニューアルを理由に雇い止めできるかというのは微妙なようにも思われます。リニューアルですからショーの内容も相当程度変更になるのでしょうが、それでもベテランのパフォーマーであればお稽古をすれば演技可能だということであれば、たしかにそれで雇い止めはあまりじゃないかという話もありそうです。
いっぽうで、リニューアル後は彼らが出演していたようなショーはなくなる(たとえば映画上映に変わるとか)ということであれば、パフォーマーというのは相当にプロフェッショナルな専門職でしょうから、まあ雇い止めも致し方ないのかという感じはします。あるいは東京ディズニーリゾートには類似のショーなどがほかにあるだろうからそちらで雇えというのが上記団交申し入れの趣旨かもしれませんが、やはり筋違いというものでしょう(というかそれでタマツキではじき出されるエンターテイナーが出てきたらどうするんだという話もあり)。
さてそれはそれとしてこの事例が興味深いのは、こういう仕事がジョブ型正社員になじみやすいのではないかと思うからです。ジョブ型であれば、これこれのショーのパフォーマーとして雇用され、その仕事ができる限り雇用されますが、仕事がなくなれば当然に退職するということになりますので、なにも1年(?)契約有期にする必要もないわけです。
また、東京ディズニーリゾートがエンターテイナーを1年有期にしているのは、年1回オーディションを実施して契約更改の可否を判断し、ショーの技術水準を維持したいとの意図もあると思われます。これについても、ジョブ型正社員は雇用契約締結時に明確化しておけば、オーディション不合格を理由とする解雇は可能ということになるでしょう(オーディションの判断基準がヘチマとかいう話は別途ありますが、どう判断するにせよジョブ型正社員と有期の更新とは考え方が同じ、ということになるでしょう)。
それでもまあ正社員ということになれば多少の退職金制度も作りましょうとか、それなりにメリットも出てくるでしょうし、ぜひ普及させたい考え方だと思います。
特集はさらに生活保護や外国人にも及ぶのですが、今回はここまでにして明日以降は新ネタを考えます(笑)