有期のいる職場の管理監督職

ダイヤモンドオンラインに、「ワークス研究所の労働市場最前線」というリレー連載記事があります。今日、その第10回として戸田淳仁研究員の「有期労働者を活用していくために現場のマネージャーが担うべき役割とは」が掲載されましたが、たいへん興味深い内容を含んでいるのでご紹介したいと思います。
http://diamond.jp/articles/-/12416
まず、有期契約従業員には10年を超えるような長期間働いている人がいる一方で大半は勤続3年以下であること、それにもかかわらず有期従業員・事業主双方が(有期のまま・無期への変更とわず)長期に勤続したい・してほしいと考えていることが、データを元に示されます。続けて雇い止め法理が説明され、事業主が雇い止めを無効とされるリスクを回避するために通算勤続や更新回数の内規を設けて予防的に雇い止めを行っていることが、有期従業員・事業主双方が希望する長期勤続を阻害していることが説明されます。
続いて、事業主としては要するにいざというときに無効の疑問の余地なく雇い止めができればいいのだろうということで、裁判所がそれを判断する際になにを考慮しているかを調べています。

 過去の裁判例104件を分析した結果、雇い止め無効の判断に影響を与える要因として、以下の点が挙げられる。以下の点を満たしていれば雇い止めが無効と判断されにくくなる。

  1. 契約更新前に面談等があり契約内容について確認した。
  2. 同じ仕事内容を担当している正社員がいない。
  3. 従業員が契約更新されるという期待を持たせるような企業側の発言等が見られない。
  4. 雇い止めをしたときに新規に非正社員を雇っていない。

 これまでの判断基準をもとに、仮に上記の4つの事項を守った場合、雇い止めが無効になる確率は1割弱と推計された。また、上記すべてを守らないと8割以上の確率で雇い止めが無効になることがわかった。
 そして、分析の結果、興味深いことに、契約更新回数の多さという要因は、雇い止め無効の判断に影響を与えないことが分かった。つまり、雇い止めにかかわるリスクを回避するために、契約更新回数に制限を設ける企業がみられることを紹介したが、これまでの裁判例をふまえると、契約更新回数に制限をかけるだけでは、リスク回避につながらない可能性が高い。
(※引用者注:要件の記載について引用者にて「・」を連番に変更しました)
http://diamond.jp/articles/-/12416?page=5

ということで、契約更新時に面談等で雇い止めがありうることを説明したり、正社員との仕事内容を区別したり、「がんばって働けば更新されるよ」などと安易な動機付けをしないようにしたり…というのは基本的に現場のマネージャーの役割であって、これをきちんとやることで有期労働者を繰り返し契約更新して活用できる…という記事になっています。
全体としてたいへんもっともな内容で、リクルートの研究所らしく現実に即した記事だなあという印象です。追加的なポイントをいくつか書いてみたいと思います。
まず雇い止めが有効とされる要件が4つ抽出されていますが、だいたい労務管理のテキストにあるような内容といえそうです。1.がいいかげんだったのが平安閣事件で最高裁が雇い止めを無効としています。カンタス航空事件では3.がダメで雇い止め無効とされました。これら2点は他の事件(旭川大学事件、ロイタージャパン事件等々)の判決でもたびたび判断の理由となっています。4.についてはそもそも雇用調整のために雇い止めするわけですから新たな雇い入れがあるのは明らかにおかしく、それがあったからなんでという話になったのが東芝柳町工場事件というところでしょうか(以上判例・裁判例はいずれも他の要件・事実を総合的に勘案して判断しており、私の記載はかなり簡略(いいかげんともいう)ですので為念)。
ちょっと気になったのが2.で、まあ仕事や職域が別々になっていれば期間の定めのない契約と同一視されにくいだろうというのはよくわかる話ですが、しかし有期従業員にとってこれがいい話かどうかは微妙な感があります。正社員との差異を明確にすればするほど、有期労働者の職務は定型的で比較的付加価値や技能水準の高くないものに固定されがちになるのではないかと思うからです。それで長期間勤続してもキャリアへの貢献はかなり限定されたものとならざるを得ないでしょう。むしろ、有期であっても正社員に近い仕事を長期継続することでスキルもキャリアも向上し、処遇改善や正社員登用の道が開ける…というほうが従業員にとって望ましいとも思えます。このあたりになると現場マネージャーとしてはそうは言っても雇い止め可能性担保の要請との両立は困難ということになってくるわけですが。このあたり、現在進行中の労働条件分科会の議論も、有期けしからんではなく、有期従業員のための議論をしてほしいと思うところです。
更新回数があまり関係ないというのも実はよく知られていて、龍神タクシー事件では初回の期間満了での雇い止め(一度も更新されていない)であっても無効とされていますし、亜細亜大学事件では21回(22年)更新した後の雇い止めが有効とされています。それでも多くの企業で内規で3年・5年といった勤続の上限が設けられているのは、私が想像するに労働基準法の有期労働契約の上限を参照して「1回の契約で最長3年まで認められるのだから、それ以下なら正社員と同等といったことにはならないだろう」というただのオカルトに基づいているのではないかと思うのですがさすがにそんなことはないでしょうかね。要するに違うんだぞということをはっきりさせて管理しているということで。いずれにしても戸田氏は更新回数のみに言及していますが、勤続年数と判決との関係も知りたいところではあります(いやあまり関係なかろうなとは思うのですが)。
ということで、有期従業員の勤続の長期化(これは有期従業員の多くが希望するものであり、かつ有期従業員のスキル・キャリアの向上を通じて処遇の改善にもつながるもの)を進めるには、更新回数や勤続期間の如何にかかわらず期間満了にともなう雇い止めは当然に有効となることを明確化することが望ましいと考えています。まあ後任の新規雇い入れをしていないこととか、人員削減の一定の必要性とかを求めることはあっていいと思いますし、これこれこうなったら雇い止めということを事前に予定しておくことを求めるという考え方もあるかもしれません。こうなると、期間の定めをしないが、退職の要件を定めておくことでそれに該当した場合には疑問の余地なく退職とする、という契約を認めるのとあまり変わらないような気もしますが。